第3章 神霊憑きと邪操師
1.最強の邪操師と神霊
その日の夜半。
間接照明だけの薄暗い応接間に、二人の女性が向かい合うようにソファに腰かけていた。
一人はワイングラスを手に持ち、中に入った赤い液体を回している。
もう一人は花柄の浴衣の裾を気にしたり、長い
「――しかし、お前が素直に我々
グラスの中身を眺めながら、面白そうに白衣の女、ラファエラが声を発した。
対して、それまで髪をいじっていた浴衣の女が手を止める。
「そうね。少し、気になったことがあったから、むげにもできなかったのよ」
「気になったこと?」
「それをあなた方、神霊に話す必要はないわ。お互い、敵とまでは言わないけれど、商売
「ま、確かにそうだな」
「一応、一通りの事情は聞いているけれど、あなたたちだって、すべてを公にするつもりもないのでしょう? 例えばあの子、
浴衣の女――上宮寺梓乃はそこまで言って、
聖女のような清純さを持ちながらも、魔女のような妖艶さを併せ持つ
ラファエラはその笑みを視界に入れ、肩をすくめる。
「相変わらず食えない女だ。お前の方こそ、何を考えている? 何を探っているのか知らんが、余計な詮索はしない方が身のためだぞ」
「それはお互い様、といったところかしらね。でもまぁ、別にあなたたちの邪魔をしにきたわけではない、ということだけは覚えておいて欲しいものね。単純に、今回の依頼について興味があっただけ、ということにしておいて頂戴」
「そう願いたいところだな」
そう言って、ラファエラはグラスの中身を飲み干す。
「ところで話は変わるのだけれど、私の仕事は本当にあの子の護衛だけでいいのかしら?」
「どういう意味だ?」
「このお屋敷にはあなた方神霊と
「わからん。だが、用心に越したことはない。なんせ、貴弘の肉体――あの器には尋常ならざる霊力が蓄えられているからな。これに関しては、薄々、お前も気づいていると思うが」
「えぇ、そうね。だから、さっき、勘ぐったのだけれど?」
「ま、その内わかるだろうさ。敢えて説明せんでも、最強の邪操師であるお前ならばな――ったく。緊急事態とは言え、
「あらあら、随分な言われようね。でも確かに、あのお方ならやりかねないでしょうね。会う度に何考えているのかわからないような言動をしてくださいますし」
梓乃は右のサイドにまとめたゆるふわポニーテールの毛先を再びいじり始めると、ニヤニヤし始める。
「それで? 肝心のあのお方はどこにいらっしゃるのかしら? ガブリエラ様は」
心の奥底を透かし見るかのようにじっと見つめてくる眼前の女に、ラファエラは嫌そうな顔をする。
「私は知らんよ。ま、当然だが、知っていても教える気はない」
「まぁ! 本当に嫌な人。せっかく手伝いに来てさしあげましたのに。帰ろうかしら?」
そう言って立ち上がると、本当に部屋を出て行こうとする。ラファエラは舌打ちした。
「一つ言えるとすれば、これから日本中を騒がせる一大事が起こる可能性があるということだ。それもここ、
部屋の出口で振り返った梓乃に、ラファエラは一通の封書を差し出す。
「これは?」
「お前が欲しがっていた情報だよ。本来は教える気はなかったのだが。まぁ、事が事だ。さすがにいがみ合っている場合ではないからな」
封書を受け取った梓乃は不思議そうにそれを眺めたあと、にっこりと微笑んだ。
「あなた方、神霊は世界の調和を守るためと言って、平気で私たち人の営みに介入し、色々好き放題引っかき回してくれるけど、くれぐれも私たち人間――邪操師の仕事の邪魔だけはしないでもらいたいものだわ。今回のことも、これからのことも、ね」
そう言って、梓乃は本当に出て行った。
一人取り残されたラファエラは、ワイングラスに赤ワインを注ぐと、ゆっくり回す。
「たくっ、あいつはまだ気にしているのか。たかだか人一人助けられなかったぐらいで。上宮寺梓乃。よく言うだろう? 大事の前の小事だと。一人を救うために、お前は世界を滅ぼす気か?」
独り呟くラファエラは、もう一人の自分が身体の内側で
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