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「すごいじゃん。もう80越えてる」
漸く暑さに陰りがみえはじめた頃、シオリはフィオンの端末に表示された数字を見て感嘆の声を上げた。
「ちょっと前までスコアの伸び悩みを気にしてた人と同じとは思えないねー」
「私も正直驚いてます。まさかこんなに上がるなんて」
「ふふ、やっぱり
シオリの目線の先には一冊のノート。だがそれはシオリではなく、フィオンのものだ。
そこに
「フィオンが絵を描くのにそこまでハマるとは予想外だったよー」
「その、なんていうか先輩の小説を読んでたら出てくる人たちを絵にしてみたいなあと思って」
ノートをどう使うか、自分がしたいことを考えた結果、フィオンはイラストという結論にたどり着いた。シオリが小説の続きを読ませてくれることも相まって、フィオンは次々にキャラクターのイラストを描いていった。
そしてそれに比例するように、フィオンのスコアも急上昇していった。
「みんなびっくりしてました。いきなりすぎて端末の故障って疑われたくらいです」
「あはは、まあ理由は言えないもんね」
フィオンの絵もシオリの小説も、二人だけの秘密だった。見つかれば怒られてしまう。だが同時に不思議でもあった。これでスコアが上がるなら、みんなが好きなことをやれるようにしたらいいのに、と。
「このまま上がり続けたら、フィオンも好きな職業を選びたい放題かもねー」
選び放題。そうなると逆に困ってしまうかもしれない。だけどこの調子で上がり続けたら満点も夢じゃないかもしれない。そうフィオンは妄想する。
「それにしても、そこまで上手くなったなら卒業後の進路はイラストレーターでもいいかもしれないね」
「イラストレーター……?」
「そ。人物とか風景とか、イラストを描くことを仕事にしてる人のこと。興味出てきたんじゃない?」
「そう、ですね……」
たしかに絵を描くのは楽しい。それを仕事にできたらきっと幸せなんだろう。だがそれは、目の前の少女にも当てはまることだった。
「じゃあ先輩も、もしかして小説を書く人になりたかったり……?」
「うん」
シオリは頷く。ウェーブのかかった指でいじりながら。
「そうなれたらいいな、とは思ってる」
その姿は、いつになく照れ臭そうに見えた。その背中を押してあげたい。フィオンは純粋にそう思った。
「先輩ならきっとなれますよ」
「えっへへー、そうかなー?」
「はい! この前見せてもらった続きもすごく面白かったです。まさかあのメッセージが横からじゃなくて縦に読むものだったなんて」
「そうなんだよー。自分で思いついた時、これだーって思って」
シオリは得意げに笑う。最近になって気づいたが、話題が小説のこととなると笑顔がひと際明るいものになっていた。
「フィオンも、描いてて何か気づいたことがあったら遠慮なく言ってね。小説に反映させたいから」
「あっ、それじゃあここなんですけど――」
フィオンたちは夢中になって話をする。
それこそ、消灯時間ギリギリになって危うく寮監に怒られそうになってしまうほどに。
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