第55話 お薬の時間です

折角、お昼時に勇者機構に戻ってきたので食堂に向かうことにした。

ナターシャさんは入手をお願いしたい素材とそれが得られることが確認できている「試練の魔物」を通知メッセージで送ると言っていたので地図マップの情報も少し整理しておこうかな。


食堂にはなぜか十英傑が勢揃いしていた。朝と同じく男性陣、女性陣で別れてはいたけどね。

あ、そうだ。朝に渡すの忘れていた運否の欠片を配っておこう。


「なんじゃ、これは。カナタのアレを固めたものなら嬉しいのじゃ。」


「きゃっ、うち妊娠したらどうしよう。」


「一人一個なんてけち臭いのー。子種はまとめて私に寄こすのー。」


そんなわけないでしょ。そんなもの配りませんから。どんな変態さんですか。


「違うのか。残念なのだ。」


「拙者は女の子が欲しいのでござる。さぞかし、カナタの女装のように可愛くなると思うでござる。」


「ん。」


「アレなら永久保存系。」


こら、真面目に聞けよ。


「カナタ、お前何配っちゃってんの。」


「吾輩、遠慮しておくのである。」


「オイラも。」


君たち、ちゃんと聞いてたか。そんなものじゃないと言っているだろ。

要らないなら別にいいよ。「質実剛健」同様にステータスを上げる非常に有難いものだというのに。


「「「「「「「「「「何だって?」」」」」」」」」」


これは運否の欠片と言って、僕がスキルで生成したステータスを上げるお薬みたいなものです。

毎日一人に一個を配ろうと思いましたが、要らないらしいので渡したものを含めて全て回収します。ほら、返しなさい。


「いやなのじゃ。妾は要らないなんて一言も言っていないのじゃ。」


「うちも要らないなんて言ってないにゃ。」


「私は寧ろ全部寄こせと言ったのー。要らない人の分は私がもらうのー。」


「自分も要らないなんてカナタの子種に誓って言っていないのだ。」


「拙者も要らないなんて言っていないでござるよ。女の子用と男の娘用に二つ欲しいでござるよ。」


「もう飲んじゃったの。ツヴァイの分は私がもらうの。」


「あーしも永久保存済みー。」


「カナタ、勘弁してくれ。俺様が悪かったから分けてくれよ。」


「吾輩も平謝りするのである。この通りである。」


「オイラもごめんなさいだ。」


女性陣は確かに要らないとは言ってないし仕方ないか。相変わらず勘違いしてそうなのもいるし、もう飲んじゃってる人もいますが摂取を許可しましょう。

男性陣ははっきり要らないと受取りすらしなかったから今日は罰として配布なしです。人の話をちゃんと聞かなかったことをよーく反省しなさい。


「カナタ、自分だともったいなくて飲めないのだ。だから口移しで飲ませてほしいのだ。」


「プリム、ずるいの。」


「そうじゃな。いつからそんなはしたない女になったのじゃ。」


「あばずれなのー。」


「プリムがそんなこと言うなんて嬉しいようにゃ悲しいようにゃ。複雑な気持ちにゃ。」


「成長したと喜べばいいと思うでござるよ。」


「わかりみが深い。」


口移ししてあげなくもないんだけど、口に入れた時点で摂取扱いになるかもしれないので指でつまんで口に入れてあげることに止めておいた。当然のように未摂取の人が同様の行為を求めて列をなしたのは言うまでもない。


「確かにステータスの数字が僅かだが上がっているのだ。すごいのだ。これが毎日続くとか夢のようなのだ。」


「ん。」


いい笑顔で親指を立てて股間に手をつくユイトセイン。

喋るようになったのに相変わらずそれは続けるんですね。


「こんなものつくれるなんてずるいのー。私の錬金王としての面目丸つぶれなのー。」


近いうちにディスマルクにも作れるようになってもらうから気にしなくていいと思うぞ。

そのためにはMPを溜めてもらう必要があるが、それもメタルマスとかの止めを刺してもらえば割とすぐに溜まることだろう。

ところで、何でこんな時間に勢揃いしてるのかと思えば、この後の狩場についてお互いに探りを入れていたんだとか。

昨日のユイトセインのやり方が有効だと確認した全員が昨日のうちに協力者を募っていたみたいなんだけど、狩場が被ってしまうと自分が不利になるだけでなく、被らなかった人を有利にしてしまうということでどこを狩場にするつもりなのかを聞き出そうとしているらしい。

たまたま被ってしまった時に自分だけならなんとか狩場を移動できても協力者までまとめて移動してもらうなんて大変だもんね。


で、お昼を一緒に食べながらいろいろと話していたようだが、結局のところは決定的な情報を洩らす人はいなかったようだ。ということで、いつものMP処理をして開始時間になるとそれぞれの決めていた狩場へと散っていった。皆を見送った後、僕も「試練の魔物」巡りへと出かけてMPとお宝をしこたま稼いできた。

そろそろMPが百万に届くので何かどかんとすごいスキルでも作ろうかな。それともレベルを上げた方がいいのだろうか。実は今の僕はレベルを上げる旨みをあまり感じていない。何故かというと一般的に知られているレベルを上げて得られる恩恵はステータスの上昇だからだ。今の僕には「運否天賦」があるのでレベルを上げなくてもステータスを上げることができる。他に知られていることと言えば、ジョブを二回目のクラスアップをするにはレベルが20以上でなければならない、とかかな。三回目、四回目のクラスアップにもレベルの条件が必要なのかもしれないけど僕としては僕専用のジョブを作ってみたいという野望も持っていたりする。名前からしてカッコいいのがいいなと思ってはいるけど今のところ特にいい名前は浮かんでいない。などと妄想しているとぼちぼち終了時刻なので戻ってくる人がいる。

最初に戻ってきたのはツヴァイク、キャトレーブ、サンクレイドだった。どうやら狩場が被ったようで、思ったように戦果が上がらずに三人同時に切り上げて戻ってきたらしい。


「誰が誰の協力者か見分けがつかなくて、うっかり手を出して散々文句言われたり大変だったよ。」


「ツヴァイクがちゃんと自分の協力者を覚えておかないからにゃ。適当過ぎるにゃ。」


「そうでござるな。キャットと拙者はちゃんと自分たちの協力者と連携を取っていたでござるよ。ツヴァイクが統率しないからよく入り乱れてしまって大変だったでござるがな。」


ドライガンとゼクスベルクも狩場が被っていたようだが、こちらはそれなりに譲り合って昨日よりは満足する結果が得られたようだ。


「足止め役にもたくさんのドロップを持ち帰ってもらって喜ばれたのである。」


「オイラは次から次に魔物を叩き潰せて気分爽快だったよ。」


続いて戻ってきたのはユイトセインとディスマルクだ。この二人も被ったようで何やら揉めている。


「ディスはひどいの。ずるいの。あんぽんたんなの。」


「ほっほっほーなのー。何とでも言うといいのー。勝てばいいのー。」


どうやら協力者の見境なしにディスマルクが「岩山落とし」の標的にしまくったらしい。大人げないぞ、ディスマルク。そして言うほどMPは稼げていないようだけどな。


残りの三人は被らなかったようで、ほくほく顔で戻ってきた。

それでは本日の結果を発表します。と思ったけど一旦お知らせをはさみます。

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