第20話 気になる手紙

 教室につくと、席に向かう。

 通学カバンを机に下ろして、朝の用意を始めた。

 遅刻ギリギリだったな。

 洗濯物があんなことになるなんて。

 響が手伝ってくれて良かった。

「……ん?」

 机の中に手を入れた時、紙のザラッとした感触がした。

 持って帰り忘れたプリントでもあったのかな?

 首を傾げながら、それを取り出す。

 それは、まったく見覚えのないものだった。

「なんだこれ?」

 1つは、白い便箋。もう1つは、黒い便箋だ。

 差出人の名前は書かれていない。

 とりあえず、白い方を開いてみる。

「『明日の放課後に体育館裏に来てください』……?」

 なんだろう、これ。

 何かの用事かな?

 わざわざ手紙をよこすくらい大事なことかもしれないから、行ってもいいかも。

 殺し屋として考えると、罠の可能性もあるけど、それはどうにかして対応すればいい。

 でも体育館裏って、日が当たらなくてジメジメしてるところだよね。

 あんまり近寄りたくないんだよなぁ。

 黒い方はどうかな?

「『お前の秘密を知っている』。……は?」

 ぼ、僕の秘密……って。

 まさか「殺し屋」だってこと?

 いや、慌てるな僕。まだ続きがある。

「『バラされたくなければ、明日の放課後に2階の空き教室へ来い』? 体育館裏と時間被ってるじゃん」

 ……じゃなくて。

 僕の秘密ってなんだろう。

 もし、これが殺し屋のことだとしたら、かなりヤバイよね。

 これを無視して、白い手紙の方へ行ったら、今後どうなるか……。

「どうしよ……」

「おはよう宮日くん」

 眉間にシワを寄せる僕に挨拶したのは、中川だ。

 超モテる美人で、ファンクラブ(無料)まである。

「おはよ」

「来てくれて嬉しいよ。宮日くん遅かったから、今日はお休みかと思っちゃった」

 にっこり笑顔を見せる。

 そのとたん、教室中からほうっとため息が聞こえた。

 みんな中川に注目している。

「いいよなぁ宮日。中川さんから話しかけられてさ。あんなに美人な女子、中川さんの他にいないよ。もう天使だろ。天からやってきた女神様だろ」

「中川さんはマジで可愛い。ところで宮日って、中川さんに恋愛感情ないよな。みんな中川さんが気になってるのに、宮日はそんな素振り見せねーじゃん」

「あー、それ思った。宮日もしかして、他に好きな人いんのかな? そんな感じないけど、可能性はあるよな」

「いや、剣道一筋じゃね? 恋愛してる暇ないと思う。実際、剣道に全振りしてて、勉強の成績良くないし」

 ため息をついたクラスメイトの内の2人が、中川を見つめたまま話す。

 2人とも、しれっと僕をけなしてない?

 たしかに成績は良くないけどさ……。

「宮日くん?」

 中川が僕を呼ぶ。

「ごめん。何?」

「さっき、うーん……って言ってたでしょ? 大丈夫?」

 中川は僕の真似をしたのか、眉を寄せてぎゅうっと目をつむる。

 小動物や小さな子を見ているような、心臓をキュッとつかまれる感覚がする。

 これだけかわいければ、そりゃあモテるだろう。

 守りたくなるんだろうね。

「あー、それ大丈夫、大丈夫。何もないよ」

「本当? それなら良かった」

 安心したようにほほ笑む中川は、やっぱりかわいい。

 さすがモテ女。

「宮日ぃ、姫乃と2人でお話? 夏絵手さんがとなりでぼっちだよぉー」

 斜め前の席の蜂田が僕に言った。

 蜂田は中川と幼なじみで、2人は親友だ。

 僕と響みたいな感じだね。

「夏絵手がぼっち?」

 となりの席の夏絵手を見ると、目があった。

 あれ……なんか睨まれてる?

「おはようございます。宮日さん」

 声のトーンや話し方は、いつもと変わらないけど……。

「おはよう。元気?」

「なぜですか? 元気に決まっていますよ」

 ツン、と返された。

「ごめん。不機嫌そうだなと思った」

「……昨日、雫を置いて帰ったの、少し悲しかったですよ」

「ごめん。……えっと、一緒に帰りたかったなら、そう言ってほしかった……かも」

 僕が言うと、夏絵手は視線をさまよわせる。

 それから目を伏せた。

 左手で右腕の袖を、ギュ……とつかむ。

「……ごめんなさい。余計なことでしたね」

 か細い声で、それだけを言う。

「いや、謝ってほしいわけじゃ、なくて……」

 夏絵手の暗い表情が、僕の言葉を消した。

「……」

 僕はただ夏絵手を見つめる。

 彼女の表情が、映画から切り抜かれた画像のように見えて、『綺麗だ』と思ってしまう。

 そんなことを思っていい状況じゃないのに。

「……何か?」

「え、あ、ううん。なんでもない」

 いぶかしげな顔をする夏絵手に、作り笑いを向けた。

「準備しなきゃ」

 気を取り直すために、わざと声に出す。

 夏絵手は、何を考えているかわからない表情で、僕を見つめるのだった。

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