1/1 〜彼女と過ごす大晦日とお正月〜

『もう一年が終わるんだね〜』

 イヤホン越しに彼女の声が聞こえる。僕は自分の部屋でその上手く言葉にできない嬉しさに自然と頬を綻ばせている

『なんか長かったような短かったような感じだよ』

「やっぱ一年が終わる頃には早かったなぁって感じるよな」

『だよね〜。でも特にこの一週間は早かったよw』

「やっぱ充実してたもんなw」

 この一週間は本当に色々あった。クリスマスイブに僕が告白し、そこから付き合い始め、初デートもした。

 更にはその日から毎日通話しているくらい充実した一週間だった。

『これがリア充ってやつか〜。ずっと縁のないものだと思ってたよw』

「すっごくわかる

 ほんとに充実してたら時間の流れって早く感じるんだなw」

 沢山の人がリア充爆破しろって言ってる理由が少しだけわかったような気がする

『あ、そうそう

 明日一緒に初詣行くじゃん』

 突然の話題転換に若干驚きながらも

「だね〜

 それがどうかした?」

『…いや、これは明日の楽しみに取っておくよw』

 何故かお預けをくらってしまった

「ちょっとまって

 なんか怖いんだけどw」

 いつものように行けば何かしらの悪戯だろう。

 しかし、本当に何をしてくるかわからないから明日は何か身構えておく必要がありそうだな。などと考えていると

『あ、もうすぐ日付変わるじゃんw』

「本当だw

 結構あっという間だったねw」

 気づかぬうちにそんなにも時間は過ぎていて、少しばかりの寂しさと若干のワクワクを胸に持ち、

「どうせなら年越すときになにかしたくないw?」

『確かになにかやりたいけどできることあるかな?』

 突然の提案だったのでそりゃ特に思いついてる訳もなく

「うーん…、ごめんなんも思いつかねえや」

『あ、じゃあ私一つ思いついたからそれやるねw』

「ちょっと待って僕何も思いつかないんだけどどうしよう」

『う〜ん、じゃあハッピーニューイヤーって叫ぼうw』

「……うっしゃやるわw」

『声量だけ注意してねw』

「心得たわ」

 そうこうしているうちに、気づけばもう日付の変わる時刻が迫ってきていて

「そろそろだしちょっと準備するかw」

『だね〜w』

 少しの間、沈黙。そして…その時間がやってきて

「ハッピーニューイヤァァァァァ!!」

『……大好き』

 …お互いに少し無言の時間が続く

『……近所迷惑になってない?』

「そこは本当に考慮したから安心してくれ

 というか何て言ったんだ?

 自分の声が大きすぎて何も聞こえなかったんだけど」

『ん〜?

 秘密にしよっと』

「何だそれw

 普通にすごく気になるんだけど」

『う~ん、じゃあ今日の初詣までのお楽しみに取っといてよw』

「まあしょうがねえw

 じゃあ今日聞けることを楽しみにしとくねw」

 そんな話をした後に、初詣の準備のため名残惜しいが通話をやめ、僕らは眠りにつくのだった。

 …時間が過ぎるのは早いもので、僕は既に今日の待ち合わせ場所に立っていた。

 前回と同じく集合時間の30分前に来たので、流石にまだ姿は見えない。

 しばらくの間、ゆっくり待つことにしよう。

 大体10分程過ぎた頃、突然背後から肩を叩かれ、振り向くと。

「おっはよー。元気〜?」

 振袖を来た彼女が、そこに立っていた

「………」

「…え?」

 …めちゃくちゃ可愛い。可愛すぎて見惚れて絶句してしまう。一体どうして彼女はこんなにも可愛いのだろうか。

 …などと考えながらまじまじと見つめていると

「…ちょっと…恥ずかしい」

 だんだんと彼女の顔が紅くなってきていることに気づいた。

「あっ…マジでごめん。

 めちゃくちゃ似合ってて可愛いから見惚れちゃってた」

「はっ!?」

 瞬間、彼女の顔が一瞬にして紅くなり、顔を背けられた。

「…スゥ……ハァ、ほんとにもう、バカ」

 彼女のその照れた姿すら可愛すぎて僕も悶えてしまう。…ハァ、ため息を吐きたいのはどっちだよ…

 その後、しばらく互いに悶えた後、僕らは初詣へと繰り出すのだった

「う~、めっちゃ人いるね〜」

 彼女が少しばかり苦しそうにそんな声を上げる。実際、今の僕たちが居るところは本当に人が多く、少しでも目を離したら迷子になってしまいそうな状態だった。

「ちょ、これやばいな…」

「うーん…ど、どうする?これ」

 彼女の不安そうな声が聞こえてくる。

 …ここで何もしないのは男として、彼氏としてどうなのだろうか。いや、そんな事考える暇なんてない。

 そして、僕は

「ひゃっ!?…え、ちょ!」

 彼女の驚く声が聞こえる。

「な、何!?どうしたの急に!?」

「いや、そんなに驚くか?」

 僕はただ彼女と離れないために、安心してもらおうと思って手を取り、恋人繋ぎをしただけだ。

「いや普通そうでしょ!…初めてなのに、急すぎるって」

 驚きつつも羞恥心で紅く染まり始めている様に見えるその表情が可愛くて、思わず顔を逸らす。そして、

 …次の瞬間、僕の頬に彼女の手が触れてーーー

 ーーー思い切り顔を引き戻された。

 瞬間、紅く染まった顔で僕を強く睨み

「本当にもう…ばか」

 …いや、流石に強すぎるよ。それは流石に反則だって。

 そして僕はまた悶えてしまった。多分、彼女と同じくらい僕の頬も紅くなっているのだろう。

「本当にもう…可愛いんだから」

 周りの人たちの視線が集まる。仕方ないとはいえども流石に恥ずかしい。

 そして僕らは互いに悶え、会話のないまま先へと進む。…繋いだ手に強い力を込めながら。

 どれくらい経ったのかはわからないけど、僕たちはようやく賽銭箱の前に立つことが出来た。

「よっと」

 財布から取り出した小銭を投げ入れる。金額とかは気にしないと言うけれど、今回は普段の10倍、100円玉を投げた。

 神様よ。今回ばかりは願いを叶えてくれよ。そしたら来年もっと払うから。

 …なんて考えながら祈願をし終えると

「何を願ったの〜?」

 彼女からそんな風に聞かれた。ただ、

「うーん、願い事って言葉にしたら叶わないって言うしなぁ」

「あ、確かに聞くね〜そんな話。…で、何を願ったの?」

「ごめん、話聞いてたの?」

 いや、うん。何を言ってるんだ?なんて思っていると

「だってもしそれが本当なら神様は叶えてくれないって事でしょ?」

「うん、多分そうだけど」

「じゃあ私が叶えてあげる」

「えっ」

 一瞬の驚きと嬉しさに感情がごちゃ混ぜになってしまい、思わず僕は顔を逸らした。

「どうして顔逸らすの?」

「いや、だって、そんな事言われた事ないから、嬉しくて、…恥ずかしい」

「だって、好きな人の願いを叶えたいと思うのは当然でしょ?」

「待ってもう無理。降参!許して!」

 僕のキャパが限界に達してしまい、僕は自分の口元を片手で隠しながら彼女を睨むことしかできなかった。

 その間、彼女はずっと嬉しそうな笑顔で僕を見ていた。…本当に、ずるいなぁ

「あ、おみくじ引こうよ!」

 賽銭を投げて少ししたところでおみくじを売っている。まあ、神社の中だし順番的にそうなるのも必然だなと思いなら

「よっしゃ、引くか」

 そう言って僕らは別々におみくじを引きに行く。

 …結果、僕は大吉だった。神様、最高かよ。単なる運といえどもこんなに縁起のいい物をくれるなんて。

 そして僕はその大吉を片手に彼女の元へ行く

「よっと。そっちはどうだった?」

「ん?見たいw?」

 少しニヤけた表情で彼女は僕の方を見ていた。

「もしかして、いいもの当たったか?」

「ふふん♪」

 そして彼女は得意げにその結果を見せつける。その紙には『大吉』と書かれていた。

「やっぱ今年は運がいいみたい」

「お、そりゃ僕もだな」

 そう言って僕も自分の手元にあるおみくじの紙を見せる。

「わぁ、ふふっ。やっぱり今年はすごく運がいいみたいだね」

「だな。とにかく縁起も良さそうで良い年になりそうだ」

 そう言って僕らは互いに笑顔で今後だとか、今までの思い出話だとかをしながら闊歩する。

 …気づけば初詣とか関係なしに僕らはただただデートを楽しむのだった。そして…

「うわっ、もうこんな時間か」

 楽しい時間がすぎるのはあっという間で、気づけば時計が19時を示していた。やっぱりデートしてるときの体感時間は一瞬だな。などと考えてると

 …不意に手を握られる力が強くなった。

「え、ちょっ」

 彼女の方を見ると、彼女は少しさみしそうな表情で僕を見つめていた。…ずるいよ、その表情はさぁ…。

「…まだ帰りたくない」

 少し小さい、されどはっきりと強い意思を感じる芯の通った声だった。

「…奇遇だな。そりゃ、僕もだ」

 そう言って、僕も彼女の手を握る力を強める。すぐに彼女から強く握り返される。嗚呼、本当に離れたくない。ただもう残された時間はほぼ無いに等しく、僕らには帰る道しか残されていなかった。

 …この限られた時間に、僕は何ができるだろうか。

 …、いや、わかってる。僕が今やれる最大はそれしかない。だけど、僕はそれをする勇気が…

 いや、逃げるな。やれ!

 瞬間、僕は彼女の前に立ち、空いている片手で彼女の肩を掴む

「ひゃっ!え!?」

 彼女の驚く声を聞くと共に、僕は言葉を紡ぐ

「大好きだよ、緋夏(ひな)」

 瞬間、緋夏の顔が今まで以上に紅く染まって、まるで夕陽の様だった。その姿に見惚れながらも、僕は言葉を紡ごうとしてーーー

 ーーー唇に、緋夏の指が添えられた。

 僕が驚くとともに彼女は僕に告げる。

「やっと…やっと言ってくれた」

 今までずっと待ち続けていたと言わんばかりの様子で、そう言われたので、少し困惑していると、それに気づいた彼女は

「本当にひどいよ。今、初めて私のこと名前で呼んでくれたじゃん」

「あっ…」

 言われてみればそうだ。今まで僕は緋夏のことを名前で呼んだことが一度もない。それは付き合ってからとかじゃなく、友達になってからずっとだった。

 そのことに気づいた瞬間、申し訳無さが溢れる。

「ご、ごめん。気付けなくて」

「良いんだよ。今こうやって呼んでくれたわけだし。すっごく、すごーく待たされたけどね?」

 少しばかり怒りのようなものがこもったその言葉に苦笑しながらも、僕はもう一度

「本当に、本当に大好きだよ、緋夏。この世界の誰よりも、大好き」

 僕がそう言うと、緋夏はまた顔を赤らめ…。そして、

「私もっ、柊(しゅう)君のこと、大好きだよ!」

 面と向かって言われたその言葉に、その声に、その表情に、僕は完全に負けた。ああもう…、ずるい。

「ふふっ、柊君が名前で呼んでくれるまで呼ばないように我慢してたんだけど、もう我慢もしないからねっ!」

 すごくうれしそうな緋夏の姿が何よりも輝いて見えて、僕は恥ずかしさで顔を隠すことしかできないのだった。

 そして、そして…そして。最大限に満足した僕たちは帰路につく。

 僕は緋夏を家まで送り、自分の家へと帰る。…不意に空を見上げてみると、とても美しい満月がそこにはあった。ああ、もう。なんて幸せな日だったのだろうか。僕はそんなことを考えながら家に帰るのだった…

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