2/14 バレンタインは心臓に悪い
「…これでよし!」
2月13日、バレンタイン前夜。恋する乙女たちが好きな人に向けて手作りのお菓子を作ったり、準備をする日。
しかし、私には既に彼氏がいる!すなわち勝ち組なのだ!ハーハッハッハッハ!
…あ、ちょ、ほんとごめんなさい。
まあそんなこんなで、今は彼氏に渡すためのお菓子を作っている最中なのだ。少し味見をしてみたが、予想以上にいい出来になっていてびっくり。これは柊(しゅう)君にも喜んでもらえそう。そんな風に考えながら、準備したお菓子を冷蔵庫に入れ、私は眠りにつくのだった。
「いやー、俺今日の放課後部活ねえし暇なんだよなー」
「あーお腹いてぇ。しばらく教室戻ってこれねーなー」
棒読みの演技をする男子たち。いや、どんだけチョコ欲しいんだよ。バレンタインに貰ったチョコはステータスとかどっかの誰かが言ってたような気がするけど流石にそこまで執着するだろうか。いやまあ、する人はするのか。とは言っても僕には全くわからない感性だな。
などと考えていると
「柊くーん!」
瞬間、背後から誰かが抱きついてくる。
「ちょっ、緋夏。TPOくらいはわきまえようよ」
「え〜、別にいいじゃん。周りもそんな気にしないって」
「今日に関しては絶対皆気にするから。一旦離れよ?」
「む〜。私柊君とずっとくっついてたいのに」
「緋夏?その発言はほんとに駄目。敵たくさん出来るから」
ほんとに僕の彼女は怖いもの知らず過ぎる。非リアのリア充を見る目がどれほど恐ろしいかしらないのだろうか。
…あ、紹介が遅れた。僕の名前は聖凪 柊(あきな しゅう)陰キャ側に属している一般的な高校生だ。そして彼女の名前が鈴夜 緋夏(すずや ひな)誰とでも明るく接するすごく優しい女子高生。数ヶ月前まで僕らは友達だったのだが、クリスマスに僕が告白し、見事に成功。そこから付き合うこととなったのだ。
「…で、緋夏?いつになったら離れるの?」
「え?一生離れないけど?」
なんでなんのためらいもなくこの空間でそんな事言えるの?
「とりあえず、カバン背負えないからどっちにしろ離れてもらわないと困るんだけど」
「ちぇー」
やや不服そうな表情で離れる緋夏。その表情がすごく可愛くて思わず頭を撫でそうになったが、流石にここは教室の中なのでやめておくことにした。
「それで、どうするよ」
「ん〜。とりあえずついてきて」
緋夏がそう言って、僕の前を先導するように歩き始める。教室を出て数歩歩いたところで突然立ち止まり、何かを思い出したかの様にして僕の元にきた。
「ん?緋夏、どうかしtー」
瞬間。僕の左手が緋夏に取られ、そのまま恋人繋ぎが出来上がる。
「ふふっ。やっぱこうでなくちゃ」
そういった緋夏の笑顔がとにかく可愛くて、気づけば僕は緋夏の頭を撫でていた。
「ん、TPOをわきまえろとか言ったくせに、柊君もじゃん」
「…こればっかりはそうだな。ごめん」
「別にあやまんなくてもいいよ。むしろもっと撫でてほしいし〜」
「はいはい」
そう言って僕は緋夏の頭を撫でながら、緋夏に連れて行かれるのだった。
「よっと。到着〜」
そういって緋夏は空き教室の扉を開ける。案の定、そこには誰も居なくて、静寂が広がっていた。そして僕らは教室の中に足を踏み入れ、緋夏は少し前に出た。そして
「それじゃあ、柊君。これどうぞ」
そう言って緋夏は手に持った小さな箱を僕に手渡した。
「ありがとう。緋夏。…今開けても良い?」
「もちろん。しっかり味見して美味しさは保証してあるから安心してね」
そして僕はその箱を開ける。中には一口サイズのガトーショコラとクッキーが入っていた
「おお!めちゃくちゃ美味しそうじゃん」
「ふふん。なかなかの自信作だからね。ほら、食べて食べて」
「じゃあお言葉に甘えて」
そう言って僕はガトーショコラに手を伸ばし、そのまま一口。
「…どう?」
「……美味しい。めちゃくちゃ美味しいじゃんこれ!」
「本当!?よかったぁ〜!」
ほんとに美味しい。そういうお店の物と言われても疑わないくらいの美味しさだ。
「そのクッキーも食べてみてよ」
「うん。ちょっとまってね」
口の中に残るチョコの味を噛み締めた後、クッキーを一枚手に取り、食べてみる
「どう?」
「…え、クオリティ高すぎないか?美味しすぎるんだけど」
俗に言うホロホロクッキーとかいうやつだろうか。食べたことがないからよくわからないけど。こんなに美味しいクッキーは今まで食べてこともない
「今までの私の作ったお菓子の中で一番の自信作だよ」
「これはほんとに凄いよ。こんなに美味しいクッキー食べたこと無いもん」
ふと緋夏の顔を見ると、とても満足した笑みを浮かべていた。ああ、可愛すぎる。
「ふぁっ!?」
瞬間、僕は緋夏にハグしていた。
「ちょ、柊君!?ここ学校だよ!?」
「とはいっても空き教室だし、このあたりは誰も通らないよ」
「うぅ〜。ずるい…」
そう言って僕の胸に顔を埋める緋夏。ああもう、可愛すぎて仕方がない。
…そんなこんなで、僕はとにかく緋夏の頭を撫で続けるのだった。
ああ、一生この幸せが続けばいいのに。…いや、続くように努力しよう。などと考える一日だった。
「で、柊君は私以外からチョコ貰ったの?」
「いや、一つも貰ってないよ?」
「そうなの?ちょっと意外」
「いや、毎日のようにいちゃついてるカップルの片方にチョコ渡すとか自殺行為でしょ」
「ふふっ、たしかに」
そんな風に話をしながら僕らは昇降口に入り、自分の靴を取り出そうとして
『ドサッ』
…瞬間、丁寧な包装のされた箱が落ちてきた。落ちてきた場所は勿論、僕の下足入れで…
「ねえ、柊君」
少し冷たい緋夏の声。僕が緋夏の顔を見ると、冷えた笑みを浮かべていた。
「ちょ、緋夏。一旦落ち着きな?」
「え?私は至って冷静だよ?」
「それ冷静な人は言わない」
ほんとになんでなんだよ。めちゃくちゃなフラグ回収してしまった。
…いや、あまりにも綺麗すぎない?
「とりあえず、柊君に悪い虫がつかないよう守らないと」
「緋夏?悪い虫とかじゃ無いから。…多分」
「ほら、可能性は捨てきれてないじゃん」
「…いやほら、ただの義理チョコかもしれないじゃん」
「下足入れに入れる義理チョコとか聞いたこと無いけどね」
そう言いながら緋夏は僕の手に自分の手を添える。そして
「今この場所で開けてみよ?」
「怖いよ?緋夏」
「何が?大丈夫だよ。もし悪い虫だったら蹴散らしてあげるから」
「そういうところだぞ?」
「はいはい。ほら、さっさと開けて」
緋夏に急かされ、僕は恐る恐るその箱を開ける。中には一枚の紙と、やけに手の込んだチョコレートが入っていた。
そして僕はその紙を見てみると
『大丈夫、義理チョコだから安心してください。是非、彼女さんと食べてください』
…なんかちょっと怪しいけど大丈夫なのだろうかこれは
「なんか怖いね」
「うん。流石に私もこれは警戒せざるを得ないね」
僕らはそういって、再度箱を元の形に戻し、カバンに突っ込んで、普段通り一緒に変えるのだった。本当…バレンタインは心臓に悪い。
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