第53話 ダマスカスマスざます

朝起きて早速、「運否天賦」を発動させる。素材に使うのは今持っている一番大きいメタルマスから得られた魔石だ。運否うんぷの欠片が何個できるかワクワクしながら発動した結果、なんと21個もできた。おー、これは素晴らしいぞ。

取り敢えず十個はみんなに一つずつ渡すために取っておいて、残りで制御できるかの検証の続きをしてみよう。今日のところは昨日と同じで全部STR狙いで試してみた結果、STRが5、INTが1、AGIが2、VITが2、DEXが1、LUCが1上がった。11個の運否うんぷの欠片で合計12上がったのは一回だけAGIが2上がったからだ。偶にはこういうこともあるのかもしれない。11回中5回狙ったものを上げられたので確率としては半々ぐらいかな。無作為に摂取するよりは望んだ結果に近づけそうだし、これからも狙っていこうと思う。


朝食を摂りに食堂に行くとプリメーラ、サンクレイド、ユイトセインがいた。


「おはようなの。おかげで昨日はとってもよく眠れたの。」


ユイトセインが僕に向かって挨拶するとプリメーラとサンクレイドがちょっと驚いている。

僕が平然と挨拶を返すことにも驚いているようだ。

どうやら、まだ二人とは喋っていなかったみたいだね。


「ユイが…話してるのだ。」


「拙者にも話しかけてほしいでござる。」


「プリムもサンクもごめんなの。でも一日の最初はカナタに話しかけると決めてたの。」


「おおっ、ユイの可愛い声で話しかけられるのも随分と久しぶりなのだ。とても嬉しいのだ。」


「そんなに喜ばれるとは思わなかったの。」


「嬉しいに決まってるでござる。カナタが何かしてくれたのか。」


僕はユイトセインの可愛い声を聴かせてほしいとお願いしただけです。


「そうか、そうでござるよな。ユイの声はめちゃくちゃ可愛いでござるよな。」


「そんなに言われるとはずかしいの。」


そうこうしてるところへ他の女性陣が現れる。


「やばみー、ユイが話してるし。」


「妾もユイの話す声が聴けて嬉しいのじゃ。」


「びっくりしたのー。誰の声かと思ったのー。」


「うちも誰の声かわからなかったにゃ。まともに話すの聞いたのは十年ぶりぐらいにゃ。」


賑やかに女性陣がユイトセインを中心にして話を弾ませる。

ユイトセインも普通に話せてるみたいだし、皆も悦んでいて何よりだ。

だが、その時はそれほど長くは続かなかった。ツヴァイクが食堂に来たからだ。


「朝からなんか盛り上がってたみたいだけど何かあったのか。」


「聞いてくれ、ツヴァイク。ユイが普通に話してくれたのだ。なあ、ユイ。」


「…ん。」


一瞬の沈黙の後、出た言葉がそれだったので女性陣の気落ちすること甚だしいものだった。

放っておくとユイトセインが責められてしまうかもしれないので通知メッセージを出すことで助け舟を出すことにした。

通知メッセージを受け取った女性陣は早速確認してくれたようで、納得したとばかりにツヴァイクを責めるような目で見ているが敢えて口にする者はいない。


「え゛、何でそんな目で見られなきゃいけないんだ。俺様が何かしたのか。」


「心当たりがないなら別にいいのじゃ。さあ、今朝は女だけで食事をするから邪魔をしないでほしいのじゃ。」


「朝からどちゃくそアガるし。うれしみがぱおんだな。」


「話したいこといっぱいあるにゃ。あっちに行くにゃ。」


こうしてツヴァイクはやや遅れてきたドライガンとゼクスベルクに慰められることになる。

まあ、その内ツヴァイクがいても話してくれるようになるだろう。十英傑には、けものの槍ちんは居てものけ者の槍はいつまでもはいないと信じたい。


早々にツヴァイク達と朝飯を済ませると僕はナターシャの所に向かった。

メタルマスみたいな「試練の魔物」のことを問い合わせるためだ。


「メタルマスみたいな「試練の魔物」ですか。いますよ。さらに硬くて厄介なダマスカスマスっていうのが。」


おお、上位種っぽいのがいるんだ。それはMPが期待できそうだ。


「他にもアダマンビートルっていうのがいますね。とっても硬い甲羅を持った虫みたいな魔物なんですけど物理的な攻撃も魔法も効きづらくて敬遠されています。こちらは素早く飛び回る上に長い角で刺してきたり羽で斬りつけてくるのでさらに厄介です。」


アダマンビートルにも錆釘ラスティネイルが効いてくれるといいんだけど。


「どちらも貴重なインゴットが得られることがあるのは確認されているのですが、討伐までにかかる時間が一日がかり以上になることが多く損耗率も激しいために挑戦する人は滅多にいないようです。」


貴重なインゴットか。武器とかをそのインゴットから作ることができればかなり強力なものになりそうだね。七武聖が持っていないようなら全員分作ってあげたいものだ。


「もしかしてカナタさんはダマスカスマスとかアダマンビートルを倒しに行くんですか。あまり無理しないでくださいね。」


大丈夫ですよ。無理なようならとっとと逃げて帰ってきますから。ちなみにその貴重なインゴットってなんていうんですか。


「ダマスカスマスからはダマスカス鋼、アダマンビートルからはアダマンタイト鋼が確認されています。ダマスカス鋼が使われた武器はまだそれなりにありますがそれでも半端な探検者が持てるような代物ではありません。それこそ子々孫々受け継がれていくような家宝級ですね。アダマンタイト鋼になると現在勇者機構に保有する量も僅かになってきていますので新しく勇者に与えることが不可能な程です。こう言ってはなんですが、勇者は戻ってきませんので。それを鍛える職人を育てるために使わなければ次代へ伝えることすら難しい状況です。勇者機構としてもアダマンタイト鋼は全力で確保したいのですが、危険度も高くて無理強いできない所がつらいところです。」


なんと勇者すら持てないような希少な物だとは。これは是非とも入手しなければなりませんな。

他にもそんな感じで入手困難になっているものがあれば列挙しておいてもらうことにした。


「本当に無茶しないでくださいね。でも、お宝持って帰ってきたら職員総出でちやほやしてさしあげますから頑張ってくださいね。」


そ、そんなご褒美なんてべ、別に期待してないんだからね。

そ、それじゃあ、ダマスカスマスから行ってみますかすます。すが多いざますかすます。

検索をかけてみると三箇所にいたのでその一つに向けて転移する。

ダマスカスマスはメタルマスに比べて少し大きくてやや黒艶があった。僕を認識するとメタルマスと同様に転げ回って体当たりしてくるので、錆釘ラスティネイル活動制限リストリクションズを打ち込む。すると黒く滑らかだった表面が見る見るうちに錆びていく。ダマスカスマスにも錆釘ラスティネイルは有効のようで良かった。そこから先はメタルマスと同じように錆が浸食するまで少し待ってから「岩山落とし」で止めを刺してお宝を回収するだけだ。一応、錆びてぼろぼろとこぼれ落ちてしまったものも何かに使えないかと思って回収している。得られたMPは30000だ。美味し過ぎるぞ。こんなのに味を占めてしまったらちまちまと小物を倒すなんてやってられないぞ。いかんいかん、ちょっと冷静になろう。

残念ながら一匹目からダマスカス鋼を得ることはできなかったが、いくつかのインゴットはあったので勇者機構で使ってもらえばいいだろう。

残り二箇所も難なく倒すと最後の一匹でダマスカス鋼のインゴットを一つ獲得できた。

よしよし、第一目標は達成できたね。今後も定期的にダマスカスマスが発生していないかを確認して倒すようにしていこう。

続いてアダマンビートルを検索すると二箇所の存在が確認できた。念のため観測モニタリングで確認してみるとメタルマスやダマスカスマスとそれほど大きさは変わらないようだ。でも、冷静に考えるとこんな斬りつけても魔法で攻撃しても何とも思わないようなのが飛んで襲って体当たりしてくるだけでも厄介なのに、刺したり斬ってくるなんてポーションがいくらあっても足りないかもしれない。それをちまちま削っていくなんて確かに気が遠くなりそうだ。体力も気力も続く気がしない。でも、僕には錆釘ラスティネイルがある。これが有効なら何の心配もないはずだが、さてどうだろう。

メタルマス、ダマスカスマスは球体だし、外から認識できる目もないので前も後ろもわからないけどアダマンビートルは虫のような形状をしているので前後はわかる。後背をつくように転移して、矢継ぎ早に錆釘ラスティネイル活動制限リストリクションズを繰り出す。

結果、MP60000とアダマンタイト鋼を始めとするインゴットの数々を得ることができた。なんと簡単な作業なのでしょう。もはや試練どころか狩りと呼べるものではないね。

もう一匹も三十秒かからず倒すともう一つアダマンタイト鋼が得られた。この調子でアダマンタイト鋼を供給したら世の中変わっちゃうかもなんて思ったりしなくもなかったりして。


こうして昼までメタルマスや他の「試練の魔物」を狩りまくってナターシャに結果を報告しに行くと勇者機構を上を下への大騒ぎさせることになった。

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