第11話


〔バイト終了の翌日〕

俺は、川村由佳と暮らした吉祥寺のマンションに向かった。

8階の部屋に合鍵を使って入った。

「おじゃまします」と、玄関で声をかけたが、愛美が迎えに出てくる様子がないので、靴を脱ぎ、外出する方向に靴を揃えて、家の中へ上がった。

リビングに行くと、愛美の姿は無く、冷めた静けさが部屋の中を支配している気がした。

俺は家中に響く声で由佳の名前を呼んだが、やはり返事はない。

不吉な予感で胸が高鳴るのがわかった。

俺は他の部屋を見て廻り、愛美の寝室のドアを開けた時、ベッドの上に横たわる愛美の姿を見つけた瞬間、俺は状況を悟った。

「由佳、どうして、どうして生きてくれなかったんだ」と、心の中で叫ぶ。

俺はベッドに近づき、愛美の顔を見た。

手で触れた頬が冷たくなっていた。

俺は、涙が出ないほど漆黒の悲しみに心が覆われ、昨日最後に見た愛美の微笑みに騙された思いがした。

枕元には俺がプレゼントしたクマのぬいぐるみがあり、クマのぬいぐるみは封筒に入った手紙を抱えていた。

俺は封筒から手紙を取り出し、広げて、視力を失いかけたような潤んだ目で、ボヤけた文字を読んだ。


浅間克也さま

私は、愛してはいけない人を愛してしまいました。私の母が産んだ子供は、浅間幸一郎の子供なのです。私と克也は、本当の姉弟なのです。

生きてる間に、克也、佳之、さくら、本当の弟と妹に会えてとても幸せでした。天国に旅立ったお婆ちゃんが、会わせてくれたのかもしれません。このことは、克也だけの心にしまっておいてください。お姉ちゃんは、君たちを天国からずっと見守ります。今度生まれ変わったら、君たちの姉として、もっと頑張って強く生きたいと思います。克也、最後の10日間、本当にありがとう。君の気持ち、本当に嬉しかったよ。恋人だった由佳と、姉になった愛美より

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