第51話 あーん
作り出したスキルは「
効果は「マナで生成した錆びた釘を飛ばす。それに触れた金属は瞬く間に発錆し腐食する。」である。
岩山がぼろぼろと崩れるさまを見て錆びついてぼろぼろの古い剣を連想したんだよね。錆びさせれば元の金属の硬さはなくなるんじゃないかと思った次第です。
それでは実演を開始します。
今回ご用意したのは活力が四割ぐらい減ったこちらのメタルマスです。でもまだまだ元気ですね。これを普通に叩いたり斬ったりしていては核を破壊するまでにどれぐらい時間がかかるか予想もつきません。
そんな時、貴方ならどうしますか。ほう、魔法で攻撃しますか。でも生憎こちらのメタルマスは魔法にも強い耐性があるんですよね。困りましたね。
そんな時に使っていただきたいのがこちらの「
このようにメタルマスに錆びた釘を接触させると、あら不思議、見る見るうちにメタルマスが錆びていきます。その上、移動しようとして転がるたびに表面の錆がぼろぼろと落ちていきますが、既に中の方にも錆が浸食しちゃっていますね。試しにこちらの何の変哲もない槍で突いてみるとこの通り、これまでの硬さは何処へやら、軽々と突き刺さってしまいました。こうなると後は簡単ですね。中心の核にめがけて狙いをつけて「えいっ」としていただければ、はい見事に倒すことができました。
この方法を使っていただければメタルマスと似たような魔物にも対処することができますので、「
実際のところは出会い頭に「
それより、メタルマスを倒して得られたお宝が結構な量になっている。魔鉱石もそれなりの数があるみたいだし、ライラにでも使ってもらおうかな。「試練の魔物」巡りで他にも使えそうなものがあるので、勇者機構にでも預ければうまく取り計らってくれることだろう。うーん、だけど転移もあることだし、もっといろいろ溜め込んでから自分で渡しに行った方がいいか。そうだね、そうしよう。ついでにブリジットさんにも素材を渡せればいいかもしれない。決して、あのにゅりゅんにゅりゅんのお手入れを受けたいから行こうと言っているわけではない。多分。
今日の決定戦終了時刻まではまだ少し時間があったので、もう一度ぐらいメタルマスを倒しておこうかなと思って検索したところ数箇所あった。しかも、やはり時間がかかる所為か不人気のようで誰も戦闘中ではないようだ。
好都合とばかり、直接メタルマスの傍へと転移する。メタルマスが僕を認識する頃には既に「
やばいね。これってもう試練どころか戦闘とすら呼べないね。「
この後、残りのメタルマスも手早く片付けてフォルティスに戻った。
「本日の結果発表なのー。」
終了時刻までには全員ちゃんと戻ってきて、MPを確認させてもらっている。
今日の勝者はユイトセインだった。貯めたMPは9051で三時間制の中では初めて9000を超えた。もう一人9000を超えたのはプリメーラの9015だったが、僅かに及ばなかった。他は昨日と同じで8000弱だったので二人だけ抜きんでる形だ。
「今日は自分に運が向いたと思っていたのに無念なのだ。」
プリメーラは_| ̄|○している。
どうやら魔物が溜まっている場所に遭遇したようだ。
ユイトセインにも確認してみるが魔物溜まりに遭遇したのではないみたいだ。何やら身振り手振りで説明しているがなかなか要領を得ない。なぜ、話してくれない。なんとか少しずつ言いたいことを導き出していくとおよそ次のようにしたらしい。
他の探索者に自分の魔法の射程まで魔物を誘き出してくれるように頼んだらしい。交渉材料としてはドロップは全て持っていってくれていいと言うと結構な人数が協力してくれたようだ。
なるほど、
そこまで理解すると誰しもがこの手法を取ることができそうだが、果たして明日の結果はどうなることやら。
早速、ユイトセイン以外はMPを僕に渡すといそいそと出かけて行った。恐らく明日協力してくれる探索者を探しに行ったのだろう。
で、ユイトセインはどうするのかと聞いてみれば、僕の股間に手をついて一言。
「ん。」
えーと、しっぽりしたいと理解すればよろしいのでしょうか。
「ん。」
だそうです。
そこからも基本的には僕が尋ねる形で否応を確認しながらだったので、ご飯を食べてからしっぽりすることが決まるまで結構な時間がかかった。
ご飯は咖喱が食べたいという僕の意志を尊重してくれて、この前確認していた中から選んでもらって店へと向かう。
それにしても喋れないわけでもないのに、どうして話してくれないんだろう。自己紹介の時に聞いた声は少しだけだったけどとても可愛い声だったから、あれ以来ほぼ「ん」しか聞けなくてとても残念だ。
ユイトセインが選んだお店は辛さの選べるお店だった。
十段階で数字が大きくなるほど辛くなるということで、ユイトセインは辛いものはあまり得意ではないということで二辛、僕は真ん中ぐらいなら大丈夫だろうと思って五辛に挑戦だ。
しかし、その読みは甘かったとすぐに思い知ることになる。
僕たちの前にお皿が到着すると咖喱特有の香りが更に強くなる。やっぱりこの匂いは食欲をそそるねぇ。早速一口食べようとするが、それをユイトセインが制して僕の皿の咖喱を掬って僕に向けて差し出してくる。
「ん。」
公衆の面前であーんをするのはどうかと思うんですけど。実際、ユイトセインも十英傑の一人として顔ばれしてるし、何より可愛いお顔をしていらっしゃるのでお店の中が少しざわついている。あの一緒にいる男とはどういう関係なんだとばかりにいろんな視線が突き刺さってくる。
あーんすることを諦めてはくれないようなので仕方なく差し出された匙を咥えると顔から火が出た。照れによるものもあるが、九割以上は咖喱の辛さに対してのものだった。ちょっと想像していなかった辛さに口からも火が出た。あわてて水を飲むが口の中の辛さが消えることはない。
一連の僕の挙動が面白かったのかユイトセインが声を出さずに笑っている。そしてその原因となった咖喱の辛さを確認しようとしたのか僕に食べさせたままの匙を舐めて周囲のどよめきを誘い、小さく火を噴いていた。
僕がなんとか冷静さを取り戻して食事を続けようとすると、今度はユイトセインが僕に向けて小さな口を開けている。すると周囲はさらに色めき立つ。中には回り込んでユイトセインのあーん待ちの顔を肉眼に焼き付けようとする者までいる始末だ。僕としてはこんな危険物を放置するわけにもいかず、ユイトセインの皿から一口掬って可愛い口に入れてあげる。
結局この後も自分で食べることを許されず、お互いにあーんされたりしたりを繰り返すので店の中は阿鼻叫喚とも極楽浄土とも取れる謎の空間と化していた。
説明も聞かないで頼んだ僕が悪いのだが、決してこの店は一辛が甘いと謳っているわけではないのだ。一辛がこのお店の基準の辛さでそこから何倍の辛さにするかの十段階だったようです。ただ、それが判ってしまえば辛いだけではなく旨みもしっかりあるので美味しく食べることはできました。滲み出す汗の量は半端なかったですけどね。汗の量の半分以上はあーんの応酬の所為という話もある。
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