目が覚めた。


夢だったようだ。


 そもそも僕の祖母は死んでいない。



 柔らかな陽の光が、偽物のような薄さで、僕の乗るベッドの白いシーツを照らす。

透き通るほど薄いカーテンが、風に靡いてふんわりと膨らんだ。



 心地が良かった。



僕は足元に置かれた紫の花束を抱えて、家の外に出た。

高い生垣に囲まれて、薄緑とピンクの花園が広がっていた。


 それはどこまでも柔らかくて、息を吸ったら全部消えてしまうのではないかと思うぐらいに、華やかな儚さだった。

ふと、ここから出たくなった。


 出口を探して歩いて行くと、花のアーチがあった。

それが何個も連なって、トンネルになっていた。


 そこに入ると、太陽の光は半分に減った。

別に暖かくもないのに、暖かい気がした。


 歩くたびに、光と影が交互に視界を通り抜ける。

煩わしさを感じつつも、進む。祖母の葬式に行かねばならないのだ。みんながこの花束が届くのを待っているから。


 そういえば、祖母もこんなピンク色の薔薇を育てていただろうか。

小さなピンクの花びらをつまみながら、薔薇の花の縁の鋭さを思い出していた。


 花を照らす陽の光に、オレンジ色が混ざっていない。

ただ黄ばんだ白色で、それはまるで、被った瞬間は心地よいが、あまりにも長くいると、息苦しさと自分が圧迫されるような感覚になってしまう薄手のシーツのようだった。


 それは透明なシーツだ。

地面と僕を含めた空間を、ぴっちりと密閉して、どれだけ剥がそうともがいても、一向に端っこが見当たらない。


 つくづく、この花園に嫌気がさした。

もはや不快ですらあった。ここから出ていきたい。早く墓参りに行かなければ。


 花園のトンネルを、僕はダッシュで駆け抜ける。

生ぬるい気がする空気が、肺に滑り込んだ気がした。


 気がするだけでも、息が詰まった。


 でも、やがて外に出た。



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