第8話 急に不安になるやつ

「ねぇ……」学校の屋上で、先輩が言った。「ちょっと伝えておきたいことがあるんだけど……聞いてくれる?」

「……なんですか?」


 急に風がやんだ。世界のすべてが先輩の言葉を待っているように感じて、僕の心臓は高鳴りっぱなしだった。


 僕は今日……先輩に屋上に呼び出されたのだ。憧れの先輩に。


 まさか、と淡い希望を持ってしまう。心臓がうるさくて仕方がない。


「……鍵かけたっけ……」先輩は僕の名前を呼んで、「私がキミのことを好きだと言ったら、笑うかな」

「……え……?」


 理解が追いつかない僕をおいて、先輩が言う。


「一目惚れってやつかな。キミを始めてみたときから、ずっと気になってた。事あるごとに……鍵かけたっけ、鍵かけたっけ……その言葉が、キミの名前が浮かんでくるの」


 恋は盲目、と先輩は続けた。


「フラレてもいいの、鍵かけたっけ……キミに気持ちを伝えたくなったの」

「え……あの……」臆病な僕は、野暮なことを言ってしまう。「それ、本当に僕ですか……? 別人と勘違いしてるとか……」


 別に僕の名前は珍しいものじゃない。どこにでもあるありきたりな名前だ。


「間違いなくキミだよ。鍵かけたっけ……」


 どうやら本気らしい。


「えっと、その……あの……」

「……ストレートに伝えるね。これが私の気持ち」


 先輩は深呼吸をしてから。


「私と付き合ってくれると嬉しいな。鍵かけたっけ……」

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