第12話 やらかしたと気づく瞬間

 謁見の間に呼び出された旅人は、玉座に座る国王に聞いた。


「……どういうことでしょうか……? この国に、跡継ぎはいないと聞いていましたが……」

「うむ。単刀直入に言おう。それは嘘じゃ。いや、今しがた嘘になった」

「……嘘になった……?」


 旅人が首を傾げ、王が続ける。


「うむ。この国の跡継ぎ、つまり私の息子は生まれた直後に亡くなった。今まで、そう思っておった」

「……王のご子息は、出生直後に魔物に連れ去られたと聞いていますが……」

「ああ、そうじゃ。それからすでに……15年もの年月が経過した。生きてなどおるまいと……諦めていた」


 小さな子供が魔物に連れされられる。


 そんな状態で生きていられるはずがない。息子が死んだと思うのは無理もない。


「しかし……!」王は立ち上がり、「私の息子は生きていた……立派に成長し、たくましい男になっていたのじゃ……!」

「ほう……それは良かった。して、そのご子息はどこにいらっしゃるんですか? どんなお方なんですか?」

「ああ……精悍な若者じゃ。数々の苦難を乗り越え、多くの人間に慕われる人間になっている」

「なるほど……ならば後継ぎとしての才覚も申し分ない……」魔物にさらわれて、よくぞそこまで成長したものだ。「一度会ってみたいものですね。今はどちらに?」


 旅人が聞くと、王はあっさりと答えた。


「私の目の前にいる」

「……は……?」

「お前じゃ」

「……俺……ですか?」


 俺が……王様の息子?


 理解が追いつかないうちに、王が立ち上がる。そして興奮した様子で叫んだ。


「今すぐ宴の用意じゃ! 今ここに……王子王子のご帰還じゃ!」

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