3-7-④ 緑のヘビと節制の部屋
「これで最後だ。行こう。」
そう言ってキールが最後の扉を開く。
キールに続いて3人も扉の先の空間へと足を踏み入れ、最後の戦いが始まった。
部屋に入ったキールは、視界に飛び込んできた光景に驚きで目を見開く。
そこには、大量の緑色の身体をくねらせる蛇たちが4人を待ち構えていた。
《shaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa》
蛇たちは一斉にキール達の方を見ると耳障りな声を上げて迫ってくる。
キール達も各々の武器を構えて大量の蛇を迎え撃つ。
「くるぞっ‼」
キールが剣で蛇の頭を断ち切る。
すぐさま次の蛇がキールに迫り、再びキールによって切断される。
「こりゃあキリが無さそうだ。」
そう言ってヴァラキも槍を片手に短剣を振るう。
緑の蛇単体は非常に弱く、これまで3つの部屋を攻略した4人にとっては難なく処理できて。
「それにしたって量が多いな。」
モンタックもそう言って盾で受け止めた蛇をメイスで仕留める。
エッツェルもまた、華麗な身体捌きを見せつつ淡々と蛇達を仕留めていた。
とめどなく迫る蛇。4人はその圧倒的な物量に、防戦一方を余儀なくされるのだった。
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戦闘開始から数十分後、4人の表情には疲れが見えていた。
どれだけ迫る蛇を倒そうとも、一向に蛇の量が減っている様子がなかった。
「これはどうなってるんだ。」
「倒しても倒しても一向に減らねーぞ。」
げんなりとした表情でヴァラキがぼやく。
明らかに4人の体力が奪われ始めており、ジリ貧の戦況となりつつある。
「どっかにリーダー格の奴とかいねーのか!?」
ヴァラキがそう言って何度目かの蛇を対処する。
キールもリーダー格がいるのではと思い探していたが、それらしき影は見当たらなかった。
戦闘スタイル的にヴァラキとモンタックは効率が悪く、状況を俯瞰する余裕はなさそうだった。
「仕方ない。」
キールはそう呟くと、蛇達を無視して部屋の反対側へ駆け出す。
蛇達はキールを追い、さらにキールの動きに気付いた他の蛇達がキールを挟み撃ちにするように正面へと回り込んでくる。
「チッ」
キールは舌打ちをしつつも、その場でしゃがみ込むと蛇達を掻い潜る。
その時、殺到する蛇達の身体の隙間から、
「見つけたぞ‼」
思わずキールが叫び、他の3人がキールの方に目を向ける。
「何かあったか?」
モンタックの叫びに、キールが嬉しそうに頷く。
「ああ、蛇の攻略法が分かったぞ。」
「本当か!?」
「こいつら全部、尻尾はおんなじ所に繋がっている。その根元に、魔石があった。」
「そうか‼」
キールの報告にヴァラキが声を上げる。
会話をしつつも4人には相変わらず蛇達が襲い掛かっている。
「そしたら、こいつらにかまってないで、とっとと根元を叩こう。」
「ああ。ただ、奴らも魔石に近づこうとすると一斉に囲んでくるぞ。」
「そうなのか。そりゃきついな。」
そう言いつつ、ヴァラキの視線は今も蛇達の攻撃を躱すエッツェルに向けられてる。
ヴァラキはキールに視線を送って、頷く。キールにもヴァラキの意図は伝わっていた。
キールは蛇達を処理しながらエッツェルに近づく。
エッツェルはそんなキールの意図を察して近寄ってくる。
「お嬢さん。お願いがあるんだ。」
「分かっています。根元の魔石を突けばいいんですよね。」
「そうなんだ。引き受けてくれるかい? お嬢さん。」
キールがそうエッツェルに耳打ちする。
エッツェルは少し上目遣いでキールを見つめる。
「エッツェルです。」
「へ?」
少女が発した言葉の意図が分からずキールは気の抜けた声を出す。
エッツェルは器用に蛇を処理しながらも、変わらずキールを見つめる。
「だから、私の名前はオジョウサンじゃなくて、エッツェルです。」
そう言うエッツェルの表情に変化はないが、頭の狼耳がピコピコと動いている。
キールもようやくエッツェルの発言の意図を理解する。
「すまなかった、エッツェル嬢。」
キールがそう言うとエッツェルは満足げに頷き、一気に駆けだしていく。
そんなエッツェルの後ろ姿をキールは困惑の表情で見送るのだった。
「ふふっ」
部屋を駆けるエッツェルは小さく笑う。
彼が自分の名前を呼んでくれたことが、何故か凄く嬉しかった。
エッツェルは急停止と急加速を上手く使い、華麗に蛇の攻撃を躱していく。
獣人特有のステップと身体能力、そして持ち前の勘を駆使し、エッツェルは一気に蛇達の根本へと接近していく。
蛇達も、他の3人をそっちのけでエッツェルへと殺到する。
エッツェルは余裕の表情でそれらを次々と躱しては魔石へと着実に近づく。
「すげえな。」
ヴァラキがそんなエッツェルを見て小さく感嘆を漏らす。
それほどまでにエッツェルは異次元の動きを見せていた。
「あともう少し。」
キールが小さく呟く。
エッツェルは魔石まで1m程の所で急停止すると、そのまま垂直に跳び上がる。
エッツェルのいた場所に蛇達が殺到し、その上をエッツェルが華麗に跳躍する。
上空で一回転したのち、エッツェルの剣先が魔石を捕らえる。
「さよなら。」
そんなエッツェルの呟きと共に、部屋を支配していた蛇達は消滅する。
光の粒の中で、エッツェルは無表情で魔石を拾い上げるのだった。
3人がエッツェルに駆け寄る。
そんな3人の笑顔を見て、エッツェルは少し寂しそうに微笑むのだった。
▽ △ ▽
最深部の部屋に戻ると巨大な狼が4人を迎える。
そのサイズは既に大人2人分ほどの高さになっていた。
「お前もすげえ成長したな。」
そう言ってヴァラキが狼をつつく。
狼は少し嫌そうな表情を浮かべるが、もはや抵抗はせずに受け止めている。
「よし、最後の魔石を嵌めて部屋を出よう。」
キールはそう言ってエッツェルに視線を向ける。
エッツェルと目が合い、キールは優しく微笑んで頷く。
「この魔石は君が嵌めるべきだ。」
キールの言葉を受け、エッツェルは扉の前に向かう。
エッツェルは扉の前に行くと、その場で少し立ち止まって考えるように扉を見上げる。
その肩は、少し震えていた。
それに気付いたキールが近づこうとした瞬間、エッツェルが振り向く。
エッツェルは魔石をポケットに仕舞い、3人に剣を向ける。
「なにを、、」
「近づかないでっ‼」
キールがエッツェルに近づくと、エッツェルはそう叫んで3人を睨む。
その瞳には涙が潤んでいた。
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