2-4 港町と急襲
ローランとキールが話している頃、デウラは城下の港町にいた。
白髪の混じった黒髪を束ね、黒装束を身に纏い、朱色の柄をした刀を備えるデウラは、黒い布で口元を隠してニヤリと笑う。
「戦闘は久々だな。」
首を鳴らしてそう言うデウラの瞳はギラギラと輝いている。
ローランの右腕として戦場を駆けた老兵は、今も主人の懐刀として暗躍する。
足音を立てずデウラが道を進むと、1つの宿屋の前で立ち止まり、おもむろに扉を開ける。
「いらっしゃいま、、、」
宿屋の男が近づくや否や、デウラは男に短刀を突き刺す。
「やはり見ない顔だな。」
男はそのまま絶命し、その場に倒れる。
デウラは近くに立掛けられた剣を掴むと、そのまま階段を登り2階へと向かう。
2階には5つの部屋があった。
デウラは無造作に目の前の扉をノックする。
「どうした?」
部屋の中から声が聞こえ、足音が近づいてくる。
デウラは少し足音を待つと、そのまま剣を扉に突き刺す。
「ぐっ‼」
部屋の中から呻き声が聞こえ、デウラは剣を扉から引き抜く。
剣からは血が滴っており、デウラは手応えを確信する。
同時に、呻き声に反応し、他の部屋も騒がしくなる。
「何かあったか!!」
右隣の部屋から声がし、足音が大きくなる。
デウラは何も言わずに隣の部屋の扉の前に向かうと、再び剣を突き立てる。
「3人目。」
さらに最初の部屋の左隣の部屋の扉が開くが、デウラは焦る様子もなく短刀を取り出す。
扉を開けて顔を出した男は額に飛んできた短刀を受けて、敵を視認する間もなく絶命する。
「あと2人。」
ものの数分で4人の間者を始末したデウラは残りの2つの扉を開ける。
しかし残りの部屋に間者の姿はなく、縄で縛られた宿の主夫婦がいただけだった。
「逃げられたか。」
デウラは開け放たれた窓を見て憎々し気に呟くのだった。
戦闘の終わった宿屋にはデウラの部下達が続々と集まり、惨劇の後を拭い去っていく。
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港町での騒動から数日後、キールは部屋から城下を見ていた。
既にキールの肩はシアの献身により完全に回復しており、キールは目的なく城に残っていた。
「この先どうすべきか、、、」
長兄のリチャードが即位したことはキールの耳にも入ってきていた。
父親殺しの汚名を着せられた以上は帝国に戻ることは許されない。
「うーむ、、、」
キールは小さく唸ると港町の先に見える海を眺める。
麦わら帽子を被った少女が城から赤い屋根の広がる港町へ向かう道を歩いているのが見えた。
「住み込みのメイドかな? それにしても良い景色だ。懐かしくもある。」
海の向こうから現れる帆船を見て、キールは小さく呟く。
その時、ローランが扉を開けて部屋に入ってくる。
「おう、キール。肩は治ったみたいだな。」
「ありがとうございます。お陰様ですぐに治りました。」
キールはローランに肩を回して見せる。
ローランは少し満足げに頷くと、キールを港町の視察に誘う。
特に用事のなかったキールは気分転換もかねてローランの誘いを快諾した。
ラグクラフト公爵城下の港町オルフルンは古い石造りと赤い屋根の続く美しい街である。
街は漁業と貿易で栄えており、キールとローランが訪れた市場は海産物や交易品の売買で大いに賑わっていた。
「初めてのはずなんですけど、なぜか懐かしい気分がします。」
「そりゃあ、キール殿が小さい頃に一度来ているからな。」
「そうだったんですね。あまり覚えていませんでした。」
「まあ、幼い頃のことだからな。ウィリアヌスと2人で一週間くらいはいたはずだ。」
キールは賑わう街を眺めながら、自身の記憶を辿る。
幼い頃にみた記憶に微かに残る美しい景色は、確かにこの街の特徴ばかりだった。
緑生い茂る草原、、並び立つ赤い屋根、真っ青に広がる海と空、黄色一色に染まる花畑。
「キールッ‼」
突如、ローランが声を上げる。
キールがハッとして前を見ると、10m程先に自分に向かって魔法を詠唱している男がいた。
間に合わない、そう思ってキールは目を瞑るが、魔法がキールに届くことはなかった。
「、、、え?」
目を開けたキールから声が漏れる。
キールの目の前では不思議な現象が起きていた。
キールを中心に発生した円形の透明の膜のような物が魔法を防いでいた。
男の放った魔法はバチバチと音を立てるが、やがてその場で消滅する。
「、、、これは、アンチマジック・シールド」
ローランがポツリと呟く。
アンチマジック・シールド。それは全ての魔法・魔術を封じる守護魔法。
かつて伝説のドラゴンが宿した、術者の魔力の限り続く特級魔術。
それがキールを守った不思議な現象の正体だった。
驚きも束の間、キールに魔法を放った刺客が脱兎のごとく逃げ出す。
「デウラッ‼」
ローランが叫ぶと、人混みからデウラが現れ刺客を追いかける。
キールはローランに守られるように城から乗ってきた馬車に戻るのだった。
▽ △ ▽
「なんなんだよっ!!」
キールを襲った刺客は逃走しながら小さく吐き捨てる。
後ろには黒装束を着たラヴクラフト公の家来達が軽い身のこなしで迫っている。
「全然簡単な仕事じゃないじゃないか」
刺客は上官の命令を安請け合いした過去の自分を恨む。
とにかく安全に逃げ延びなければと考え刺客は全速力で港町を駆け抜ける。
・・・そもそも部下たちが何者かに襲撃された段階で難しい仕事になるのはわかっていた。
金で雇った若者は生意気のにも命令を無視して居なくなり、挙句の果ては魔法が効かない不思議なシールドに驚いて2度目の攻撃の機会を逸してしまった。
「魔法は使えないはずじゃなかったのか」
迫る状況に愚痴を言いながら刺客は逃げる。
黒装束の男達は街への被害を気にしてか攻撃こそしてこないものの、追いつかれるのは時間の問題だった。
刺客は現状の打開策を求めて周囲を見回す。
その時、刺客の視界に1人の少女が映る。
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