閑話1 不可侵剣聖

自分の名はプリメーラ。生まれながらの剣士にして、「始めの十人」の筆頭。


生まれる前か生まれた後かは定かではないが、自分には確かな記憶がある。

「大いなる存在」は語りかけた。


ひとつ、何をおいてもスキルを極めよ。


ひとつ、「統べる者」を待ち、力を捧げよ。


ひとつ、「統べる者」を助け、魔王を排除せよ。


ひとつ、「神意排他能力増幅機関システム」を復旧せよ。


自分は問いかける。

スキルとは。

自ずとわかる。


「統べる者」とは。

遭えばわかる。


魔王とは。

異物としかわからぬ。


神意排他能力増幅機関システム」とは。

「統べる者」に託す。


赤子の自分に言葉が判るはずもないが、はっきりと覚えている。


両親はありふれた探索者だった。

娘が生まれながらの「剣士」ということに驚いたようだ。

他はどうやらそうではないらしい。


玩具というものを買い与えられた。

特に興味を示すことはなかった。

寧ろ父の扱う剣に興味を示した。


同じような年恰好の子供の集まるところに連れて行かれた。

何をすればいいのかわからなかった。

男の子が寄ってくるのがなんとなく嫌だった。


ステータスというものを教わった。

スキルをいくつか持っているのが判った。

なるほど、自ずとわかる、と。


木剣を買ってもらった。

暇があれば木剣を振るようになった。

なんとなく父に抱かれるのを避けるようになった。


五歳になる年に学園というところに入るらしい。

その前の年に家族と共にフォルティスへ引っ越しをした。

引っ越し前より太陽の位置が高い。


学園に通うようになった。

お尻を触ってくる男の子がいた。

思いっきり蹴とばしてやった。


同じ教室の女の子とは親しくなった。

プリムは可愛いねとよく言われた。

愛称で呼び合うのはそんなに悪い気がしなかった。


誰からともなく「大いなる存在」の話が出た。

同じ教室の十人全員が知っていた。

いつの間にか自分たちのことを「始めの十人」と呼ぶようになっていた。


誕生日が近くなり、誕生祝いをすることになった。

「始めの十人」はほぼ同じ誕生日だったので全員で祝い祝われた。

これ以降は自分の誕生日にお祝いを行うのが毎年の恒例となった。


ジョブのことを教わった。

自分たちは他の教室の子とは違うことを知った。

「始めの十人」の中には闘士も学士もいなかった。


スキルのことを教わった。

借りた剣でスキルを使ってみた。

壁に大きな穴をあけて怒られた。


スキルのことを聞かれた。

ステータスにあるものを教えるとふんふんしていた。

指導員おじさんの鼻息が気持ち悪かった。


勇者に会った。

六歳ぐらい年上の馴れ馴れしい男の子だった。

やはり男の子は苦手だ。


魔王の伝承について教わった。

勇者が倒すべき存在らしい。

どこにいてどんな姿をしてるのかわからないのに勇者はどうするんだろう。


自分の持っているスキルのことを把握した。

自分たちの年齢にしては破格のようだが、全体から見れば初期段階らしい。

スキルを極めるにはいったいどれほどの年月がかかるのだろう。


気に入って伸ばしている髪は腰ぐらいにまで達した。

サンクたちが自分の赤い髪を綺麗だと褒めてくれるのがとても嬉しい。

どさくさに紛れて髪に触ろうとするツヴァイクをキャットとディスがぼこぼこにしていた。


魔物について教わった。

魔物ごとに弱点や対策を叩き込まれる。覚えることがたくさんで大変だ。

倒すことでステータスを伸ばすことができると聞いて心躍る。


指導員に連れられてダンジョンに出かけた。

魔物を始めて自分の目で見て興奮した。恐怖はなかった。

ツヴァイクが勝手に攻撃をしかけてこっ酷く叱られていた。


定期的にダンジョンに行くようになった。

レベルやスキルレベルが上がると自分の成長を実感できる。

新しいスキルが増えた時には感動すら覚えた。


学園生活もそろそろ終わりに近づいてきた。

あっという間に五年も経ってしまった。

自分たちはこの先、ギルドでも特別な指導を受けることになっている。


身長も伸びて体つきが変わってきた気がする。

まだ小さいままのキャットとユイ、ディスは羨ましそうに纏わりついてくる。

カラダに触れようとしてくるツヴァイクがサンク達に袋叩きにされていた。懲りない奴だ。


久しぶりに勇者に会った。

自分たちのレベルは10にもいっていないが、勇者は70に達しているらしい。

馴れ馴れしく触れようとしてくるのをセッティーたちが必死に防いでいた。


同年代の見習い探索者によく声をかけられるようになった。

好きです、とか言われてもよくわからない。

同性に対してはそれほどでもないが、異性に対しては警戒心が強くなる。


スキルもそれなりに増えて、伸びている。

剣豪を目指して次はどのスキルを育てようかと計画を立てている時が楽しくさえ感じる。

誰もが「始めの十人」の中で最初に次のクラスアップを果たすと意気込んでいた。


自分たちだけでダンジョンに入るようになった。

いつの間にか自分がまとめ役になっていた。

慎重派も積極派も自分の言うことはよく聞いてくれたので困ることはほぼなかった。


レベルが20に達した。

四年前の勇者のレベルには果てしなく届いていない。

自分たちは順調に成長できているのか不安に感じることがある。


あの馴れ馴れしい勇者が帰ってこないらしい。

レベルは120を超えていたようだが、それでも魔王には勝てなかったということか。

数日後、新しい勇者が確認されたらしい。今度は女の子だそうだ。


剣豪にクラスアップした。

「始めの十人」で最初のクラスアップに皆が喜んでくれた。

自分も嬉しいがまだまだ先は長い。次に目指すは剣王だ。


街を歩いていると言い寄る男が増えてきた。

自分はスキルを極めねばならぬのだ。寄るな触るな近づくな。

よくわからない色恋にうつつを抜かしている場合ではないのだ。


スキルを極める前に「統べる者」に出会ったらどうなるのだろう。

極めていない力を捧げてしまってもいいのだろうか。

そもそも力を捧げるにはどうすればいいのだろう。


見習いの文字が取れる頃、「始めの十人」の全員がクラスアップを果たした。

この頃には十人揃ってダンジョンに入ることも少なくなっていた。

距離をおいていたわけではないが、皆がそれぞれの道を邁進していた。


ツヴァイクが女性に追いかけられている。

初めてを捧げたのに、等と罵られながら。

なるほど、あの女性はツヴァイクに力を捧げたのか。


聞くところによると初めてを捧げるというのはあんなことしてこんなことするらしい。

なんと、何でもない男に力を捧げてしまっては「統べる者」に申し訳が立たないではないか。

男を避けることに磨きがかかった。


ツヴァイクに身長が抜かされたようだ。

事あるごとに並ぼうとして俺様の方が大きいと主張してくる。

身長が大きいくらいででかい顔をするなとディスたちに蹴られていた。


スキルの総数が五十を超えた。

スキルを極めるにはあといくつのスキルを覚えればいいのだろうか。

まだまだ到達すべき高みを感じることすらできていない気がする。


剣王になれそうでなれない。

何が足りないのかわからないがあと少しのような気はしている。

焦っても仕方がないと自分に言い聞かせる。


気が付くとユイが無口になっていた

無詠唱を極めるためと普段からも喋らないようにするらしい。

可愛い声が聴けなくなってとても残念だ。


いつの間にか剣王にクラスアップしていた。

結局、何が足りないかはわからないままだった。

剣聖になるにも苦労しそうだが、修練あるのみだ。


一人でダンジョンに行くことが増えてきた。

他にも何人かクラスアップを果たしはしたが、次が見えず戸惑っている感じだ。

自分を含めて手探り状態の日々が続く。


街に出かけると男どもが群がってくるから嫌だ。

サンク、セッティー、ヌフクールなどと一緒に街に出ると更に男どもが集まる。

キャット、ユイ、ディスといるとそうでもないのは何故だろう。


男どもを躱す術を身につけたい。

サンク達のように適当にあしらうことも、キャット、ディスのように威嚇することも、ユイのように無視することもできそうにない。

いつまでも皆に盾になってもらっていては申し訳ないというものだ。


男どもは文字通り躱すことにした。

近寄ってくる男から常に一定以上の距離を置くことにした。

いつの間にか不可侵などという二つ名がつけられていた。


魔王について改めて調べてみた。

しかし、何一つ手掛かりすら出てこない。

「大いなる存在」との記憶がなければ、その存在すら疑うほどだ。


そもそも魔王とは何なのだろう。

魔とは悪をなすものだ。魔がさす、等とも言うしな。魔の王、なのか。

魔物の王、こっちの方がしっくりしそうではあるが、いずれにしても「異物」とは結び付かないのだ。


剣聖にクラスアップした。

ジョブとしてはここが私にとっての最高到達点なのだろう。

それとも誰も知らない高みが残されているのだろうか。


「統べる者」には何時会えるのだろう。

自分は力を捧げた後はどうなるのだろう。

「統べる者」が男だったらどうしよう。


「始めの十人」が「十英傑」と呼ばれるようになった。

変わらず誕生祝いは十人揃って行っているが、逆に揃うのはその時ぐらいになってしまっている。

とは言え、それなりに交流は続いてはいる。


勇者が会いに来た。

自分たちの力を借りたいらしい。

済まないが、「統べる者」を待つ身の自分たちにそれはできない相談だ。


スキルレベル上限に達しているものも増えてきた。

これでスキルを極めたと言えるのだろうか。

この先、何を目指して修練すればよいのだろう。


ディスから変なものが届いた。

緊急招集とは大袈裟なことだが、その内容も知らせないとは不手際にも程があるのだ。

しかし、この通知メッセージはなんと不思議なスキルなのだ。


停滞気味だった自分の世界が動き出す。そんな予感が微かにあった。

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