第6話 案内

「宮日さん、第1理科室はどこですか」

 1時間目は、理科の授業で生物の実験をするらしい。

 だから移動教室なんだけど、さっそく夏絵手に話しかけられた。

 転校生に他の教室の場所なんて、わかるわけがないよね。

「一緒に行こうか」

 となりの席ということもあり、先生にお世話係を頼まれた。

 どうせなら、席が近い女子(例えば蜂田)に頼めばよかったのに。

「宮日さんは、理科好きですか?」

「理科? あんまり好きじゃないかな。そもそも、勉強苦手だから」

「そうなのですね」

 夏絵手は、しきりに話しかけてくる。

 正直、やめてほしい。

 宮日優=朱雀だと気づかれたら、僕の生活がおびやかされる。

「雫は、理科好きです。でも、みんなと同じスピードで同じ内容を学ぶのは、好きではありません。理科ならば教科書を読めばわかりますから」

「そうなんだ。よかったじゃん、授業中に寝れるよ」

「雫は、そんなに不真面目じゃないのです」

 不真面目だと言われてしまった。

 それにしても……。

 僕は、そっと夏絵手を盗み見る。

 このかわいさは、一体どこからあらわれているんだろう?

「……なんですか?」

「いえ、なんでもありません」

 サッと、目をそらす。

 変態だと言われたら大変だ。

「……」

 ん? 何か、視線を感じる……。

 目をそらしたばかりなのに、僕は夏絵手を見た。

 しっかり目があって、やっぱり見られてたんだと確信する。

 夏絵手は、ムムム……とうなっていた。

 まゆを寄せて、ジト目をさらにジト目にしている。

「ど、どうかした?」

「朱雀様に、そっくりです。もしかして……」

 ギクリ。

 もしかして、バレた?

「朱雀様のファンですか?」

「へ?」

 拍子抜けした。

 どうしてファンってことになるのだろうか。

 そして、夏絵手が目をキラキラさせて、本気で言ってるのが余計に不思議。

「真似したい気持ちは、とってもわかります。朱雀様は、カッコいいですから。困ってたところを、助けてもらったのでしょう?」

 夏絵手は、僕の手を取って、興奮ぎみに話す。

「えっ……と……うん!」

 ここは、話を合わせよう。

 せっかく、夏絵手が勘違いしてくれているんだし。

「では、あなたを『朱雀様ファンクラブ会員3号』に任命します!」

「ど、どーも」

 なんだ、その『朱雀様ファンクラブ』って。

 聞いたことないぞ。

 会員3号ってことは、あと2人いるんだよね。

「1号は、雫なのです!」

 うん、だと思った。

 一番つくりそうだもん。

「2号は?」

 ただ気になって、聞いてみた。

 夏絵手が、目を細めて大人っぽくほほ笑んだ、と思ったら。

「ナイショですよ」

 夏絵手は、僕の頭をポンとなでたあと、僕を置いて、軽い足取りで廊下を進んでいった。

 廊下の突き当たりにある第1理科室に、満面の笑みで入るのが見えた。

 今、なでられたよな……?

「距離感、バグってる……」

 放心状態で立ち止まっていると、キーンコーンカーンコーン……と、1時間目が始まる合図が響いた。

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