前世で結ばれるはずだった私達。なのに、あなたの顔が思い出せない
とみっしぇる
第1話 私達は出会ったのだ
私は舞子。
ちょっと、ひねくれてるけど、正常範囲の高校2年。今は9月で新学期スタート。
顔普通。胸、少しだけ人より大きい。身長159センチ。ボブカット。
友達も普通にいて今、学校帰りの駅。
「舞子、なにぶつくさ言ってるの。また前世の話?」
「もう、それ言わんで、マリア」
私には、前世の記憶、あると思う。
付き合いが長いマリアには、小学生1年のとき、いきなり記憶が蘇った瞬間を見られている。
きっかけ?
ドッジボールしてて、ボールが顔面に当たったの。
そんで私、農村の娘ヨネにジョブチェンジ。
「オラ、なんでこんなとこ、いっぺか。なあ、おキクどん」
マリアに、そう言ってしまった。
鼻血、泥だらけの顔、うつろな目、謎の言動。
小1のクラスメイトに、笑いの種をふりまいてしまった。
前世の記憶は、一気に16歳まで蘇った。
江戸時代、九州、農村・春木村、同世代の人間。鮮明に。
そして、隣村のタロウと結婚が決まった。
そこまで細かく思い出したのに、そこから先がない。
肝心のタロウが思い出せないんだよ。
結婚したのかよ、そしてエッチはしたのかよ。
現代で彼氏いない歴17年の私を置き去りに、色んな経験してんのかよ。
肝心なことだけ、思い出せないのよ。
ちなみに、前世の記憶を語り過ぎて、不思議ちゃん扱いもされた。
それで、ちょっとグレた時期もあった。
今は、絶対に自分から話さぬ。
前世の記憶、異世界転生ならともかく、役立たない。
遠足で、野草にやたら詳しくて、みんな驚いた程度。
あと、田植えのタイミングを占うのもバッチリ。
だけど都市部の暮らしで役立たねえや。
◆
「ねえ、舞子ってば」
「・・はっ」
「江戸時代から現代に戻ってきたね、大丈夫?」
「うん大丈夫」
「今さ、彼氏からメールあったの。舞子、男の子に会ってみない?」
「な、なんなん、いきなり」
「彼氏のバイト仲間にも、前世持ちって人いるんだって。同級生だよ」
そんな繋がりの男友達なんぞ、いらん。
「前世は、春木村の隣の、秋田村出身のタロウだって」
「え・・・えええ?」
「・・そんで、婚約者が春木村のヨネさん。すごくない?」
マリアは彼氏には、私が前世持ちってことだけ言ってる。
だけど、内容は江戸時代の人物だったとこまで。出身地や名前は、明かしてないそうだ。
ノーヒントで合致。
驚きすぎて、言葉がまともに出ない。
「マリア、あ、あ、あの」
「会ってみたいのね」
◆◆◆
2日後の金曜日夕方、ダブルデートの形で会った。
マリア160センチ、細面の美人。彼氏シュウイチ、178センチのイケメン。
駅前の噴水公園。紹介された私達。
胸だけマリアに勝ってる私が出会った。
173センチ、こぎれいに整えた髪、少し細い目のフツメン。
「あんたが、舞子さんだね・・初めまして」
「翔太さんね。初めまして」
約300年前、春木村に住んでた私を妻にするはずだった彼。
2人とも16歳までしか思い出せない記憶。だけど、先のことを思い出せば、きっと結婚しているのだろう。
長き時を経て、再会して・・・。
あれ?
向こうも、あれれ?
「何も、思い出せん・・」
10年以上も望んでいた16歳から先の前世の記憶。2人とも、蘇ってこなかった。
「どうなの、何か思い出した? 舞子」
「翔太、どうよ、運命の再会か?」
マリアとシュウイチが期待度マックス。
翔太君が口を開いた。
「ちょっと、舞子さんと話させて欲しいかな」
2人で苦笑い。
一緒にメクドナルドに入った。マリア達は、普通にデートに行った。
前世を思い出し、抱き合う2人を期待してた、アイツら。
すでに私達に興味がなくなった。
「俺の村から見て東側に、猫が頭を左側にして寝そべったような山があって、向こうが春木村だったな」
「あー。その山、私の村の西側。猫の頭が右だった。その向こうが秋田村」
間違いない。私達はやっぱり、山を隔てて反対側に住んでいた。
転生、同じ年、生きてた時期の年号も一致。
やっぱり私達は、関係があったんだ。
それにしても・・
「2人のときの記憶が思い出せねえ」
「私も。どんどん記憶の中身が鮮明になるのに」
当時は、16歳で結婚するのは普通だった。なぜ、肝心な部分が思い出せない。
翔太も同じ気分。その日は、連絡先を交換して別れた。
◆◆
記憶は、次々と蘇っていった。
学校は違っても、位置は距離にして2キロ程度。週に2回は会って、2人の記憶を取り戻すために、色んな話をした。
ただお互いのことが、思い出せない。
出会って2か月近くたった10月の終わり、翔太がタブレットを持ってきた。
「舞子、これって、俺らの村を隔てた山じゃないかな」
「あ、本当だ」
地名を見た。九州の南部に近い場所。
行ってみたい。そして翔太と私、いや前世のタロウとヨネが、どんな生活をしてたんだろう。
生活・・
「一緒にご飯を食べて、翔太との子供も作ったのかな」
む、翔太と子供を作る?
私、なにげに、すごいこと言った。
作り方は、セで始まってスで終わるアレ・・
私達、いずれは、2人でシた記憶を思い出すのかな。
頬がカ~ッと熱くなる。
翔太も、気付いた。
私達は、前世の話ばかりしてない。普通に、今のお互いの話もする。
翔太と音楽の趣味も合う。こいつ、かなり優しかったりする。
前世の夫婦だからか、波長も合う。
前世は関係なく、一緒にいると楽しくなってきている。
翔太の顔を見る。ちょっとドキドキしている。
翔太が真っ赤だ。きっと私も赤い。
舞子と翔太でドキドキ?
それともヨネとタロウに引っ張られて、こんなに胸が高鳴ってるのか・・
私達の春木村と秋田村は、今の街から1日で行って帰れってこれる場所ではない。
行くのは断念したけど、この日から翔太を意識しはじめた。
向こうも、そんな感じだ。
前世の話が縁。そんな繋がりなのに、映画に行ったり、普通のデートみたいなこともした。
マリア達とダブルデートもした。
「あんたら、仲良くなるの早かったね」
「そりゃ、前世が夫婦だったんだろ。もっとくっつけよ、翔太」
以前の私なら、余計なお世話と言うだろう。
今、違うよ。
奥手な翔太の背中、2人でガンガン押してくれって感じ。
◆◆
もうすぐクリスマスイブ。
私達は、当たり前のように、会う約束をした。
何かが、喉につっかかった感じ。お互いに付き合おうって言ってない。
翔太が好きになった。
前世の記憶。
きっかけは、間違いなくそこ。
変な親近感を感じて、最初から遠慮なく話せた。
だけど、今は違う。
「そんなものに引っ張られたくないよね」
翔太が漏らした言葉が、ちょっと嬉しかった。
前に夫婦だったから、その続き。そんなんじゃない。
令和の日本。翔太と舞子で新たな物語を紡ぎたい。
クリスマスイブ。
学生同士だから、お茶を飲みながらプレゼント交換する。
決戦は、その後。
公園に行く。
彼が言ってくれれば、即OKで付き合う。言ってくれなければ、私から告白する。
必ず、前世なんて関係ないって言おう。
◆
待ち合わせ場所に着いた。
多くのカップルが周りにもいる。
大通りを隔てた、道の反対側に、目的のお店はある。
「翔太、待った?」
「待ったぞ、舞子」
お約束から、信号待ち。
ドキドキしてきた。
告白大会は、推定で1時間後なのに、緊張してる。
青信号に変わった。1歩踏み出した。
・・その手・・
翔太に引っ張られた。
「舞子、危ない!」
車、信号無視、ぶつかる?
死、死ぬ、いや、前世の私は、死んだ・・
ごうっ。私のすれすれを車が通りすぎた。
翔太が力一杯に私を抱き寄せ、一緒に倒れた。
「舞子、怪我ないか!」
「あ、あ、ありがと、翔太。無事だったよ・・」
親切な人達に起こされて、翔太と2人で公園に行った。
そう、前世の記憶が完全に戻った。
「私、さっきのショックで思い出した」
「・・俺も」
「あー、そっちもなんだ」
沈黙のあと、翔太が言ってくれた。
「前世から通じて、初めまして舞子」
「初めましてだね、翔太」
「お、俺と付き合って下さい。好きになりました」
「もちろんOKだよ。ホント嬉しい」
なぜ、私達にお互いの記憶がなかったか。
答えは単純。
会ったことがなかったのだよ。
江戸時代なんて、祝言の日に婚姻相手に初対面なんて、よくあることだった。
ヨネとタロウ、つまり舞子と翔太の前世もそんなカップル。
ところが、祝言の前夜に2人とも死んだ。
タロウは前祝いで初めて酒を飲み、川に落ちた。
ヨネは傷んだ魚を食べて、食中毒でポックリ。
「俺が、舞子を好きって気持ち、前世のタロウに引っ張られた訳じゃなかった。よかった~」
翔太自身の、好き。それをもらえて、私も心から嬉しいと思えた。
そんでコイツ、私を好きってまた言った。
えへへへ。
ドラマチックな前世持ちじゃなかった私達。
顔を見合わせて、笑いが込み上げてきた。
ひとしきり笑ったあと・・
キスした。
ヨネさんとタロウさんには、お礼を言わなきゃ。
私達が出会うきっかけをくれて、ありがとう。
前世で結ばれるはずだった私達。なのに、あなたの顔が思い出せない とみっしぇる @kyontama
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