序 その2

 地上最強。

 人類の何パーセントかは、生まれてから一度は憧れる勲章。あるいは称号。

 そのうちのほとんどは、単なる憧れに終わり、さらに憧れで済まさなかったものたちも、たいていはどこかで諦める存在。ごくごく一握りの限られたものだけが、実際に挑戦を許されるステージ。そして最強と呼ばれる地位を勝ち取ったきわめて希有なものどもも、ほんとうに地上最強であることを証明する方法など、実はどこにもない。最強の定義が困難、というより実質的に不可能であるからだ。いま称しうる最強は、いずれもルールの決まった競技や体重別のクラス分けなど、ある特定の条件下においての最強でしかない。

 肉弾戦で一番強かったものが最強に決まっている、というごく単純な考えにおいても、完全にルール無しの果たし合いは難しい。そしてルールがあれば、そこには有利と不利が生まれることになる。ではルールがなければ良いのか。するとそれでは果たし合いに終わらず、殺し合いになってしまう可能性が大きい。しかし殺し合いになるのだとしたら、肉弾戦を行う意味が薄くなる。自分が死なずに相手を殺せば勝ち、となるのであれば、武器を使わぬ理由がなくなってしまうからだ。武器があれば、より容易に、確実に相手を死に至らしめることができる。すると今度は、どんな武器であれば良いのか、という難しさが生まれる。棒や棍など、刃が付いていないものに限るのか? それとも刃物も許可するのか? それなら弓矢はどうなのか。さらに、銃器類は許されるのか?

 どれほど強い格闘家にとっても、相手が完全に戦いの素人であってさえ、明確に自分を殺す気で拳銃を持った相手に勝つことは容易ではない。それが自動小銃になればなおのこと。さらに軽火器から重火器、もっといえば兵器を有する相手にでもなったら、もうそれは戦いにすらなりにくい。その考え方を突き詰めると、最大火力の兵器を使用できる者が最強、たとえば核ミサイルのボタンを押せるものがもっとも強いのだ、といった答えすら導き出しうる。しかしそんな最強が、ほんとうに地上最強といえるのか。

 そうしたジレンマにとらわれつつも、多くの最強を目指すものたちは、たいてい何らかの格闘技に道を定め、努力を重ねる。その道を究めんとすれば多くの分野と同様に、いくら努力したところで報われるとは限らない世界だが、それでも自らと、また他者との戦いを繰り拡げ、肉体と精神の血のにじむような鍛錬に身を投じていく。

 しかし、そんな努力をまったくしていないのに、ある日突然、最強の称号にふさわしい超人的な強さを手に入れてしまったものがいたら。しかもそれが、喧嘩にも格闘にもまるで縁のなかった、ごく一般的な中学生だったとしたら。

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