第1話 普通の少年

 11月の中頃、だんだん寒さが増してくる時期。

 学校が終わって、放課後になった。

 僕・宮日みやびゆうは、部活場所へと急いでいた。

 早く部活を始めたいな。

「やっほー、優!」

 そのときとつぜん、重荷を背負っているような感覚がして一瞬転びかけた。

 まっ、まさか、敵襲!?

 勢いよく振り向いて、飛びついてきた相手を見ると、ホッと息をついた。

「なんだ、響か」

 飛びついてきたのは、幼なじみで親友の不知火しらぬいひびき

 1つ年下で、とにかく良いやつだ。

 素直クールってやつだろうか。

 めちゃくちゃ素直で、何があっても動じず冷静沈着。

 ……のはずなんだけど、僕にだけはちょっと違う。

 言うなれば、素直+デレだな。

 すぐ飛びついてくるし、甘えてくる。

 顔が整ってて、マッシュヘアがよく似合うモテ男だ。

 そんな響は、ホッとする僕をきょとんと見つめている。

「そうやって飛びつくの、マジでやめてよ」 

 間違えて、斬りつけちゃうかもしれない。

 ……なんて、今は刀を持っていないから、一発なぐるだけだけど。

 という思いは、心の奥底にしまっておく。

『殺し屋』だってことは、バレないようにしないといけない。

「ごめん」

 響は、テヘッと頭をコツン。

 そういうところが憎めないんだよなぁ。

 おちゃめ、というか、イライラしないというか……よくわかんないけど。

 見てて飽きないよね。

 だって、表情が変わらないんだもん。

「優は、今日も部活?」

「うん」

「剣道部のエースだろ? プレッシャーやばそう」

 そう言われて、僕の顔が強ばるのがわかった。

「ガチやばいよ」

 信じられないほど、みんなが期待してくるんだ。

 期待するなら、主将にしてほしい。

 周りを見ることができる、スゴイ人なんだから。

 響は僕の顔を見て、僕が考えていることを悟ったのか、話題をそらした。

「優ってさ、小柄なのに運動神経抜群すぎるし、みんなにちょーどよく優しいって、なんかカッコいい」

「『なのに』とか『なんか』とか言うな」

 背が低いからなんだよ!

 めちゃくちゃ悩んでるんですけど!

 響より背が低いんだよ!?

 昔は、まだ僕のほうが高かったのにさぁ……。

「ごめんごめん。つまりさ、俺の親友はすごいって話だよ。じゃ、俺はサッカーの練習あるから」

「うん。じゃあな」

 響が部活へ向かうのを、僕は手を振りながら見送った。

 さて、僕も行こう。

 僕は、通学カバンをからいなおした。


 ☆


「ありがとうございました」

 手合わせが終わり、僕は被っていた面を取った。

「宮日〜! やっぱ、お前つえーな!」

 ガシッと肩を組んできたのは、部活仲間の田中たなか正輝まさきだ。

 剣道部のメンバーの中でも実力があるやつで、芸能人にいそうな顔をしている。

 ようするに、イケメンってこと。

 背も高くて、学年で1、2を争うくらい。

 さらに勉強もできる。

 そして性格までバッチリだから、かなりモテる。

 羨ましいね。僕は運動と家事くらいしかできないのに……。

 こんなそばに完璧なやつがいると、気分が憂鬱になるよ。

「すごいね、宮日くん!」

「努力の賜物ですなぁ」

 練習試合を見ていた中川なかがわ姫乃ひめの蜂田はちだ天音あまねが、僕にキラキラ輝く目を向けた。

 中川は、名前のとおり、日本のお姫様みたいな見た目をしている。

 姫カットで、黒髪のストレートは光を反射して輝いている。

 黒い大きな目を、長いまつ毛がより一層目立たせるんだ。

 学年1の美人じゃないかな?

 蜂田は、ショートボブのくせ毛。

 タレ目が魅惑的……と、学年の男子が口をそろえていたのを覚えている。

 中川のとなりに立っても、その姿は霞まない。

 のんびり話すから、おっとりしているように感じるけど、意外と誰よりも剣道に情熱的だ。

「宮日ってさ、お面を取ったとき、ガッカリされるより『きゃー!』って言われるタイプかもよぉ? しかも、チョー強いし!」

「ああ、それは言えてる。宮日くん、なかなかいい顔してるもん」

「そー、カッコ可愛いってやつ。小柄なのが、残念かなぁ」

 2人は、キャッキャと会話をする。

 ここは一応、華がある部活だ。

 2人は学年でもモテてるほうだから、よく羨ましがられる。

 ぜんっっぜん、いいことないのに。

 だいたい、中川と蜂田といえば、よくいる陽キャ女子みたいな雰囲気だ。

 しかも女子どもは、すぐ身長の話になるし……。

 これから伸びるのに。

「おまけに、ポンコツ〜」

「田中、だまれぇ!」

 言いながら、僕は竹刀を振るう。

 駄目だってわかってるんだよ?

 でもさ、『ポンコツ』って言われたら、やるしかないでしょ。

「あはは。今は試合中じゃねーっての」

「知ってるし!」

「お前と戦ったら、一瞬で殺されるだろうなぁ」

「首かっ切ってやるよ」

「おー怖い」

 田中は、わははと笑いながら、部室を駆け回って逃げまくる。

「俺も、もっと強くならなきゃ……」

 ポツリとつぶやく声がして、みんなでそっちを見た。

 手合わせの相手が、グッと拳を握っていた。

 彼は草薙くさなぎ圭佑けいすけという名の、同級生。

 僕に対抗心を燃やしてくる、めんどくさいやつだ。

 それなのに、なかなか身長があるから憎たらしい。

 前髪が長くて、目がすっかり隠れてしまっている。

 草薙の目を見たものは、誰一人としていないとか……。

 そして、雰囲気がとにかく暗い。

「何いってんの。草薙、宮日の次に強いじゃん」

 蜂田が言うと、草薙は首を横に振った。

 ギリ……と歯を食いしばる。

「宮日くんを、超えないと駄目なんだ」

「……そうなんだ。まー、気持ちはわかる」

「頑張れよ!」

「草薙くんなら、大丈夫、いけるよ!」

 僕を超える、か。

「草薙は十分強いんだから、あんま無理すんなよ」

 そんなの、一生できないと思うけど。

 楽しみにしとこうかな。


◆◆◆


 読んでくださり、ありがとうございます(_ _)

 自分は、剣道に詳しくないので、経験がある方を不快にさせてしまったら、申し訳ありません。

 良ければ、応援等よろしくお願いします。

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