第3話
〔3日目〕
朝早くからお弁当を作る由佳を見ていた。
由佳の頑張っている姿を見ると、勇気づけられる。
前日に家を出る時間を、7時半と決めた。
通勤ラッシュの時間帯に当たるが、早くディズニーランドに行きたいという由佳の気持ちを尊重した。
朝から由佳の機嫌が、とても良かった。
7時から朝食を食べて、丁度7時半に家を出た。
俺も由佳も、時間にこだわるところは性格が一致している。
今日の由佳は動き易さを重視して、セーターとパンツをチョイスし、青のコートをまとい、スニーカーを履いている。
スポーティーなファッションでまとめあげた。
俺はいつものセーターとジーンズに、ダウンジャケットのワンパターンだったが、由佳は俺にファッションで意見を言わない。
吉祥寺から中央線で東京駅に行き、東京駅から京葉線で舞浜まで行った。
案の定、中央線は混んでいたが、俺は由佳を周りから守る城壁ように抱き抱え、密着した状態だったので、満員電車も悪くは思わなかった。
「由佳、もう少しの辛抱だから頑張れ」
「かっちゃんに守られてるみたいで嬉しい」
「そうか、苦痛の中にも良いことがあれば楽しめることもあるんだね」
俺の言葉に由佳が頷いた。
東京駅に着くと、一斉に人が電車から降り、長いエスカレーターに人の波が流れ込んでいく。混雑した駅の通路を人にぶつからないように進み、動く歩道を使って京葉線乗り場へと移動した。
改めて東京駅の規模の大きさに驚く。
舞浜に着くと、再び人の流れに乗って進めばディズニーランドの入口に導かれた。
フリーパスのチケットを購入して、いよいよ夢の国へ入場だ。
「すごい楽しみ」由佳の表情は、まるで子供のようだった。
「何回か来たことある?」
「約1年ぶりだけど、トータルで50回は来てると思う。かっちゃんは?」
「中学生の頃に1回来た以来だから、5、6年ぶりかな」
「かなり昔だね。じゃあ、私が案内してあげる」
50回以上と2回目では、比較にならない。
当然、由佳に主導権はある。
由佳のテンションは上がる一方だった。
「由佳、ひとつだけ報告しておくね。僕、絶叫系はあまり得意じゃないんだ」
「ディズニーランドの方は、絶叫系少ないから大丈夫。スペースマウンテンは、乗れそう?」
「前に来た時、周りが暗くて何も見えなかったから、大丈夫だったような気がする」
「わかった。無理はしなくていいからね。乗れそうだったら乗りましょ」
「由佳が一緒なら、行けるかも」
「じゃあ、怖かったら私にしがみついてもいいからね」と、由佳が笑う。
「あー、僕を馬鹿にしたな。しがみつかないよ」
実際には、スペースマウンテン、サンダーマウンテン、スプラッシュマウンテンで、由佳にずっとしがみついていた。
カリブの海賊の小さな急降下でも、思わずしがみついた。
俺が由佳にしがみつくたび、由佳は面白がって笑っていた。
昼は、ベンチで由佳の作ったお弁当を二人で食べた。周りの人の目が少し気になったが、味はいつも通り最高に美味しかった。
入場料やポップコーン代はすべて由佳が払ったが、最後にお土産屋で俺はピンクの熊のぬいぐるみを由佳にプレゼントした。
由佳のお気に入りのキャラクターらしく、とても喜んでくれた。
俺も久々に、無邪気な子供のように遊んだ。
中学生の時は、男友達とディズニーランドに来たが、彼女と来るとこんなにも楽しいことを今日初めて学んだ。
夕食は、由佳が立ち喰いそばを食べたことがないというので、駅構内の立ち喰い蕎麦屋でそばを食べた。
毎日少しずつ、俺は由佳を好きになっている。
一週間後、彼女がこの世からいなくなるなんて想像ができなかった。
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