第1話 普通の少年(2025/01/03改稿)
11月の中頃、だんだん寒さが増してくる時期のこと。
授業が終わって放課後になった。
僕――
早く剣道したいな。それに3年生は引退した後だから僕ら2年が1年生を引っ張らなきゃ。
「やっほー、優!」
突然、重荷を背負っているような感覚がして一瞬転びかけた。
まっ、まさか敵襲!?
勢いよく振り返って、飛びついてきた正体を見るとホッと息をついた。
「なんだ、響か」
「なんだって何?」
背中から飛びついてきたのは、幼なじみで親友の
1つ年下で、とにかく良いやつだ。
素直クールってやつだろうか。
めちゃくちゃ素直で、何があっても動じず冷静沈着。
……のはずなんだけど、僕にだけはちょっと違う。
言うなれば、素直+デレだな。
今のようにすぐ飛びついてくるし、距離が近いし甘えてくる。
顔が整ってて、マッシュヘアがよく似合うモテ男だ。
というのも、小学生の頃から中学生の今までに数え切れないくらい告白されている。
クラスメイトの女子だけでなく、上級生や下級生からも。とにかく年齢なんて関係なく。
中学生に上がって7ヶ月、すでに10回は告白されたらしい。
すべてハッキリキッパリ断っているのは、見方によっては冷たいやつかもしれない。
そんな響は、ホッとする僕をきょとんと見つめている。
「そうやって飛びつくの、マジでやめてよ」
間違えて、斬りつけちゃうかもしれない。
……なんて、今は刀を持っていないけど。
という思いは、心の奥底にしまっておく。
『殺し屋』だってことは、バレないようにしないといけない。
「ごめん」
響は、テヘッと頭をコツン。
そういうところが憎めないんだよなぁ。
おちゃめ、というか、イライラしないというか……よくわかんないけど、見てて飽きない。
だって表情が変わらないんだもん。
「優は、今日も部活?」
「うん」
「剣道部のエースだろ? プレッシャーやばそう」
そう言われて、僕の顔が強ばるのがわかった。
「ガチやばいよ」
信じられないほど、みんなが期待してくるんだ。
期待するなら、主将にしてほしい。
周りを見ることができる、スゴイ人なんだから。
響は僕の顔を見て、僕が考えていることを悟ったのか、話題をそらした。
「優ってさ、小柄なのに運動神経抜群すぎるし、みんなにちょうどよく優しいだろ。なんかカッコいいよな」
「『なのに』とか『なんか』とか言うな」
背が低いからなんだよ!
めちゃくちゃ悩んでるんですけど!
響より背が低いんだよ!?
昔は、まだ僕のほうが高かったのにさぁ……。
「ごめんごめん。つまり俺の親友はすごいって話だよ。じゃ、俺はサッカーの練習あるから」
「うん。じゃあな」
響が部活へ向かうのを、僕は手を振りながら見送った。
さて、僕も行こう。
僕は通学カバンを背負いなおした。
☆
部活の活動中。
手合わせが終わり、僕は被っていた面を取った。
「宮日〜! やっぱお前つえーな!」
ガシッと肩を組んできたのは、部活仲間の
剣道部のメンバーの中でも実力があるやつで、芸能人にいそうな顔をしている。
ようするに、イケメンってこと。
背も高くて、学年で1、2を争うくらい。
さらに勉強もできる。
そして性格までバッチリだから、かなりモテる。
羨ましいね。僕は体育と家事くらいしかできないのに……。
こんなそばに完璧なやつがいると、気分が憂鬱になるよ。
「すごいね、宮日くん! 尊敬するよ」
「努力の賜物ですなぁ」
練習試合を見ていた
中川は名前のとおり、日本のお姫様みたいな見た目をしている。
姫カットで、黒髪のストレートは光を反射して輝く。
黒い大きな目を、長いまつ毛がより一層目立たせるんだ。
学年1の美人だと、みんな口をそろえて言う。
中川に告白してフラれた男子生徒が、この学校に何人いることか……。
この間は執拗に迫られたようで、親友の蜂田が相手を追い払っていた。
蜂田はショートボブのくせ毛。
タレ目が魅惑的……と、学年の男子が口をそろえていたのを覚えている。
中川のとなりに立っても、その姿は霞まない。
のんびり話すから、おっとりしているように感じるけど、意外と誰よりも剣道に情熱的だ。
中川と仲が良くて、いつも一緒にいる。
「宮日はさ、お面を取ったときにガッカリされるより『きゃー!』って言われるタイプかもよぉ? しかも、チョー強いし!」
「わたしもそう思う! 宮日くん、なかなかいい顔してるもん」
「そー、カッコ可愛いってやつ。小柄なのが残念かなぁ」
2人は、キャッキャと会話をする。
ここは一応、華がある部活だ。
2人は学年でもモテてるほうだから、よく羨ましがられる。
ぜんっっぜん、いいことないのに。
だいたい中川と蜂田といえば、よくいる陽キャ女子みたいな雰囲気だ。
……黙れば美人だよ、黙ればね。
しかも女子どもはすぐ身長の話になる。
これから伸びるのに。
「おまけに、ポンコツ〜」
「田中だまれぇ!」
言いながら、僕は竹刀を振るう。
駄目だってわかってるんだよ?
でも『ポンコツ』って言われたら、やるしかないでしょ。
「あはは。今は試合中じゃねーっての」
「知ってるし!」
「お前と真剣で戦ったら、一瞬で殺されるだろうなぁ」
「首かっ切ってやるよ」
「おー怖い」
田中は、わははと笑いながら、部室を駆け回って逃げまくる。
「俺も、もっと強くならなきゃ……」
ポツリとつぶやく声がして、みんなでそっちを見た。
手合わせの相手が、グッと拳を握っている。
彼は
僕に対抗心を燃やしてくる、めんどくさいやつだ。
それなのに、なかなか身長があるから憎たらしい。
前髪が長くて、目がすっかり隠れてしまっている。
草薙の目を見たものは、誰一人としていないとか……。
そして雰囲気がとにかく暗い。
「何言ってんの。草薙は宮日の次に強いじゃん」
蜂田が言うと、草薙は首を横に振った。
ギリ……と歯を食いしばる。
「宮日くんを超えないと駄目なんだ」
「……そうなんだ。まー、気持ちはわかる。うちも悔しいもん」
「頑張れ、草薙!」
「草薙くんなら大丈夫!」
みんなが草薙を応援する中、僕は静かに考える。
僕を超える、か。
「草薙は十分強いんだから、あんま無理すんなよ」
そんなの、一生できないと思うけど。
楽しみにしとこうかな。
◆◆◆
読んでくださり、ありがとうございます(_ _)
自分は剣道に詳しくないので、経験がある方を不快にさせてしまったら申し訳ありません。
良ければ応援等よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます