第10話 勉強会②

 中川宅。

 広い机がある部屋で、勉強道具を広げていた。

「優。お前大丈夫?」

 突然ですが、響に叱られています。

 ふだんまったく動じない響が、大きなため息をついている。

「11×12=121? んなわけねえだろ。121は11の二乗だぞ」

「た、ただの計算ミスだしぃ……。てか二乗って何?」

「ある数にある数と同じ数をかけるんだよ。11の二乗は11×11。わかった?」

「……うん」

 頑張らなきゃ。

 後輩に教えられるなんて、先輩としては恥ずかしい。

 僕は教科書の問題に、もう一度向き合った。

「………………」

 んっと、ここはこう……だから、これは……。

 く……響の圧がすごい。

「お、いいじゃん。解けてるよ」

「マジ!?」

 とつぜん響に褒められて、パッと嬉しくなる。

「二人とも、本当に仲良しだね」

 中川が僕らに話しかけた。

 蜂田と田中も、コクコクうなずいている。

「宮日さんは、お勉強が苦手なんですね」

「夏絵手は?」

「理科が得意で、それ以外は人並みです」

「ふーん……」

 理科以外は人並みか……。

 人並みなだけでもすごいよ。

「……でも、雫は前の学校にあまり通えていなかったので、習っていないところの成績は悪いですよ」

 そうなんだ。通えていなかった……か。

 気になるけど、深く追求しないでおこう。

「後輩は、お勉強しなくていいんですか?」

 たしかに。響も教えてばっかりじゃ困るよな。

「響、勉強したら? お母さんとも、色々あるでしょ」

「それは、まあ……」

 響のお母さんは、響がいい成績を保つのが嬉しいらしい。

 響はお母さんが大好きだから、お母さんを喜ばせたい。

 だから、いつもいつも勉強を頑張ってるんだ。

 正直、心配になるけど……。

 でも、響は今、勉強したいんじゃないかな。

「俺は、帰ってからします」

「でも、勉強したくてウズウズしてるんじゃない?」

「チッ。勘の鋭いやつ」

 クールキャラのくせに、舌打ちなんかしちゃって。

 響のことが好きな女子たちが見たら、泣いちゃうよ。

「好きになってって、頼んでないから」

「響がイケメンで優しくて、頭も良くて、スポーツもできる優等生だから、みんな好きになるんだろ?」

 もう芸能人にでも、なっちゃえば?

「不知火、すごいよねぇ。模範的な優等生だよぉ……」

 蜂田が羨ましそうに言った。

 すると、中川と田中も乗っかる。

「不知火くんは、本当に頑張ってて偉いと思う」

「先生からの評判もいいもんな」

「響はいいことばっかりするよね」

 僕も乗っかる。

 すると、響はほほ笑んだ。

「だって、優等生だもん」

 その笑顔は、響のものじゃなかった。

 響は、こんな笑い方しない。

「大丈夫?」

「ん? なんで?」

 あれ……気のせいかな。

 すごく、無理しているように見えたのは。

「もうこの話はおしまい。勉強しよ、勉強」

 響は僕の頭をポンポンなでる。

 僕のほうが年上なのにな。

「ねえ、響。連立方程式って何?」

「2つの式を使って、xとyの値を求めるんだよ。ほら、ここは……」

 僕が聞くと、響は教えてくれる。

 こうして僕たちは、勉強を再開した。

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