第3話 楓のたくらみ

 楓は、一体何を考えているのだろう。

 何がしたいのか、よくわからないけど……。

 とりあえず、変に息が苦しい。

 なんで? 惚れ薬って言ったよね?

 いや、そもそも惚れ薬って何?

「朱雀樣? 大丈夫ですか?」

 楓が僕の顔をのぞき込む。

 めちゃくちゃ心配してくれてるんだろうな……と思うほどの涙目だ。

 ねえ、息苦しさが余計にひどくなったんだけど?

 これ酸素吸えてる?

 心臓がドキドキしてるのはなんなの?

 やっぱり、惚れ薬とかいう名の毒なんじゃ……。

「ほほぅ……さては、さっそく惚れ薬が効きはじめましたね。さすが楓の惚れ薬です」

 楓は涙目だったくせに、あっという間に嬉しそうな笑顔になった。

 そして、僕に笑顔を向ける。

 ギュウッと胸を締め付けられるような、でも嫌じゃない感覚が、僕を襲った。

「楓、ずっと思っていたのですよ。朱雀樣が、楓のものにならないかなぁーって」

「……」

「いっつもそうやって、だんまりじゃないですか。楓が何を話したって、目も合わないし……」

 殺し屋同士でなれあう必要性を、感じなかったからだよ。

 ……なんて、楓に言っても意味はないだろうな。

 僕は楓に気づかれないように、ため息を逃がした。

 それにしたって不思議なことがある。

「……僕の何がいいんだよ」

 僕が知りたいことの一つだ。

 僕は楓に優しくしてないし、たぶんいい人には見えない。

 楓とは、まともに話したことも、あまりない。

 こうして話しているのが珍しいくらいだ。

「何がいい、ですか……。楓は、あなたに心惹かれたのですよ、朱雀様。それなのに、朱雀様は楓なんて、目に入ってない。楓は、振り向いてほしいのに……」

 楓はムスッと頰をふくらませた。

 ハムスターみたいに見える。

 何だこの生き物、可愛いな。

 ……って、何を考えてるんだ僕は。

 一体どうしちゃったんだろう。

「惚れ薬は、どのくらいしたら効かなくなるんだ」

 とりあえず聞いておく。

「この惚れ薬は打ち消しの薬を飲まないと、効果は消えませんよ。四六時中楓を想って、苦しんでください」

 楓は、そう言ってほほ笑んだ。

 いつもなら、ここでため息をつくか、「は?」とでも言ってしまったことだろう。

 でも、今日は違った。

 楓の笑顔が、とてつもなく可愛らしいと思ってしまったんだ。

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