第12話 対話②

「初めまして。朱雀様」

 そう言って、彼――キョウはかすかにほほ笑んだ。

 僕は、キョウを凝視する。

「……」

 ……響だよね?

 僕が、響と他の誰かを見間違えるはずがない。

 だって、響とは小さいころからずっと一緒だから。

 絶対に、間違えることなんてない。

 今、僕の目の前にいるのは、たしかに響だ。

 でも……殺し屋? 響が? そんなわけ……。

「優、ビックリした?」

 キョウは僕の顔をのぞき込む。

 名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。

 これが響じゃなかったら、僕の本名がバレていることになる。

 でも、この子は響だ。

 彼の表情は、僕がよく知っている、響のものだから。

 安心すると同時に、冷や汗が頬を伝う。

「どうして、ここに……」

「〝どうして〟? 〝どうして〟って…………優ならわかるだろ?」

 響は笑う。

 普段は僕にだけ見せる、あの笑顔だ。

 優等生らしくない、ちょっといたずらっぽい笑顔。

 周りの人には、絶対に見せない。

「響、帰って。危ない」

 早く、殺し屋から遠ざけなきゃって思った。

 響には、変わらずにいてほしい。

 人を殺したら、二度と昔のようには戻れない。

 今まで誰も傷つけていないのなら、まだ間に合う。

「なんで帰らなきゃいけないの?」

 響は、ちょっと機嫌を悪くした。

 かすかに表情が変わる。

 僕に言われたことが、気に食わなかったんだろう。

 いつもの響は無表情だから、少し驚いた。

「危ないって言っただろ」

「嫌だ」

 響は、首を横に振る。

「なんで?」

「俺が『俺』でいられる場所なんて、ここ以外にないんだよ」

 ひどく冷たい目だった。

 何もかも諦めたような……いや、諦めたというよりは、何かに失望したみたいだ。

「そういうことだ、朱雀。諦めて、任務を遂行しろ」

 ボスが僕に言い聞かせるように言う。

 僕は響と、人を殺しに行くってことか。

「キョウの普段の仕事は、お前を監視することだが、今回はキョウの力が必要だ」

 そこで、僕の頭にはクエスチョンマークが大量発生した。

 おそるおそる、響を見る。

「僕の監視って……」

「てへっ」

「……」

 なんで表情が変わらないんだよ。

 仕草はちゃんと「てへっ」なのに無表情。

 さっきは少し変わってたのに。

 お前に対して、とにかく嫌〜な気持ちを感じたけど、なんかどうでも良くなった。

「あははっ。さすが優だな」

「どういう意味だよ」

「え? ポンコツってこと――痛いっ!?」

 おっと、ごめん。手が出てしまった。

 響は叩かれた左肩をさすりながら、

「ごめんって……。そんな本気で怒らなくてもいいのに」

 と謝ってきた。

 別に本気で怒ってはないけどさ……。

 まあなんというか、イラッとしたんだよ。

「とりあえず、行くか」

 響は、ため息をついた。

「任務遂行だ。朱雀様」

 その言葉に、僕は戸惑う。

「何も詳しいこと聞いてないけど」

「大丈夫。俺がついてるから。お前は俺の言う通りに動けばいいんだよ」

 響はそう言うと、ほほ笑んだ。

 その表情は、見た人みんなをコロッと恋に落としてしまいそうな――つまり、不本意だけど……カッコよかった。

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