お見舞いと事情聴取

「カノン嬢、具合はどうだい?」


久しぶりにお会いするベルナルド様は穏やかな微笑みを見せている。

相変わらず嘘くさいなあ・・・。

完璧なつくり笑顔に不信感を覚えつつも微笑みを返す。


「ええ。痛みはございますが、大丈夫ですわ」

触らなければ痛くないよう小さなたんこぶだったが、王族に追わせられる恩はしっかり売っておきたいので、『痛むような傷をおった』とお伝えしておく。


「怪我をしているところ申し訳ないのだが、事故の時の話を聞かせてもらえないだろうか?」

「・・・・。」

私は無言でベルナルド様を見つめた。

「・・・カノン嬢?」

ベルナルド様は作り笑顔のまま小首を傾げた。


出来る限り悲しそうに見えるように目を潤ませ、長い睫を震わせた。

「私、ベルナルド様にお会いしたくてベルナルド様の執務室に向かっておりました。お忙しいベルナルド様にやっとお会いできたのに・・・・事故の話をしたらもうお別れでしょう?そう思うと寂しいと思ったのですわ」


せっかく婚約者候補に会えたのだ。これ一度で終わらせるわけにはいかない。次に会う確約をしっかりともぎ取らなくては。伯爵家長女としてこのチャンス、逃しませんわよ!


ベルナルド様は、

「ぷッ」

・・・・。ぷッ!?

ぷッですって!!??

今、笑いましたか!!!???


予想外の対応に驚き、顔をあげてベルナルド様を凝視する。


ベルナルド様は静かにその背後で肩を震わしている男を振り返った。

背後に立つ男は、片方の口角をあげ、馬鹿にするような笑いを浮かべてこちらを見ている。


何、この人?感じ悪い側近ですわね。

もしかして笑ったのはベルナルド様ではなくこの男なのかしら?


睨むと、フッと鼻で笑う。

「ルカ」

ベルナルド様が男を諫めた。


しかし、ルカと呼ばれた男は

「失礼いたしました。カノン様の泣きまねが下手過ぎて・・・」

と笑った。


・・・・この声・・・。


・・・・『カノン様』と呼ぶこの声・・・・。


・・・『ルカ』と呼ばれたこの人・・・・。



私はルカと呼ばれた男を見つめた。



・・・知っている。

私、この声・・・この声、知っているわ・・・。


だんだんと目の前が白んできて、ルカと呼ばれた男の顔が滲んで見えなくなってくる。


「はあ。カノン様、私に泣き真似など通用いたしませんよ」

ルカが私の名前を口にした・・・『カノン様』と・・・。



『奏音』



私は、脳裏に浮かぶ光景に心を持って行かれる。

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