第12話 対話②(2025/02/09改稿)

「初めまして。朱雀様」


 そう言って、彼――キョウはかすかにほほ笑んだ。

 僕はキョウを凝視する。


「……」


 ……響だよね?

 僕が響と他の誰かを見間違えるはずがない。

 だって、響とは小さいころからずっと一緒だから。

 絶対に間違えることなんてない。

 今、僕の目の前にいるのは、たしかに響だ。

 でも……殺し屋? 響が? そんなわけ……。

 頭の中でグルグル考えていると、キョウがクスッと笑った。


「優、ビックリした?」


 キョウは僕の顔をのぞき込む。

 名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。

 これが響じゃなかったら、僕の本名がバレていることになる。

 でも、この子は響だ。

 彼の表情は、僕がよく知っている響のものだから。

 安心すると同時に、冷や汗が頬を伝う。


「どうしてここに……」

「どうして……? どうしてって……優ならわかるだろ?」


 響は笑う。

 普段は僕にだけ見せる、あの笑顔だ。

 優等生らしくない、ちょっといたずらっぽい笑顔。

 周りの人には、絶対に見せない。


「響、帰って。危ない」


 早く殺し屋から遠ざけなきゃって思った。

 響には、変わらずにいてほしい。

 人を殺したら、二度と昔のようには戻れない。

 今まで誰も傷つけていないのなら、まだ間に合う。


「なんで帰らなきゃいけないの?」


 響は、ちょっと機嫌を悪くした。

 かすかに表情が変わる。

 笑顔のままだけど、少しだけ眉が下がった。

 僕に言われたことが気に食わなかったんだろう。


「危ないって言っただろ」

「危ないことくらい知ってる。でも嫌だ」

「なんで?」


 犯罪者が――人殺しが集まっているんだよ。

 危ないどころじゃない、いつ誰が響を殺そうとするかわからない。

 それなのに、どうして嫌なの?


「俺が『俺』でいられる場所なんて、ここ以外にないんだよ」


 ひどく冷たい目だった。

 何もかも諦めたような……いや、諦めたというよりは、何かに失望したみたいだ。


「そういうことだ朱雀。諦めて任務を遂行しろ」


 ボスが僕に言い聞かせるように言う。

 僕は響と一緒に人を殺しに行くってことか。

 嫌だな……。

 響を人殺しに加担させたくないよ。


「キョウの普段の仕事は朱雀を監視することだが、今回はキョウの力が必要だ」


 そこで、僕の頭にはクエスチョンマークが大量発生した。

 おそるおそる、響を見る。


「僕の監視って……」

「てへっ」

「……」


 なんで表情が変わらないんだよ。

 仕草はちゃんと「てへっ」なのに無表情。

 さっきは少し変わってたのに。

 お前に対して嫌〜な気持ちを感じたけど、どうでも良くなった。


「あははっ。さすが優だな」

「どういう意味だよ」

「え? アホってこと――痛いっ!?」


 ごめん。手が出てしまった。

 アホは許さない。

 ポンコツならいいけど。

 響は叩かれた左肩をさすりながら、


「ごめんって……。そんな本気で怒らなくてもいいのに」


 と謝ってきた。

 別に本気で怒ってはないけどさ……。

 まあなんというか、イラッとしたんだよ。


「とりあえず、行くか」


 響はため息をついた。


「任務遂行だ。朱雀様」


 その言葉に、僕は戸惑う。


「何も詳しいこと聞いてないけど」

「大丈夫。俺がついてるから。お前は俺の言う通りに動けばいいんだよ」


 響はそう言うと、ほほ笑んだ。

 その表情は、見た人みんなをコロッと恋に落としてしまいそうな――つまり、不本意だけど……かっこよかった。

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