育成会議② 後編

「それは良い!

 うちは馬ばかりだが、たまには森での訓練も必要だ。

 特に変異種ならば森の脅威の訓練も兼ねられるし、願ってもない機会だ」

「そういうことならば、森での訓練を兼ねて参加したい!」

「レナードさんのところに行ったことがありますが、あそこは牛もコッコも放し飼いで、しかも牛舎も鳥舎も魔物対策がしてあるため、そこに逃げ込めば万が一の時も安心ですね」

「牛も連れて行けるならば、うちも参加したい」

 うちと伝書屋を除く業者が賛同した。

 伝書屋は訓練場所があるため、特に参加はしないそうだ。

 うちは小型種しか今は居ないし、魔性植物や魔素も豊富にあるから特に恩恵は感じない。

 ただレナードさんには感謝してもし切れない程の恩恵を受けている。

 うちで役に立つことならば、いつでも協力したいと思ってはいる。

 この案件は、まずは冒険ギルドで運用してからということに決まった。

 業者側は参加可能な日程を洗い出すことにし、業者が世話に参加する時には、馬車の手配と1日分の冒険者の日当を参加費として負担することになった。

 冒険者の仕事内容が、留守番をしている動物の生死の確認と、敷地内の異常の有無、餌やりだけのため、妥当な金額ではということになったらしい。

 レナードさんのところの世話が終わった後の訓練の付き添い費用も込みではあるが、足りない分は冒険ギルドが負担する。

 その一部はレナードさん本人からの依頼料として請求するらしい。

 無償だと受け入れてくれないだろうからと。

 本当に義理堅く、謙虚であるにも関わらず、素直な努力家の好青年なのだレナードさんは。

 本職ではないのに、幻獣使いという高度なスキルまで取得している。

 その理由が、全ての善良な動物や幻獣達を適切に治療してあげるには、会話が欠かせないという高尚なものだ。

 幻獣使いや動物や魔物を保護する冒険者の中では、人間以外にはレナードの薬が一番だと評判らしい。

 だからレナードさん家の留守時の世話という依頼を、誰も引き受けないということはないだろうと冒険者ギルド長が太鼓判を押した程。

 とにかくこうしてレナードさん不在のまま、変異種育成計画は着実に成果をあげながら進んでいる。

 その一方で懸念材料も段々と浮き彫りになって来た。

「さて最終議題だが、これは早急に各自で対策を考えて欲しい。

 まだきちんとした根拠がないため、ここにいるメンバーと関係者以外には、はっきりとした情報は出していない。

 だが、確実になんらかの情報が漏れている節がある。

 まだどの程度の情報か分からないし、出処もここにいるメンバーと関係者であるかも分からない。

 だが、安易に流されて良い情報ではないため、改めて対策を強化したい。

 まずは各自で持ち帰り、漏洩防止策を自分のところと、全体で共有する分を考えて来て欲しい。

 次回の会議で共有部分を決議したいと思う。

 その前に各自がどのように対応をしたか発表する。

 対策が出来たところから、商業ギルドの担当部署へ提出に来て欲しい。

 そこで問題点があるかその場で検証させていただく。

 出来るだけ早くお願いしたい。

 全てが揃い次第、緊急に招集するので時間を作って、必ず責任者1人は出席してくれ」

 今はこの計画もきちんとした根拠が分からないまま進めているため、大きな成果はないが、確実に効果を感じている。

 今後しっかりしたデータと共に公表する日が来るだろうが、その前に出来る限り悪用されないように、今の内から考えないといけない事は当然だと思う。

 これも商業ギルドと冒険者ギルドという、二大ギルドが関わっているからこそ早く気付けたのだろう。

 もう少し具体的な検証が進めば、参入する業者も団体も増えて行き、中には王族や貴族の息がかかったグレーなところがごり押し来るに違いない。

 その前にルールを作り、出来る限り健全な運用が出来るように、我々植物園も真剣に対策を考えなければ!

 問題は職員アイツらがどこまで真剣に考えてくれるかだな。

 思考の波に埋れている間に会議は終了していた。

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