第4話 優と響(2025/01/05改稿)
楓に惚れ薬を飲まされた日から、夜中に目が覚めやすくなった。
理由は簡単。楓が夢に出るせいだ。
惚れ薬を飲まされたときの記憶がそのまま夢になっている。
あんなの悪夢だよ。もう嫌だ……。
もともと寝不足気味なのに、余計に眠れなくなってしまった。
「はあぁ……」
登校中、大きなため息をついた。
朝から気分が沈んでいると、いいことが起こらない気がする。
「――おはよう、優」
「ひっ!?」
声をかけられて、油断していたため心臓が飛び跳ねた。
振り返ると、幼馴染であり親友である
「……びっくりした。急に大きな声出すなよ」
「いつもどおりに見えるけど」
「まあまあ。気にしないで」
お前が無表情だから嘘か本当かわからないんだよ。
まあ幼馴染だし、少しはなんとなくわかるけどさ。
「あのさ、昨日一緒に出かけただろ。そのことで話したい」
「カラオケに行ったこと?」
僕は昨日のことを思い出した。
☆
日曜日のお昼時、ここらへんではなかなか人気のあるカラオケに来た。
「実はカラオケ初めてなんだよね」
響は笑顔を見せて嬉しそうに言う。
「厳しいもんな。響のお母さん」
正確には、心配性というか。
どんな人が来るかわからない場所――カラオケ以外ならゲームセンターとか、治安が悪そうな場所に響が行くことを不安に感じるらしい。
それが響の行動を制限する厳しさに繋がっているわけだ。
「そうそう。だから、母さんには悪いけど嘘をついてきた。優に勉強を教えに行くって」
「ちょっと待って。僕のほうが1つ年上なんだけど」
「なぜか信じてくれた」
僕はそこまで頭が悪いと思われてるというわけね。
事実だけどさ……。
授業がちんぷんかんぷんで寝ると、またわからなくなって寝る……みたいな悪循環になるんだよな。
「で、そんな優に期末のことで相談があって」
「僕に勉強の相談はしないで」
「やる気が出ないんだ」
「心のほうかい」
てっきり「わからない単元があるから教えてほしい」なんて言うのかと思った。
「大丈夫。優には勉強のこと絶対に聞かないから」
響はグッと親指を立てる。
それはそうだろうけどさ、なんか傷つくんだよ。
「やる気が出ないのが原因かわからないけど、最近ケアレスミスが多くて。優なら、ミスを減らすコツを知ってるんじゃないかと」
「えー。そんなの、ミスを作らなきゃいいんだよ?」
僕が言うと、響はポカーンとマヌケ面をした。
「どうした?」
「いや、なんでもない。ありがとう」
響は首を横に振った。
なんか諦めたような顔をしているのは、気のせいじゃないよね?
「カラオケで歌わないのは金がもったいないから、歌おうかな」
「たしかに!」
「……」
呆れた顔しないで。
ちょっと頭を使うのが苦手ってだけだから。
「何歌おっかな? あっ、これ流行ったやつだ」
響が曲を選ぶと、大画面に映像が映った。
「あー、これか。最近流行ってる……」
あれ? この映像の子って……。
イントロが流れる中、僕は呆気にとられていた。
だって、楓が映っているんだもん。
かわいらしくポーズを取ったり、顔いっぱいに笑顔を浮かべたり。
そんな楓に惚れ薬を飲まされた僕が普通でいられるわけがない。
「かわいい……」
「は!? 珍しいな!?」
大声を出して驚く響は写真に撮れるほど貴重なのに、まったく目に入らなかった。
惚れ薬ってスゴイんだな……。
今まで眼中になかった子が、あんなにも輝いて見えるんだから。
☆
「おーい。優ー?」
響の呼びかけで、僕は現実に戻ってきた。
何やってんだ……みたいな顔をされる。
「で、話したいことなんだけど。優さ、カラオケで楓が映ったとき『かわいい』って言ったよな」
「……え、そこ?」
思わず響を凝視した。
恋愛に興味がないことを「今は勉強や部活に集中したいから」と言い換えて、告白を拒否する響が?
小学校の修学旅行で「恋バナするくらいなら、しっかり睡眠を取ったほうがいい」とかいう考えで、誰よりも早く寝たらしい響が……?
「なあ、なんで楓に惚れたの?」
響は目を輝かせて聞いた――わけではなく、いつも通りの無表情に近い顔で聞いてきた。
「別に惚れてないし」
惚れ薬のせいで、楓を見ると胸が苦しくなります……なんて言えるわけがない。
「楓と知り合ったのは?」
「知り合ってない」
実は殺し屋組織の一員で、一緒に任務を遂行したこともあって、かなり前から知り合いでした……と何も知らない響に言ったら、大真面目に頭の心配をされるに違いない。
「それだと、SNSや雑誌の楓だけ見て好きになっちゃったことになるけど」
僕が好きになる相手を顔で判断するやつみたいじゃん!
「だよな。優に限ってそれはない。中川先輩や蜂田先輩に、全然恋してないもん」
あの2人は恋愛対象として見るものじゃないからね。
互いに切磋琢磨して、成長し合っていく仲間だよ。
それに2人を先輩としてしか見てない響も、僕と似たようなものだろ。
「だって俺、蜂田先輩のようなムードメーカー的な立ち位置の人は好みじゃないし、中川先輩はたしかに可愛いと思うけど、それ以外の魅力がないから」
はっきり言うね。
蜂田については間違ってないと思うけど、中川の評価はちょっと違う気がする。
中川は基本的に性格が良い。蜂田の影響を受けて毒舌っぽいところもあるけど、そういうところは滅多に見ない。
告白されたときは、できる限り相手の男子を傷つけないように言葉を選んでいるみたいだよ。
魅力はあるんじゃないかなぁ。
「はいはい。俺が聞いておきたいのはそんなことじゃないんだよ」
「なんだっけ?」
「楓と、いつ、どこで、何をキッカケに知り合ったのか。教えて? 絶対に言いふらさないから」
くっ……しつこい!
あとその質問は考えても答えられないよ。
全然覚えていないんだもの。
いつ……今年だった気がするけどなぁ。
場所は多分、例の組織なんだけど……違う気もする。
キッカケは任務が同じだったから、かな?
普通に考えてそうなんだけど、覚えているわけじゃないからわからないよ。
なんて、真面目に答えるわけにはいかないので。
「……忘れた」
「ふーん。さっきと言ってることが違うなー」
「そんなのいいじゃんか!」
これ以上響に質問され続けているとボロが出そうだ。
殺し屋のことを話すことは絶対に避けなければ。
どうやって、ここを離れよう……。
と悩んでいると、1つ思い出した。
「そういえば週直だった! 先に行くね」
これはいい理由になる。
本当のことだから、響を騙しているわけでもない。
「そっか。わかった」
響は笑ってうなずいた。
良かった。これで逃げられる。
僕は通学路を走り出した。
☆
優を見送ったあと。
俺――響のスマホから、低い男性の声がした。
「朱雀はどんな調子かな」
声の主は、殺し屋組織のボスだ。
これが優となかなか面倒な関係なんだよなあ。
そしてボス本人も面倒くさい。
だから、いつも適当に返事をする。
「問題ありませんよ」
「キョウが聞いたのは、楓のことだろう……。なんのために監視員にしたと思っている」
ボスは小さなため息をつく。
キョウというのは、俺のコードネームだ。
優が組織では「朱雀」と名乗っているように、俺は「キョウ」と言う。
響を音読みしただけだから、とくにひねってない。
「まあまあ、そんなこといいじゃないですか」
優が組織の情報を漏らしていないか監視して毎日報告しろなんて、難易度が高すぎるんだよ。
ちょっと揺さぶるのが良さそうだとは思うけど、そんな質問思いつかないし。
でも、さっきのは良い感じだったと思う。
優が楓に惚れ薬を飲まされたのは知っている……と言っても、カラオケから帰ったあと楓に連絡を取るまで知らなかったんだけど。
「引き続き監視は続けます。安心してください。では、さようなら」
俺は電話を切る。
「はぁー。めんどくせー」
色々大変だけど、学校には行かなきゃな。
「また、優等生の真似事の始まりだ」
そんなことをつぶやいて、学校への道を進み始めた。
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