第17話 雑談
放課後、学校の中庭でのこと。
今日は定時退校日だから、どの部活も休みだ。
僕は響と2人で、中庭のベンチに座っていた。
響がクラスメイトに頼まれて、花の絵を書いているんだ。
中庭に咲いている花をデッサンすることにしたみたい。
もう終わりがけらしく、細かい部分を描き込んでいる。
にしても、上手いなぁ。
本当になんでもできるよね。
「あっ、宮日さんと、後輩」
ふと聞こえた声に、僕は顔を上げる。
この高くて可愛らしい、けれど落ち着いた声といえば……。
「あぁ、夏絵手先輩か」
響は、心底嫌そうな声で言う。
ただし、表情はたいして変わらない。
「2人で、何をしておられるのですか?」
夏絵手は、ベンチに座る。
僕の右隣だ。
『朱雀』が好きなのに、『優』の隣に座るの……?
嬉しいような、ムッとするような……。
ていうか、心音がうるさい。
「花のデッサンですよ」
「僕は響と一緒に帰ろうと思って、ここで待ってるんだ」
「二人とも、仲良しでいいですね」
キラキラと目を輝かせる夏絵手に、胸がキュッとなった。
気がつくと「かわいい」と思ってしまっている。
それもこれも、惚れ薬のせいだ。
「先輩は、部活動入ったんですか?」
響がきく。
表情を見るに、特に興味があって聞いたわけではなさそうだ。
絵を描き終わったようで、鉛筆を筆箱にしまっている。
「雫は何も。科学部で実験をしたかったのですが、ありませんでした」
「あるわけない、そんな危険そうな部活」
響は、やれやれと肩をすくめて、ため息をついた。
パタンとスケッチブックを閉じる。
筆箱とスケッチブックを、丁寧に通学カバンに入れた。
そんな響を見て、夏絵手はジト目をさらにジト目にした。
「むぅ、後輩。頭の悪いやつは嫌いだ、みたいな顔をしていますね」
「嫌いですよ。優は別として」
遠回しに、頭悪いって言われたんですけど。
「ふぅーん……。後輩は頭が良いんですね。この前の期末テストの五教科、何点ですか」
「496点」
「人間やめましたか?」
スラッと、なんでもないことのように言う響に、夏絵手は目を丸くする。
そりゃ、そうだよね。
響の点数は、桁違いだよ。
100点が、一体いくつあるんだか。
一度でいいから、そんな点数取ってみたいけど……僕には絶対に無理。
「実は、恥ずかしながら4点全部ケアレスミスで落としまして」
「つまり、やめたと」
そう言うよりも、『頑張ってるね』って言ったほうが、響にとっては良いと思うんだけど……。
「優、帰るぞ」
「えっ?」
響はとつぜん立ち上がると、僕のリュックを人質に早足で歩いていく。
普段の無表情は、どこか機嫌が悪そう。
一瞬、夏絵手を軽蔑するように見ていたのは、気のせいだろうか。
「ちょっと待って」
僕は急いで追いかけた。
僕のリュックが連れてかれちゃうよ。
「あー、雫を置いていくおつもりですね! 後輩は、イジワルです!」
後ろから、夏絵手の声が聞こえる。
頬をふくらませて怒っている様子が、容易に想像できた。
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