第8話 アンジェルの魅力

 僕とアンジェルのバンドは小さなライブスペースで初ライブをしたが評判は上々だった。コンスタントにライブをするようになると、その年の高校の秋の文化祭では軽音楽部の上級生バンドよりも盛り上がったのは、後々まで自慢したくなるエピソードのひとつだ。


 高校2年生にもなると周りにも評判が広がり、他校の文化祭にも演奏で呼ばれるようになった。


 評判や盛り上がりをみせたのは僕らの楽曲だけのせいじゃない。やはり金髪に白い肌、スタイル抜群の女子高生ギタリストの存在が大きかったと思う。高校生にもなるとアンジェルは身長も伸びてますます女性的な身体つきになっていた。そうなると周囲から思春期真っ只中の野獣のような男子が食いついてくる。


 だからヒヤヒヤすることは多々あった。文化祭のライブでは僕ら2人は制服で演奏するので、アンジェルの短いスカートから伸びる白い脚だったり、彼女は時おりモニターに片足を乗せたり、クルクル回りながらギターを弾いたりするのでその度にスカートの中に人の視線が集中する。「文化祭も制服じゃなくて衣装にすれば?」と聞いても本人曰く「見られても良い下着だから。」と毎回笑って返された。


 意外にも女子生徒からもアンジェルは人気だったので、男子があまりいやらしい目で見ていると周囲の女子生徒から白い目で見られてしまう。なので奇妙なバランスが取られていたようだった。アンジェルに過剰な人気が集まっても、僕は特別に嫉妬はしなかった。なににしても僕自身が彼女のファンのひとりだったからである。


「おい、あの子を俺に紹介しろよ!」とか「お前、彼女とどこまでやったんだよ。」とか学校で男子に聞かれるのは日常茶飯事だった。ただ助かったのはサポートのカミュとポールの存在だった。彼らがバックにいるのでそこまで執拗に絡まれることがなかったような気がする。ポールは長身でガタイが良くドラムもパワータイプ。カミュはあくまでライブだけで見ると、頭を振って、タトゥーが入った両腕でベースを弾いてる完全に頭がおかしい人。そんな人が仲間だと思われていたわけで、ヤバい奴がひとりふたりいるバンドは当時は結構警戒されていたのだ。


 アンジェルと一緒にいると嫌でも目立ってしまう。僕らは楽器店へ行くことが当然にあった。そうするとアンジェルは繫華街だったりお店の中だったりで、いわゆる輩系といわれる連中に絡まれてしまうことがある。そんなときにポールとカミュには幾度となく助けられたんだ。彼らが現れるとみんな蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまう。ただ僕らふたりきりのときは逃げの一手だったが・・・。


「ヒデくんのバンドのアンジェルがさ、この前の金曜の夜に△組の○○くんと肩を組んで歩いてたぜ。ほんとだって。で、そのままホテルに入っていった!」


 この友達の噓には参った。聞いたとき真に受けてしまった僕はドキドキしながらアンジェルに恐る恐る確認した。


「は?金曜日の夜?ねぇその日ってさ、私たち一緒にスタジオに居たよね?しかも明け方近くまで。でさ、ヒデがうちまで送ってくれたじゃない。」


「あ、あれ?言われてみればそうだったような・・・。」


「そうでしょ?あ、ほら帰り道が寒かったからヒデがマフラー貸してくれたじゃない!」


「あぁ!その日だ!自販機で缶のコーンスープ買ったよね!全部きみに飲まれちゃったけど。」


「はぁ、いらないことだけ覚えてる。」


 こんな噂はそのあとなかなか無かったけれど、僕は結構そんな他人の噂話に振り回されることもあった。


 いつか僕がライブの途中で喉を潰してしてしまったことがある。するとアンジェルがボーカルを替わってくれた。それはそれでライブが盛り上がったので、それ以降は僕とアンジェルで歌う曲を決めておいてボーカルをスイッチする形態にした。これがまた高評価を得てバンドの人気が上がっていったんだ。


 アンジェルはファッションセンスにも長けていた。ステージ衣装も自分で色々と作っていた。ジーンズを片方だけ太ももの付け根くらいまで短く切って、反対側はズタズタなダメージジーンズみたいに仕上げてはいていたり、髪を立ててみたり、顔の半分に奇抜なメイクをしてみたり。で、僕までアンジェルにアレコレといじられたりしてメイクされたことも多々あった。


 彼女は勉強もそこそこできたし運動神経も良いので学校でも人気者だった。休み時間になると彼女の周りには男女問わず自然と生徒が集まっていた。僕はアンジェルとは別のクラスだったが、僕の周りはたまに集まってくれるくらいでアンジェルにはとても敵わない。みんな多感な時期なので、そんなアンジェルを妬むような生徒も実際にいたが、嫌がらせをしようにもファンの方が圧倒的だったので手出しができないという、今考えても特殊なケースだったと思う。


 それだけ彼女の魅力というのは突出していたものだったんだ。

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