第4話
〔4日目〕
今日も2時限目から大学の講義がある。
朝、由佳に起こされ、朝食を食べ、玄関で見送られ、行ってきますのキスをして、大学に向かった。
今日は、由佳から予定を聞かれなかったので、都内で待ち合わせもなく、二人で出掛けない初めての日になりそうだ。
昼休み、いつものように佐久間と学食に向かう。
「浅間、例のバイトはどうだ?」
「一応、順調だよ。昨日は、二人でディズニーランドに行った」
「それで昨日いなかったのか。少しは彼女の本性がわかったか?」
「本性って、まるで俺が騙されてるみたいじゃないか」
「お前もお人好しだな。普通、そういうバイトは疑って考えるのが当たり前だろう」
「彼女は色々あって、きっと心が病んでるんだ。安らぎを俺に求めてるんだと思う」
「浅間、お前、彼女に惚れてないか?」
「いくらなんでも、まだ出会って5日だぞ、そんな簡単に人を好きにならないだろう」
自分でも気づいていたが、一応否定する。
「好きになるのに時間は関係ない。出会った瞬間に好きになることだってあるだろう。要は、今のお前の気持ちがどうかってことだ」
「正直、よくわからない。ただ、好きになるかもしれないとは感じてる」
「アッハハ、浅間、俺はもう手遅れだと思うぞ。だけどな、やっぱりそのバイト普通じゃない。浅間、別に彼女が悪い人間だとは思わないが、俺に彼女のこと調べさせてくれないか?」
「そんなの俺は許可できない。佐久間が勝手にやることなら、俺は関与しないが」
「わかった。俺が勝手に調べてみる」
「佐久間、彼女に直接会ったり、盗聴みたいなことはやめてくれ」
「了解。お前に迷惑が掛からない方法でやってみるから、安心しろ」
佐久間は、ジャケットのポケットから小型盗聴器を出して、俺に預けた。
盗聴は考えていたようだ。
「名探偵、佐久間を信用しろ。彼女の名前と住所、写真はあるか?」
「名前は、川村由佳。住所は、武蔵野市‥。昨日ディズニーランドで撮った写真がある」
「写真はメールで送ってくれ」
笑顔と、澄ました時の写真を佐久間のスマホに送信した。
佐久間は席を立ち、早速午後の講義をキャンセルして帰った。
俺はゼミもあり、大学を出たのは6時過ぎだった。
スマホの着信やメールを確認したが、今日は由佳からの連絡はなかったので、そのまま帰宅の電車に乗った。
由佳の家に着くと、インターホンを押したが、返答がない。
出掛けてるのかもしれない。
俺は、家の鍵を渡されてなかったので、由佳に電話をしてみた。
呼び出し音は鳴っているが、電話に出る様子がない。
仕方なく、吉祥寺駅周辺のコーヒーショップで電話の折り返しを待つことにした。
夜の10時近くに、やっとスマホの着信音が鳴った。
「かっちゃん、ごめんなさい。つい寝てしまって電話に気づかなかった。ごめんなさい」
由佳は、何度も謝る。
「一回帰ったんだけど、応答がなかったから自分のアパートに来ちゃった。今日は、こっちに泊まっていいかな?」
俺は嘘をついた。締め出されたことで、少し苛立っていたのかもしれない。
「かっちゃん、今からこっちに帰って来て」
正直この状況で、由佳が戻れと言うとは思わなかった。
普段から俺には気を遣ってくれていたから、戻らなくていいと言うと思ったのだ。
「これから?かなり遅くなっちゃうけど」
「ごめんなさい。私には、あまり時間がないの。お願い、帰って来て」
由佳の言葉の中に、切実な感情がこもっていた。
どうしてもって言われると、断ることができない性分で、俺は仕方なく帰る約束をした。
アパートからの移動時間を考慮して、少し遅めに帰ることにした。
由佳の家に着き、インターホンを押すと、すぐに返答があった。
自動扉が開き、エレベーターで上に上がると、エレベーター前で由佳が待っていた。
由佳は俺に抱きつき、何度も謝った。
「そんなに疲れてたの?」
由佳は俺の顔を見て、「許してください」と泣いていた。
いつも感情が激しい人なんだと感じた。
この精神状態が、自殺を考えてしまう根源なのではないかと思う。
「わかったよ。だから、もう泣かないで」
俺は、由佳を慰め、由佳の肩を抱いて家に入っる。
夕食の用意をしてあったが、俺は外で食べたと嘘をつき、由佳の料理を食べなかった。
由佳の泣き顔を見ても、まだ俺の中に少し苛立ちが残っていたようだ。
この日は、歯磨きをしただけで、風呂にも入らず、由佳より先にベッドに入って寝た。
後から、お風呂上がりの由佳がベッドに入って来たが、俺は寝たふりをしていた。
一つのミスを責め、泣きながら何度も謝る由佳に意地悪をしてしまう自分を、まだまだ子供だなって思うもう一人の俺がいた。
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