第4話 アンジェルとの出会い ~No.2~
アンジェルは僕とは違う中学校へ通っていたが、住んでいる家はそう遠くはなかった。僕のような平凡な団地住まいではなく、閑静な住宅街にあって使用人がいる立派な一軒家に住んでいることを除いては、さほど生活環境に違いはなかった。
「あぁ、あのときに聞こえていた歌声はきみの声だったんだ。」
「外に聞こえていたんだ。ここのスタジオは壁が薄いもんね。ここってマイクとアンプを通すと外に丸聞こえだもんね。」
僕らは例の公民館のスタジオに来ていた。
「きみのギターケースって誰かのお古なの?」と僕は言いながらレンタルのエレキギターのチューニングをしていた。
「ケースだけじゃなくて、なかのギターもね。」というと彼女はケースから古そうなフォークギターを取り出した。
「これはパパのお古なの。私がギターが欲しいって言ったら、まずこれで練習をしろって。ある程度弾けるようになったら欲しいギターをプレゼントするって約束したの。で、メチャクチャ練習して課題曲をクリアしたってわけ。」
「へぇ。・・・で、クリアして新しいギターを買ってもらったの?」と僕は課題曲が何だったのか聞く前にこう聞いてしまったのは、僕も新しいギターにとても興味があったからだ。今になって思い返せばアンジェルはそのとき「あ、そっちが先に気になるのね?」と言いたそうな表情をしていた。
「うん、買ってもらったよ。私ね、本来はこのフォークでじゃなくてエレキでこんなのを弾きたかったの。」
こう言うと僕のレンタルギターをサッと取り上げて自分の肩にかけてしまった。そしてシールドをアンプにつなげると、とんでもないハードロックなフレーズを弾き始めた。
僕は衝撃を受けた。僕が弾きたかったものハードロックやヘビーメタルだったからだ。同級生と組んでいるバンドはビートロックと言われる種類で、とあるグループのコピーバンドなのだが、僕は小学校の卒業前からあるハードロックバンドにハマっていたから現状に少し不満があったのだ。気の合う音楽仲間に出会えた。そこに思春期の僕は感激をしていたのだった。そして僕が嫉妬してしまうほど、当時にして彼女のギターの腕前が達者だったことも鮮烈に記憶している。
一気に僕の頭の中に色々なビジョンが閃いてあふれ出した。僕はアンジェルとバンドを組みたい。今のクラスメイトのバンドにアンジェルを加入させる?いやそれは僕らが好きな音楽とジャンルが違うし、なにか判らないがクラスメイトなんかにアンジェルの存在を知られたくない。そんなちょっとした独占欲みたいなものも生まれて初めて僕の中に膨らんでいたのだ。
ところが彼女の思い描く音楽像とは、僕のビジョンなんか軽く吹き飛ぶほど遥かに上を行っていたんだ。
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