瑠伽との記憶

  ※※※

そこは小さな部屋の一室。見覚えがある白を基調とした家具。

この世界とは全く違うテーブルやソファなどがある。



「奏音」

恋人の瑠伽に呼ばれて振り返る。


私はお風呂上りに冷たい麦茶を飲もうと冷蔵庫を開けたまま、

「お茶、飲む?」

と尋ねた。

「うん、飲む」

と言って、瑠伽はソファからこちらに歩いてきた。


私の分のグラスも持ってくれたので、濡れた髪をタオルで拭きながら彼の後をついて二人掛けのソファの前の絨毯に座った。


瑠伽は膝の間に私を入れる様にソファに腰を降ろした。

「いらっしゃいませー」

と少しおどけて、タオルで私の髪を拭いてくれる。

そして、いつものように手にオイルをつけて髪になじませ、ドライヤーで髪を乾かし始めた。


「♪~」

鼻歌を歌いながら優しく髪を乾かしていく。

途中で頬にキスしたり、首筋に噛みついてくる。

くすぐったいと私が身動ぐと、

「じっとしないと危ないよ。ほら、じっとして」

と言って私を真っ直ぐに座りなおさせ、両足で私を抱え込む。


そしてまたふざけながら髪を乾かす。


冷風後にドライヤーを止めて、頭にキスを一つ。

「はい、完成」

「ありがと」

と言うと同時に抱っこされる。


「奏~音ッ」

と、ウエストに腕を回してぎゅっと抱きしめられる。


「奏音って髪、綺麗だよね」

直毛過ぎてヘアアレンジの難しいストレートのこの髪を「好きだ」と言って、髪を一束とってキスを落とす。


瑠伽・・・好き・・・。




   ※※※


「カノン様、カノン様」

側仕えのアイシャに呼ばれて、自分の意識が現実からトリップしていたことに気が付いた。


「ああ。ごめんなさい」

慌てて目の前の状況に集中する。

「大丈夫でございますか?やはり今日は・・・」

「問題ないわ。少しぼーっとしてしまったみたい。さっきまで眠っていたせいかしら」

「ですが・・・「アイシャ」」


心配するアイシャの言葉を遮る。そして、微笑んでアイシャに大丈夫と伝えた。

視線を『ルカ』に移し、話しかけた。

「それで何をお聞きになりたいのかしら?・・・ル、ルカ様」


「私はルーカス・スティール・ハウランドと申します。ベルナルド様の側近です。それでは、いくつか質問にお答えください」

「分かりましたわ。どうぞ」


ルーカスがしてくる事故に関する質問に丁寧に答えて行く。

ルーカスと話しながら、私の心臓がだんだん自己主張を強めていることに気が付いていた。


ルーカスの顔は瑠伽とは違うけれど、その表情や仕草の所々に出会った頃の瑠伽の面影を見つけてしまったからだ。

真剣な表情。

相手が何を考えているのか読み取ろうとする視線。

親指で唇をなぞる癖。


本当にルーカス様は瑠伽の生まれ変わりなの?・・・まさか・・・ね。




「最後に」

ルーカス様は私の目をじっと見つめて言った。

その視線にドキッとしてしまう。


「マルクス王子殿下が偶然護衛の目をかいくぐり、偶然転落なさったところに、偶然出くわして、偶然助けたと?それほど偶然が重なるようなことがあるとは、まるで奇跡のようで、何らかの作為があったように思えてなりませんが、計算が得意とお噂に聞くカノン様はどうお考えですか?」


「え?」

連呼される『偶然』という単語。作為とか計算って。どうお考え?って言われても・・・なんだか・・・私、疑われている?

もしかしてマルクス王子殿下の周りで何か不審な動きでもあったというの?

真意を探そうと、見つめ続けるルーカス様の瞳を見つめ返した。



『コンコンコン!』

沈黙が続く中、元気のよいノックの音が響いた。

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