4.ナメクジ爆撃機

「んで、おっさんは公民館で何を見たんだよ?」


 オレは先程からスコップで穴を掘っているおっさんに呆れながら聞く。

 おっさんが自身の目撃したことを語りだしてからこの有様だ。


「ほっ!ほっ!Hooooooooo! マサキちょっと黙っておれ!今ワシはシェルターを作っているんじゃ。これが出来たら核も怖くないぞ! さぁ、冬のパン祭りはすぐそこじゃあぁぁぁぁ!」


 ダメだ話が全く通じない。

 おっさんの奇行はエブリデイだが、今日はいつにもまして酷い。


 そもそも、おっさんが一心不乱に掘っているのはオレの家の庭だ。

 今オレの家の庭はおっさんにより、穴ぼこになっており、これはまるで集団墓地でも作ろうとしているのではあるまいか。


 クソジジイが帰ってくる前にこれをどうにかしないと確実に厄介なことになる。いや、クソジジイはともかくとして、ばーちゃんに怒られるのはかなりマズイ。

 この前、クソジジイがばーちゃんの逆鱗に触れた際などは、クソジジイは全身を縄で拘束された状態で、ばーちゃんにムカデを食べさせられ続けていた。


 クソジジイが白目を剥き、泡を吹きながら全身くまなくムカデを突っ込まれている様子はとてもおぞましく、しばらく悪夢としてオレを恐怖のどん底に叩き落した。

 今思えば、クソジジイがさらにおかしくなったのはあそこからな気がする。


 ともかく、ばーちゃんに怒られるのは非常にマズイのだ。


「おっさん、穴を掘るのとっととやめて掘った穴を埋めてくれよ! このままばーちゃんが帰ってきたらオレ廃人になっちゃうって」


「これが穴を掘らずにいられるか! いいか!スコップの鉄分はリコピンなのだ!それを忘れ、火星の引力に魂を轢かれた人間たちの遺体が聖体なのだ! 故に真理でありキャロライナ!」


「言ってる意味がわかんねえよ!」


 ダメだ、全く話が通じない。

 いつも話は通じない方ではあるが、ここまで話が通じないのは珍しい。


 ――もしや、おっさんは本当に非日常的なナニカを目撃したのではないだろうか?


 おっさんは一心不乱に穴を掘り続けている。

 このまま話し続けても埒が明かない。


 そう思ったオレは、おっさんが持ってきた美少女のイラストが施されたヌンチャクで思いっきりおっさんの頭を殴打した。


「なんとかなれぇーー!」


「暴力反対ッ!」


 そう叫んだおっさんは白目を向いて倒れたので、オレは冷蔵庫に向かい、残っていたGAY:RE・GAY:RE-KUUNゲイリー・ゲイリークーンの最後の一本を袋から取り出すと、おっさんの口に勢いよくねじ込んだ。


「目ェ覚ませェ!」


 すると、おっさんは直角90度で勢いよく立ち上がり、GAY:RE・GAY:RE-KUUNゲイリー・ゲイリークーンを食べだした。


 その様子はかき氷機みたいで、チリンと風鈴の音色が聞こえたような気がした。


 ――あぁ、今年も夏が来たなぁ。


「すまぬ、マサキ。ワシは正気を失っとった」


「いや、いつも正気じゃないだろ」


「照れますな」


 おっさんは頬を赤らめ、体をくねくねさせている。

 これがくねくねか、ならばオレは今から目を潰さなくてならない。


「んで、おっさんは何を見たんだよ?」


「あぁ、どこまで話したかのぉ……むっ? 伏せろ!マサキ!」


 おっさんはそう叫ぶと同時に、至近距離で凄まじい爆発音がして、オレは軽く吹き飛ばされた。








「痛ってェ……」


 どうやら吹き飛ばされた時に膝を擦りむいてしまったようだ。

 目を開けると庭が爆発によってさらに穴ぼこになっていた。


「なんだこれ……」


「大丈夫か、マサキ!?」


 おっさんがオレに駆け寄ってくる。


「オレは大丈夫……おっさんは?」


「ワシは無事じゃよ。この抱きまくらがあって助かった。ムーチュッ!」


 おっさんは抱きまくらにキスをした。

 おぞましい光景に吐き気を感じたが、今はそんなことはどうでも良かった。


「ムッ!? マサキ!あれを見ろ!」

 おっさんは天を向けて指差す。


 すると、空には羽の生えた巨大なナメクジが天を仰いでいた。

 ナメクジは体を震わせると、地上に粘液を撒き散らしながら、大量のナニカを産み落とした。


「アレは……?」


 産み落としたナニカ、それは小さな……と言っても小型犬サイズのナメクジだった。


「わぁー、きれー」


 あまりの光景に語彙力を失ったおっさんだったが、すぐに険しい目つきになった。


「マサキ!今すぐここを離れるんじゃ! 走れ!」


「え?」


おっさんは切羽詰まった表情でオレに叫ぶ。


「いいか! あれはナメクジ爆撃機! 先程の爆発も全てあのナメクジのせいじゃ!」


とうとうオレも頭がおかしくなってしまったのかもしれない。




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