やがて世界は夢の中。

C.C.〈シーツー〉

やがて世界は夢の中。

場所はとある学校の校庭。

その小さな場所で、世界を巻き込んだ戦乱が起きていた。

「クソ!......。ユリ!そっちは大丈夫か!!」

「えぇ、オルダー。なんとか持ちこたえてる!」

ユリと呼ばれた少女と、次々と迫りくる兵士を一心不乱に薙ぎ倒すオルダーという男がいた。

「全く、アイツはどこだ!?」

「わからない......ただ、この学校の地下にいるのは確かよ」

二人はとある少年を助け出すために、この学校に潜入していた。

「このままじゃ埒が明かん。お前は先にいけ!!」

「わ、わかったわ!」

少女と男は覚悟を決めていた。なにが起ころうとも、必ず少年を助け出すと。


地下:耐爆隔離室


「............」

多数の拘束区を取り付けられた少年がいた。

ガコン。と、重々しい何重もの扉が一斉に開け放たれた。

「レッド!!」

少年の体を一目見ると、少女は駆け出した。

「今外すから、すこし待っててね」

なれない手つきで留め具を外し、少年を開放する。

「............」

「レ、レッド......?」

少年は黙ったまま、一向に口を開こうとしない。

「ここから脱出するよ!」

少女は少年の手を引くが、頑なにその場所を動こうとしない。

パチンッ!と、乾いた音が静かな部屋に響く。

少年の頬を叩いたのだ。

「レッド!何を考えているの!?このままじゃ、外で戦ってるオルダーまで死んじゃうんだよ!?」

緊迫する状況の中で、少女は気がついてしまった。少年は既に......

「ね、ねぇ。生きてるわよね?レッド?」

胸に手を当てるが、心臓の鼓動が一切感じない。

「そ、そんなぁ......ねぇ、嘘だよね?ねぇってば!!」

突然、少年の頭が床へ落ちる。

「え............」

「殺害目標、レッド=ファウトの死亡を確認!」

「い、いやぁぁぁぁぁ!!」

「黙れ!!この女!」

黒服の男は少女を拘束する。

もはや万事休す。

「目標の仲間と思われる女を拘束した。応援を____」

黒服の男の後ろで、不自然な影が動いた。

その刹那。

今度は黒服の男の頭が飛んだ。

少女は目を丸くしながら後ろをゆっくりと振り返ると、そこには......

黒色の大鎌を持つ首から上のない少年がいた。

もはやそれは、人の形をしていない。

「どういうこと!?なんで生きてるの?」

少女が少年に問いかけた途端、目の前が白色の光で満ちた。


________________________________________


引き裂かれる大地、荒れ狂う海。空には無数の赤褐色の球体が浮いていて、地上のありとあらゆる建築物、そして地面が、その球体に吸収されていた。

その光景はまさに地獄そのもの。

気がついてから、少女はただその光景を見届けるしかできなかった。

すると、学校があったはずの場所に、少年が空から降りてくるのが見えた。

「レッド!なにが起きてるの!?」 

「ユリ......俺は、世界を滅ぼす」

「......は?」

「これもすべて俺がやったことだ」

改めて周囲を見ると、屋内から逃げ惑う人と神に助けを乞う人。

残酷な光景が広がっていた。

「レッド!!あなた、自分が何をしたのかわかっているの!?」

片雲立ち込める紅き空の下、一人の少女の声がただ響くだけ。

生きていたという安堵と、虐殺を侵した少年に対する怒りが、複雑に交差する。

「俺は......俺はこの街に生きる人々を、全員殺した。」

「そう、自覚しているのね......。だったら......なぜこんな事をしたの!一体どれだけの人が......」

下を向いて地面に座り込み、悔しさをその目に滲ませる少女は少年の唯一の理解者であり、友達だった。

「君もわかっているはずだ。この世界は、憎悪と理不尽にまみれたどうしようもない世界だと。」

少年はここに至るまで、数々の理不尽な暴力的行為に耐えてきた。

覚えのない犯罪。理由のない学園からの退学。

そして四面楚歌。

周りに味方はおらず、すべての人類がこぞって少年を殺そうとした。

ただ、そこにいる少女と、生きているかもわからないクラスメイトを除いて。

国へ歯向かうとするならば、即刻打首もありえた。ここまで生き存えたのは、国からのちょっとした温情からだった。

だからこの瞬間を、この機会を、少年は夢見てきたのだ。

「だから俺は、神になって世界を創りかえるんだ」

「だからって......」

言葉を無くした。

悟ったのだ。

自分の信じたモノに向かって突き進む少年に、何を言っても届かないと。


「もう、時間も少ない。儀式を始めよう」

「儀 ......式......?」

「そう。かつてあの宇宙に、この世のものではない何者かがあれを遺した。」

少年は、真上にある物体を指差す。

「あれ......は......」

それは、小さな魔法陣が幾重にも重なりあった円錐形の巨大な陣。

名を......

天誅砲サテライトキャノン

少年の口角が心なしか少しだけ上がった気がする。

「なぜ......」

軌道衛星を周回する"それ"は、太古の文明から残り続けた遺跡のようなもの。

不思議なのは、どうやって今まであんなものが誰にも見つからずに存在していたのか。

「ああ、深く考える必要ない。ただ、昔にも僕と同じようなことを考えた者がいただけだ」

それは、神に対する儚きレジスタンスであり、無謀そのものであったが、遂行するべき価値あるものだった。

少年は頭上に金色輝く輪を生やす。

「あなた、人を捨てたのね......」

「えぇ、もちろんだとも。そうでなければ、諦観される理由がない。」

少年は空の彼方へ飛ぶ。

「とうとう神殺しを成すか」

座り込む少女の背後から、初老の男性が近づいた。

「あなたがなぜここに!?まさか、とどめを刺すつもりでっ!!__」

「安心していいユリ君、今更戦う気などない。何故なら既に、あれは私達の次元を離れている。」

この世界の未来は彼に託された。

エンジェルハイロゥを頭にかざす少年はやがて、宇宙へ到達する。

初老の男性は言った。

「新たなる神と、新世界の誕生だ。」

だが、代償として......




"太古の文明"は消滅する。



__________________________




いつからかはわからない。

気づいたらそこにいた。

それはいつもとかわらない日常。

「ユリさん、おはよー!」

「おはようございます」

廊下を走る同じクラスの生徒たち。

普段なら注意をするが、今はそんな気になれない。


何かがあった気がする。でも、思いだせない。

私は記憶を探ろうとしながら、ただただ、学校の廊下を歩き続ける。

「ユリさん、おはようございます」

前を歩く少年と目があった。

「お、おはようございます」

彼は確か......同学年の......誰だったっけ。


思いだせない。

その記憶だけ、その一部分だけが抜き取られたようだった。



それにしても、壮絶な体験だったような......

もういいや。

多分それは、

............きっと"悪い夢"だったんだろう。


《終わり》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やがて世界は夢の中。 C.C.〈シーツー〉 @nqi01696

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ