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「続き、一体どうなるんですか?」


 共同浴場から上がって部屋に戻ってきたばかりのシオリに、フィオンはそう詰め寄った。


「あー、私の書いたやつ?」

「はい。私、気になって気になって」


 シオリの小説が書かれたノートを受け取ってからまだ一日しか経っていないが、フィオンはあっという間にそれを読み終えていた。

 二転三転する展開に、残された謎。彼女の小説はミステリーと呼ばれるジャンルのそれだったが、初めて小説に触れるフィオンにとっては当然そんなこともわかるはずもない。理解できるのは、自分がこれに引きこまれたという感覚だけだった。


「もちろん、続きはあるよ――私の頭の中、だけどね」

「あ、頭の中ですか?」

「うん。書こうにも、書くものがないからねー」


 シオリの言う通り、部屋は机とベッドがあるだけの殺風景。学校の教室も同様だった。タブレットにもメモ機能は備わっているが、小説そんなものを書いていれば寮監や教師に余計なこと・・・・・をしているとして間違いなく怒られ、評価も下げられる。


「そこで、フィオンにお願いがあるんだけどー」

「お願い……?」


 オウム返しするフィオンに、最近すっかり見慣れてしまった悪戯いたずらっぽい笑みをシオリは向けて――




「ただいま帰りました……」

「おっかえりー」


 数日経った夕方。ふらついた足どりで部屋に戻ったフィオンに、シオリはひらひらと手を振った。


「どうだった施設外学習? 初めて外に出るから楽しかったでしょー?」


 施設外学習――卒業後に外に出て生活することを見すえて、施設外の工場などの職場を見学するそのカリキュラムは、八年生が受けることとなっていた。

 つまり、フィオンたちにとっては非常に重要なイベントである。だが、


「それどころじゃなかったですよ。先輩からのおつかいをバレないようにするのに必死でしたもん」


 言うと、フィオンは制服をぺろっとめくってお腹にしまったおつかいの品――五冊セットのノートとシャープペンをシオリに渡した。施設外学習の間、隙を見て文具店で購入してきたのだ。

 ちなみに支払いはシオリからもらったプリペイドカードで行った。『レプトケファルス』はお金の支給はないので持っているはずがないのだがシオリ曰く「昔に廊下で拾った」とのことらしい。


「いやー悪いね」

「いいですよ。これで続き、書いてくれるんですよね」

「もっちろん。私も書きたかったんだよねー」


 ウキウキとした様子で包装をはがす。すると、シオリは一冊だけ受け取り、残りをフィオンに返してきた。


「はい。これはフィオンが好きに使うといいよ」

「でも私、先輩みたいに物語なんてかけませんよ」

「大丈夫だよー。誰だって最初は初めてだし。それに、私と同じことをする必要はないよ。それを使って、フィオンがしたいと思ったことをすればいいんだから」

「私の……?」


 私のしたいこと。ぽつりと、フィオンは心の中で反芻はんすうする。


「それじゃあ私は早速続きを書くから、フィオンは夕食までゆっくり休んでてー」


 シオリはノートを広げて机にかじりつく。


 そしてフィオンは残ったノートをぎゅっと抱きしめると、ベッドにたおれこんだ。

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