森をさまよう勇者

むかしむかし


魔王を討ち世界を救った勇者様がおりました。


彼は華々しく故国のみやこへと凱旋し、


かの王はその功績を称え、


人々はその栄誉を賛美しました。


それからの勇者は王国から豊かな年金と


身の回りを世話する、

王国でも選りすぐりの使用人たちを受け取って


暮らしていました。


勇者、いえ、元勇者は


これらの使用人たちや


自分を褒め称える人々に囲まれ


楽しく愉快に年を召してゆきました。


こうして年月を重ねてゆくうちに


元勇者に使命を授けた王は身まかり、


元勇者の功績を知る人々も次々と世を去り、


使用人たちもまた襲名を重ねていきました。


しかしながら勇者自身は、


さすが魔王を討った身で御座います。


相も変わらず壮健そのものでした。


そしてある朝のこと


使用人どもが元勇者を起こそうとしたところ、


彼はこつ然と姿を消していました。


これはたいへんと彼女たちは大慌て。


急いで近所の人々に行方を尋ねます。


町の人々に聞いたところ、


梨の礫でありました。


しかし町の外れに住むある農夫は


朝早く、畑の隣にある森へと消える人影を見たと言います。


果たして


使用人たちは元勇者を見つけだしました。


彼女たちが元勇者に急に家を空けた理由を聞いたところ、


彼はこれから魔王を討ちに行くのだと申すではありませんか。


彼女たちは彼が冗談を言ってるのかどうか判断がつきかね困った表情をしていると


元勇者は、


そんなに暗い顔をしなくても大丈夫だ、すぐに、かの邪悪な魔王を討ち取ってみせます


と頼もしく胸を叩きました。


使用人たちは当然戸惑いました。


しかし勇者様、


貴方はもう既に魔王を討っているではありませんか


と確かめても


そんなはずはない、


魔王の命によって


親が殺され


子が連れ去られ


人々が悲嘆を暮れているのを


私は知っている


と言います。


無理やり連れ帰そうにも


その強靭な身体相手に


自分たちが敵わないことは


その面倒を見てきた使用人たちには


よく分かります。


結局使用人たちは詮方無く


勇者が森に消えるのを黙って見送ることしか出来ませんでした。


いま再び勇者となった元勇者がどこで何をしているのか、


未だ森をさまよい続けているのか、


魔物に狩られ討ち死にしてしまったのか、


はたまた再び魔王を討ち果たしたのか、


それは誰にもわかりません。

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令和のおとぎ話 平蘭子 @liaodong_hanto

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