一転、気持ちいいほど爽やかだった。

ここはどこかの海辺の街だった。


ここは高台で、もう一つ高台を挟んで、海が見えた。

息が驚くほど通った。ただ感情が強くうねっていた。


 墓は、この町にある。

僕は自転車に跨って、木造のような豪華な屋敷の立ち並ぶ街並みをせっせと漕いだ。坂を上り切ると、ガードレールを挟んで海が見えた。

 波立った海だった。


坂を上り切って、ガードレールに近づく。


 やや崖のようになっているガードレールの真下に、墓が沢山あった。

小綺麗で、風の通る墓だった。一ミリたりとも陰気さなど感じさせずに、ガードレールの奥の墓と、海へ続くであろう細い道と、波打ち際の無い海だけが、一枚の絵のように動いていた。


 飽きない景色に、僕は息を吸って吐いた。


海なのに、絵の具を垂らした洗面器のようだった。

いつまでも見ていられた。


 ここから墓へ、どう降りたらいいのだろう。


やや海風が寒くなり始めたのをきっかけに、僕は景色から視線を逸らした。




 それっきりだった。



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