煤宮
武力によって命を奪って金品を奪い取る――当時の慣例では問題ない行為だが一度
やがて相手は落ち武者に限らず旅人を襲撃し、畑で略奪し、村までを標的に。
もはや単なる
その村を襲ったのも野伏と呼ばれていた集団である。
元武士も、いや武士も、敵であるはずの落ち武者も紛れ肥大化した武装集団。
その強大さの前にした村は抵抗をすることが出来なかった。
ただそれは幸いで、無抵抗が故にその年の収穫と女を数人奪われるだけで済んだ。
残されたのは村人と、来年まで生き残ることが出来るだけの備え――
村は残せたが、来年もまた来ると誰もが思った。
村は割れた。
来年も同じように収穫を差し出せばいいという者。村を滅ぼせば野伏も食い
どこかの侍に退治して貰うという者。同じように米が取られるが女は奪われない。
また
あるいは戦うべきという者。ただこれは妻を奪われた若い男と、娘を奪われた男の二人だけの意見であったので耳は貸されなかった。
だがそれには相手を動かすだけの代価が必要。食料を奪われた村に差し出せる物はないはずだった。そこで手を上げたが村の鍛冶屋である。
元は流れ者の鍛冶屋。最初は誰も受け入れるのに反対された中年の鍛冶屋。
反対する者たちに”大工もできる”と言って村の
一月、鍛冶場に籠った鍛冶屋は二本の刀を打った。
見事な出来栄えというのは素人の村人でも分かるほど。
これならばと自信を持って村長は山を降りた。
だが二月ほどで返って来た長の手にはやはり二本の刀。
『そんな山奥の村ために動けと?』
『幾ら出来が良くとも刀二本如きではな』
『我らに何の利がある』
当然の答えと共に刀を持ち帰った村長は十は老けて見えたという。
村人はもう一つの答えで一致せざるを得なかった。
それは隷属のようになるであろうと誰もが思う選択肢。
それでも村人は田畑を耕し、作物を作り、やけくそ気味の祭りを行ってから収穫を終え――秋が更け、枯葉舞う頃に”来ないのでは”と楽観視する声が悲鳴と変わった。
野伏はやはり大所帯で威嚇しながら村に来た。
誰もが苦々しい顔をしながら、頭を下げた。けして表を上げず、女には男の格好をさせた。村長の苦肉の策である。
だがしかし、獣じみた野伏であれば鼻も利くのか女は見つかった。
”面白い
だが女を掴む手を斬りつける者があった。
二人の男が刀を持って斬りかかり――そして返り討ちにあった。
襲われた野伏は激怒し、二人の男をこれ以上ないほど痛めて殺し、また痛める。
それでも収まらず村の男の三分の一を殺し、半分の女を連れ去った。
残された村人を導かねばならぬ村長はさらに十は老けたようになり、冬を越すことはなく亡くなってしまう。
村の住民たちの頭には村からの
ただ一人の鍛冶屋を残して。
鍛冶屋は悩んだ、唸って、そして人知れず泣いた。
己が武器など打つから死んだのだと、折れて捨てられた自らの刀を持って。
三日三晩泣いて暮らした鍛冶屋は命を断つことも考え叫んだ。
だが幾ら悩んでも答えは一つ”失われた命に
己に出来るのは武器を打つのみ、学んだ
だが武器だけでは駄目だった。
己が心血を注いだ刀がこうも簡単に折れた。手入れの行き届いているとは言い難い賊の武器如きにだ。
つまり武器には扱う技がいるということ。
鍛冶屋は刀を打ち続けた。
山に入って鉄を求め、木々を倒して炭を焼き、刀を打つ。
春に五本目の刀が完成すると村を後にした。
刀を背負って旅に出た。
山々を歩き、かつて噂に聞いた土地を探す。
旅立ってから季節が変わっても休みなく歩き、
葉を
虫に食われ、蛇に噛まれ、獣に指を持っていかれても――尚歩いた。
幾つの谷間を訪れたのかもはや覚えてもおらず、頭は
付くなり呼びつけた村長を見て少し涙が出た。
長は噂通りの人知を超えた姿。身の丈七尺を越え、顔中に斬られた傷を持ち、牙のように尖った歯を持つ鬼のような風貌であったから。
取って食われ兼ねない迫力。鍛冶屋は刀を差し出した。
ここは人知れず牙を研いでいる戦闘を生業とする集団の村。
不毛の土地であれば売る物など人しかいない村である。
よって刀にて動くこともあるやも知れぬ。
いや動かして見せると、己が魂までを込めた刀を見せた。
『これでは兵は売れぬ』
『要らぬ。技を教えてくれ。鍛えてくれ。村を守れるだけでいい』
果たして刀の出来のお陰か、鍛冶屋の覚悟のお陰か。
これからも刀を打つという取引にて技が伝わることとなった。
山奥の戦闘集団――忍の技が村人を鍛えたのだ。
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