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『レプトケファルス』とは国が保護し、教育をしている子どもの総称だ。


 それは少子化対策の一環だった。少子化が叫ばれて数十年、あらゆる対策を講じるも今一つ効果が出ない中、政府はあるデータに目をつけた。

 あるデータ――所得の少ない人口帯では出生しゅっしょう率が高いにもかかわらず望まない妊娠、出産が多いこと、同時に虐待ぎゃくたいなどが多発し子供が命を落とすケースが増えていること。


 そこでとられたのが、そういった貧困層で生を受けた子どもたちを、産まれた直後から政府が管理下に置くことだった。全国各地に施設を整備し、一つの施設に数百人の子どもを収容する。満六歳になれば併設された小中一貫の教育施設で教育を受け、そして15歳――昔で言うところの中学校を卒業した後、彼らは社会へと出ていく。


 その結果、この国の少子化はようやく歯止めがかかったという――



「このことからもわかるように、あなたたちはこの国の宝なのです。それを誇りに思い、感謝して生活するように」


 月曜日。朝食後の食堂で寮監が挨拶を終える。週に一度行われる朝礼これは、フィオたちが物心ついた時から行われていた。

 朝礼後は各々おのおの部屋に戻って準備をし、学校へと向かう。といっても寮に併設されているため『通学』という概念はここには存在しない。


「50n」

「え……は、はい」

「すぐに返事をしなさい。今日あなたは日直でしょう。遅れないように」


 久しぶりに番号・・で呼ばれて50nは――フィオンは一瞬戸惑う。最近は部屋では名前・・で呼び合っていたからだ。


 言われてフィオンは早歩きで階段をのぼる。一瞬三階で止まりそうになったが慌てて方向転換。

 八年生になって数日、そろそろ慣れなきゃ。さらに階段を上がって自室へと向かう。

 そして勢いそのままに扉を開くと、


「あ」

「ん?」


 フィオンと、中にいたシオリの声が重なる。部屋に入ったらルームメイトがいた。何もおかしいところはない。


 彼女が下着姿であることを除けば。


「わっ、す……すみません!」


 自分史上最速で背を向けるフィオン。反対にシオリはからからと笑っていた。


「やーごめんねー。横着おうちゃくして鍵かけるの忘れてたよー」

「わ、私こそノックもしないですみません」

「いいよいいよー自分の部屋なんだから。っていうかそんなに気にしなくていいのに。ルームメイトだし、女の子同士なんだし」

「きっ、気にしますよ」

「なんならもうちょっとよく見る? フィオンにだけ特別だよー」

「か、からかわないでください」


 ちなみに、シオリが身につけている下着は制服と同じく施設から支給されているものなのでフィオンと色も全く同じ白の無地。だというのに何故だかシオリが着けていると全然別物に見える気がした。


「あ、あんまりドキドキさせないでください。先輩だって知ってるでしょ? 急激な心拍数の上昇はスコアに悪影響なんですから」


 フィオンは左手首の端末を見る。幸いにも数字は『47』とわずかな変化に留まってくれていた。


「あっははー、ごめんごめん」

「もう……。私、日直なんで先に行きますね」

「はーい、行ってらっしゃい」


 にぎやかな朝。これが、学年の上がったフィオンの新たな日常だった。

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