3-7-③ 赤き獅子と正義の部屋


「、、うぅ、、、。」


キールが目覚めると横で眠っていたエッツェルの声が耳に入る。

エッツェルはうなされるように眠っており、その傍らには狼が寄り添っている。


「大丈夫、大丈夫。」


キールはおもむろに眠るエッツェルの頭を撫でる。

するとエッツェルは少し落ち着いたのか、次第にスウスウと寝息を立てて眠るのだった。


▽ △ ▽


しっかりと睡眠をとり休息した4人は第3の扉となる赤い扉の前に立つ。

「正義」と書かれた扉にキールが手を掛け、他の3人を見る。


「行くぞ。」


それだけ言ってキールは扉を開く。

キールに続いて3人も扉の先の空間へと足を踏み入れるのだった。



扉の先には前回までと同様に広い空間があった。

空間に入った4人の目の前には1頭の巨大な赤い獅子が鎮座していた。


《Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa‼》


赤い獅子は4人を一瞥すると咆哮を挙げる。

次の瞬間、ふわりと浮くような感覚がキール達を襲う。


「な、、、!?」


気付いた時にはキールは1人になっており、通常サイズの赤い獅子がキールを見ている。

他の3人の行方も気になるが、まずは目の前の敵を何とかしなければとキールは剣を握りしめる。


「ざあ、勝負だ。」


キールはそう言ってニヤリと笑うのだった。


その頃、他の3人も各々1人となって赤い獅子と対峙していた。

ヴァラキ、モンタック、エッツェルはそれぞれの戦い方で獅子に挑んでいく。


------


赤い獅子は炎魔法をキールに飛ばしてくる。

キールも負けじと炎魔法で応戦し、互いに一進一退の攻防を繰り返す。


とはいえ、先程までのモンスターと比べて獅子単体の攻撃能力は低く、キールは余裕を持って戦うことができていた。


「そろそろお遊びはお終いだ‼」


キールはそう言うと一気に赤い獅子に接近する。

接近の勢いそのままにキールは獅子に体当たりすると、一気に剣を首元に突き立てる。


赤い獅子も応戦しようと爪を立てるが、それがキールに届くことはなかった。

獅子は光の粒となって消滅し、その場には魔石の破片が転がっていた。


「一番楽だったな。後は他の3人がどうなっているかだが、、、」


キールはそう言って魔石の破片を拾い上げる。

魔石を眺めたキールは悠然とした足取りで部屋へと戻っていくのだった。


▽ △ ▽


「一番乗りかな?」


部屋に戻るとまだ誰も部屋には居なかった。

狼はさらに大きくなっており、部屋に戻ってきたキールに視線を向けてくる。


「どうした? 俺が戻ってきて不満か?」


キールがそう言って笑うと、狼はそっぽを向いてしまう。

結局キールはそのまま部屋で狼と共に1人で待機することにして、3人の帰還を待つことにした。



「おかえり。」


次に現れたのはヴァラキだった。

時間的にはキールの数分後、槍を片手にヴァラキが部屋に戻ってくる。


「先を越されたかー‼」


「いや、数分の違いだったよ。」


ヴァラキはキールを見るや否や、悔しそうに叫ぶ。

そんなヴァラキにキールは少しホッとした気持ちになる。


「お、次はお嬢ちゃんか。」


ヴァラキが戻った直後にエッツェルも姿を現す。

エッツェルも特に怪我をした様子もなく、それを見てキールは再び安堵する。


「やっぱりコイツでかくなっているよな。」


ヴァラキがそう言って狼を指さす。

狼はいつの間にかキールが部屋に戻った時よりも大きくなっていた。


「不思議だな、、、」


キールもそう言って狼をじっと観察する。

狼はそんな2人の視線を気にせず、エッツェルに近づいては身体を摺り寄せるのだった。


さらに数分後、モンタックも部屋に帰還し、全員の無事が確認できた。

キールは胸を撫でおろし、他3人を称える。


「全員戻って良かった。」


「たりめーよ。それより、ちゃんと魔石は拾ってきたか?」


ヴァラキがそう言って魔石の破片をかざす。

4人の破片を合わせると、ちょうど他の魔石と同じサイズになるようになっていた。


「それじゃあ、1人づつ溝に嵌めこんでいくか。」


キールはそう言うと自分の破片を溝に嵌めこむ。

それに続くようにヴァラキ、モンタックも溝に魔石の破片を嵌めていく。


「最後はお嬢ちゃんだな。」


ヴァラキがそう言ってエッツェルに微笑む。

キールもエッツェルを溝の前に誘う。


「ここだよ。」


キールに指さされた溝を見てエッツェルが頷く。

エッツェルが手を伸ばし最後の破片を溝に嵌めこむ。


その手は少し震えていた。


「大丈夫。安心して。」


エッツェルはキールの言葉に頷いて魔石を押し込む。

その瞬間、1つになった赤い魔石が光を放ち、再び反対側の壁に文章を浮かび上がらせる。


「完璧で無欠なる正義など存在しない。ならば己が正義をを行い、それによって苦しむしかない。」



残すは最後の扉のみとなった。

“節制”と書かれた文字の下にある緑の扉にキールは視線を向けるのだった。

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