第3話 バカばっかりのクリスマス・イブ

 ボクたちが食べている間に、子供たちはプラレールの線路をつないで大きな路線を作っていた。熊一郎ゆういちろうくんと、クマジがそれぞれ列車を走らせようとしていた。


 ボクはこのおき方では正面衝突すると思ったが、とりあえず走らせるのを見守っていた。そして、正面衝突する寸前に列車を止めた。


 「これは、列車同士がぶつかってしまいますよ。乗ってる人が危ないですねぇ。」


 そう言って、ぶつからないように同じ方向に走らせたり、逆方向にはしらせて、駅で待ち合わせをしてぶつからないように運行するようにいろいろと仕掛けをした。もちろん、今の段階で理解してもらえるとは思っていないが、ぶつからないで整然と運行する様子を見てもらいたいとボクは思ったのだった。


 「ぶつかったら列車も痛いですから、こうやってみんな痛くないようにするんですよ。」


 この年齢では理解できないとわかっているけど、ボクは列車同士をぶつけて興奮するような遊びにはしたくないと強く思っていた。


 「この列車は、お正月用の鮭を運んでいるんですかねぇ…、この江ノ電は、初詣に行くお客さんを乗せてるんですかねぇ…」


 ボクは、考えつく限りのストーリーを列車に載せて、子供たちと一緒になって遊んだ。そう、これはずっと前に亡くなったおじいさんがボクにしてくれたことと同じなのだ。


 そのうち、子供たちはさっきのカエルのゴム人形を列車に載せて遊び始めた。ボクはカエルたちが落ちないようにティッシュを丸めて詰め物をして、こっそりカエルを固定した。人形のカエルさんたちであっても、列車から振り落とされたら相当な怪我をするかもしれないからだ。


 ボクはもうその世界に入りこんで、このプラレールの世界でも絶対に事故を起こしたくないという気持ちになっていた。カエルさんたちが安全に移動できるようにしたいと本気で考えるようになっていた。


 シャンパンとビールが回って酔っているのはわかっているが、なんだか空想の世界の中でも、「ボクはボクなんだな」とひどく実感した。遊びの中であっても、誰かが傷ついたり、争ったりするのは本当に嫌なのだ。


 そんなことを考えている間に、すっかり酔っ払ったクロイさんが来て、子供たちに言った。


 「ここから、ここの駅までは幾らにしたらいいだろうな?」


 子供たちは、思い思いに100円とか50円とか言っている。クロイさんは、この列車の運転士の給料が幾らで、エネルギー代が幾らで、みたいな話をしている。


 「じゃあ、1000円!」という声に、クロイさんが答えた。


 「たくさん儲ければいいって訳じゃないんだぜ。それじゃあ、みんなが気軽に列車を使えないぜ。」


 なんだか、面白いなと思った。ボクもクロイさんも大人の世界のシビアな現実を、デフォルメした形で子供に伝えようとしてるのだった。それは、子供向けに作られた「ただ幸せ」なことではなくて、「シビアな現実」を不活性化したワクチンのようなものだった。


 「乗っているカエルさんたちも、お腹がすくよね、どうしようか?」


 クロジさんも乗ってきてくれて、それぞれ、子供たちに駅に食堂を作ろうとか、列車で料理できるようにしようとか、いろんなアイデアを出させてお話をした。本当に想像力がかきたてられて、想像力は創造力なんだな…とボクは強く思った。


 「まったく、みんなバカなんだから…」


 そう姉が言った。


 「みんなバカじゃないです!! 素敵なクマたちです!!」


 姉の言葉に、クマスタシアが強く反論した。


 「クマスタシア、この場合の「バカ」は褒めてる言葉なのよ!」


 熊子ゆうこちゃんが一生懸命説明している。バカって言うのは、ある意味では不純さがなくて奇麗で、だけれども不器用なことを意味する。「バカ真面目」とか、「バカ正直」と言ったように。


 「バカは、一番強いんですよ。」


 クロジさんが言った。


 「損をするかもしれないけど、誰に攻撃されても後ろ暗いことがないと無敵ですから。バカは強いですよ。」


 「バカの妻は、大変だよ!」


 熊子ゆうこちゃんが言った。横から聞いていたボクとクロイさんも大笑いした。どうもボクもクロイさんも、そしてクロジさんも専門分野の知識は人並み外れているのにバカだ。どうにもこうにも、性分として悪い事ができないバカなんだろう。


 もしかしたら、関西でいう「アホ」なのかもしれない。


 「神奈川一のバカ三人衆を旦那に選んだ、おまえらも神奈川三バカ娘だぜ!」


 クロイさんのおちゃらけで皆が大笑いした。

 


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