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「先輩は、どうやって高いスコアを保ってるんですか?」


 授業を終えて自室に戻った後。宿題を片付けてタブレット端末から顔を上げたフィオンは、隣に座るルームメイトにたずねることにした。


「どしたの急に」

「先輩ってずっと90越えてますよね。私、測定が始まってからずっと50前後を行ったり来たりで……勉強とかもがんばってるのに中々上がらないんです」

「スコアねー。別にいいんじゃない? たかが数字なんだし」

「そうはいきませんよ。スコア次第でここから卒業した後の進路が大きく変わってくるんですから」


 彼女たち『レプトケファルス』にとってスコアとは、一種の評価指標だった。学業、運動、職業訓練の成績に加え、普段の素行。更には手首に巻かれた端末で計測される心拍数や血圧などの様々な身体的数値。それらを総合的に計算し、0から100までの値で数値化する。成績が良ければ、あるいはバイタルの急激な変化が少なければスコアは上昇するとされている。

 それだけならただの目安に過ぎないが、スコアはもう一つの使われ方があった。


「このままのスコアじゃ私、進路の選択肢が限られる気がして」


 それは――彼女たちが卒業後にく職業の適性を示すための指標だ。


 フィオンは息を吐く。具体的にどれくらいのスコアでどんな職に就けるかは定かではないが

「スコアが高いほど選択肢の幅は広がる」と寮監や教師からは言われていた。であれば平々凡々な今のスコアではそれに見合った職業適性が示されるだろう。

「フィオンは、何かやりたい仕事があるの?」

「あ、いえ。その、はっきりとは……」


 目標があるから、というより漠然とした不安に近い感情によるものだった。


「でも今からなんとかしなきゃと思って。それで、スコアがトップクラスの先輩にコツとか教えてもらえないかなって」

「トップクラスかあ、照れるなあ」

「もう、私は真剣なんですってば」


 フィオンが半眼を送ると、シオリは締まりのない笑顔から初めて会った時のような柔らかな笑みへと表情を変える。


「コツってわけじゃないけど、自分が好きなことをするのがいいかなって私は思ってるよ」

「好きなこと、ですか?」


 考えたこともなかった。フィオンは目をしばたたかせる。ここでの生活は将来のために勉学や運動に励むもの、それ以上でもそれ以下でもなかったからだ。


「それじゃあシオリ先輩にはあるんですか? 好きなこと」


 訊くと、シオリは一瞬考え込むような仕草をしてから、


「誰にも言わないって、約束できる?」

「え?」


「約束できるなら、見せてあげる」

「は、はい。約束します」


 フィオンはすかさず首を縦に振る。何かは見当もつかなかったが、好奇心が勝った。


「よーし」


 すると、シオリは机の引き出しに手を伸ばす。タブレットと手首の端末しか持ち物がないフィオンたちにとって、中身は空っぽ、ただの飾り・・・・・でしかない引き出しを。


 だが、そこにはあった。一冊のノートだった。


「開いてみて」


 シオリから受け取り、ゆっくりと表紙をめくる。

 目に飛び込んできたのは――びっしりと書かれた文字。


 それは、彼女が自作した小説だった。

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