曖昧な記憶

 ここはリュコノグルの城下町にある宿屋のハルリアの部屋。そこには、ハルリア、ルミカ、カールディグス、メイミル、四人がテーブルを囲み椅子に座って話をしている。


「師匠? おーい」


 そう言いルミカは、ハルリアの眼前に目掛けて手を振った。

 だがそれに気づいていないのかハルリアは、ボーッとしている。


「どうしたんでしょうか? 戻って来てから、この調子ですし」

「カール様、もしかして師匠……恋煩いかな?」

「「え゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛え゛ーー!?」」


 まさかと驚きルミカとカールディグスは、声が裏返りながら叫んだ。

 そして三人は、マジマジとハルリアをみる。

 それに気づいたハルリアは、三人を見回した。


「ん? お前たち、なんでみてるんだ」

「えーっと……師匠、好きな人ができたのですか?」

「……。な、何を言ってる? そもそも、なんでそんな話になったんだ」


 そうハルリアが言うと三人は、ホッと胸を撫で下ろす。


「なんで、って。師匠が、ボーッとしてたからですよ」

「ルミカ……ああ、それでか。いや、すまん……昔のことを思い出してたんでな」

「昔のこと? でも、なんで急に……」


 そうカールディグスが問いかけるとハルリアは、真剣な顔で窓の方をみる。


「……今日、知り合ったヤツが昔……好きだった女に似てた。姓、までもな」

「なるほど……って、えぇぇえええーー……」


 驚きルミカはそう叫んだ。カールディグスとメイミルも、時間差で驚き同じく叫ぶ。


「待って、ハルリア様……その人と関係はもったんですか?」

「カール……いや、ないとは思う」

「思うって、覚えてないの?」


 そうメイミルに聞かれハルリアは、頭を抱え悩み始める。


「……実はな。その頃の記憶が、曖昧で思い出せん」

「それって、どういう事ですか? 今日、あった人が……十五なら」

「カール、十五……十六年前ってことだ。だいたい二十九か、三十ぐらいか」


 ハルリアはそう言い必死に思い出そうとした。


「ですね……。でも、思い出せないって……普通じゃありません。なぜでしょうか……付き合ってたのですよね?」

「ああ……ルミカ、付き合っていた。そのことは、覚えてるんだがな」

「変ですね。その頃って、何があったんですか?」


 そうカールディグスが聞くとハルリアは、んーっと思い出そうとしている。


「あの頃か。確か……なんかの任務をしてた。その時の記憶も途切れてる」

「じゃあ、もしかして……その時に記憶が……」

「メイミルの言う通りかもしれません。そうなると……その女性と関係があったかは、分からない」


 そうカールディグスに言われハルリアは、コクッと頷いた。


「可能性は……低いはずだ。それに……旧姓のままで、この町に居るとも思えねぇからな」

「そうですね……それに今日、会った人が……その女性の子とも限りませんし」

「ルミカ。ああ……まぁそうだとしても、オレの子供じゃねぇかもだしな」


 そう言いハルリアは、ふぅ~っと息を吐く。


「だけど師匠、可能性もないとは言えないよ」


 メイミルはそう言い、ジト目でハルリアをみる。


「確かに、師匠の女性遍歴は……」

「カール、いや……まぁそうだな。ハハハ……」


 そう言いかけハルリアは、言い返す言葉がみつからず苦笑した。


「まぁそのことは、追々分るでしょう。それよりも明日は、僕たちの番です」

「そうです……明日でした。思い出したら、緊張してきちゃいましたよ」

「うん、そうだね……大丈夫かなぁ」


 そう三人が言うとハルリアは、近くにあった棒を手にする。するとその棒で、カールディグス、メイミル、ルミカ、三人の頭を順に軽く叩いた。


「何を緊張してやがる。お前たちなら大丈夫だ。それに、試験と言っても……紙のテストと面接だけだしな」

「そうですね……師匠の言う通りです」


 そうルミカが言うとカールディグスとメイミルは頷く。

 そしてその後ハルリア達は、そのことと今後のことを話していたのだった。

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