第25話 ご機嫌ななめ

 中川が帰ったあと、僕はしばらく体育館裏にいた。

 ぐるぐると、中川と話したことが頭の中を回り続けている。

 夏絵手は僕が朱雀だと気づいているっぽくて、中川は僕が好き……。

 うう、頭がパンクしそうだ……。

「優」

「ぴゃっ」

 背後からかけられた声に、僕はビクッと大きく身体を揺らした。

 ひ、響の声……だけど、めちゃくちゃ冷たくない?

 おそるおそる振り返ると、そこにいたのは、やはり響だ。

 ただ、半眼だし、口をへの字に曲げているし、僕を見下ろすその目が、異常なほど冷たくて威圧感がすごい……。

「ど、どうした……?」

「別に」

 別に……って、絶対に何かあったよな!?

 どうしたんだよ、本当に。

 響は僕を見つめたあと、小さく息を吐いた。

「俺は、渡辺さんの想像どおりの優等生らしい」

「渡辺……? あのおとなしそうな子か」

 響のクラスメイトなら、たいてい知り合いだ。

 あの渡辺に、何か言われたのだろうか。

 ひどいことは言わないタイプだと思うけどな。

 思いやりがある優しい子ってイメージ。

 とにかく、何があったのかはわからないけど、響の機嫌が悪くなるようなことだったことはわかった。

「優は、俺をどう思う?」

「ん? んー、頑張り屋さんかなぁ」

 急に聞かれて、僕は首をかしげた。

 思いついたことを、そのまま言う。

「……優等生だって思う?」

「そりゃあ思うよ。でも、それって響が頑張ってるから、言われることだろ? 僕は、結果と過程の両方とも大事かな。響はいつも頑張ってて、えらいね」

「…………うん」

 僕がほほ笑みかけると、響はうつむいて、小さくうなずく。

 僕はしゃがんでるから、響がうつむいても表情が見える。

 響の目は潤んでいた。

 両手でセーターの裾をつかんで、涙を必死にこらえている。

「えっ、だ、大丈夫!? 響、どうした!?」

 僕はギョッと慌てふためいて、立ち上がると響に駆け寄る。

 すると、響は僕から顔をそらした。

 泣き顔を見せたくないのかもしれない。

「なんでもない……! ……帰る」

「え? 部活は?」

「今日はどこも休み。帰りの会で先生が言ってた。聞いてなかったのかよ。馬鹿アホ、ポンコツ、マヌケ、おたんこなす、スットコドッコイ」

「あ、ああ、そうだった。でも、なんでそんなに罵るんだよ、ひどいよ響」

「知らない知らない知らなーい。こんなこと言わせる優が悪いんだ」

 めちゃくちゃ早口だ。

 そして足が速いな。

「待ってよ響」

 僕は機嫌が悪い響を、急いで追いかけたのだった。

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