第50話 MP稼ぎの果てに

さて、ディスマルクとヌフクールがMPを稼ぐ方法についてはお分かりになりましたでしょうか。

賢明な皆様におかれましては疾うにお分かりになられてましたよね。

そうです、二人は補助職だからこそ自分で魔物を倒さなくてもMPを稼げるんですよ。

そりゃ、そうですよね。戦闘補助だけしていて戦闘職だけがMPを獲得できるんだったら、戦闘補助をする人が成長できないことになってしまいます。

魔物にせよ、家畜にせよ生物の命を奪えばその生命の蓄えていたマナを獲得するというのは前にも説明しましたけどMPって多分マナのことなんですよね。

じゃあ直接命を奪わない戦闘補助でどうやってマナを獲得してるかと言えば、分け前を貰っていると言えばいいでしょうか。これは複数人の戦闘職で倒したときも同じことが言えるわけですけど、倒すことに対してどれだけ貢献したか、みたいな割合によってMPが分配されていたんですよ。これは実際にナターシャに付き合ってもらって確認したので間違いない。攻撃力を増加させるような補助魔法や、防御力を高めるような補助魔法をナターシャにかけてから魔物を倒させても、僕もMPが獲得できていたのだ。補助魔法をかけるだけではMPの量は半々とはならなかったが、一割から二割ぐらいは獲得できていた。そこら辺の割合はなんでもご存じの神意排他能力増幅機関システムが判断しているんだろうと思う。さらに魔物を倒さなくて、ナターシャを回復させるだけでもいくらかのMPを獲得できた。これは直接ナターシャからMPを貰ったみたいだけど、ナターシャの減った量と僕の増えた量は完全に一致はしなくて僕の増えた分の方が少し多かった。理由は判らなかった。

ダンジョンにはたくさんの人がいるので自分の周りに都合よく魔物が湧いて全てを自分で倒せるわけではない。実際のところは奪い合いみたいになるので如何に早く魔物を見つけて接触するかにかかってくる。交戦状態のところに割り込むのは褒められた行為ではないので、余程危うい状態でなければ邪魔をしないのが普通だ。だが、ここで補助職がちょっと補助魔法をかけることをありがたいと思えど、迷惑と感じる者がどれほどいるだろうか。

そう、補助職の二人は魔物と会敵するための移動中に出会う探索者に辻斬りならぬ辻補助をすることで分け前を得られるのだ。見知らぬ人から分け前を奪うことを良しとしないなら自分で人を雇って分け前を貰えばいい。仮に三時間で5000ぐらい稼げる探索者を十人雇って平均一割五分ぐらい分け前を得られればそれだけで7500だ。倍の二十人なら15000。

探索者がダンジョンに入る時間が多い時間帯に開催時間をずらして入り口辺りで補助魔法かけますよーって呼びかけて一、二回分の戦闘の分け前を得るだけでも相当な稼ぎになるかもしれない。10や20の分け前でも千人から貰えば。ほら、塵も積もれば山となる。ちりつも侮るなかれ。

ね、一万ぐらい朝飯前でしょ。


先に「岩山落とし」見せちゃったからなんだろうね。これまで、自分がどうやって成長してきたのかに思い至れれば我が道を貫けたかも知れないのに。そういう意味では二人には悪いことしたかなと思う。

後二日、気付かないようなら第一回期間が終了したところで教えて、ディスマルクには「運否天賦」を取得してもらおう。

本当に第二回をやるつもりなら大会規定も見直されるだろうし、そこはうまくやってくれればいい。別に僕が景品になりたくて第二回を、なんて言ってるんじゃないんだからね。


と、ここまで説明していて何かに気付きそうだったんだけど、どこに引っかかったのか思い出せない。

なんだろう。まあ、いいか。その内、気付くこともあるだろう。

おっと、そろそろ今日の開始時間だね。集合場所に行くとしよう。


「今日こそカナタとしっぽりしてみせるのー。」


若干目が血走っているディスマルクにちょっと引いてしまう。もしかして、必勝法に気付いたのかな。

十英傑は全員揃っていて、お馴染みとなった作業でMPを空にさせてもらい開始時間になるとそれぞれ目的のダンジョンへ散っていく。

皆を見送った後、僕も「運否天賦」のための大きい魔石を蓄えておくために「試練の魔物」巡りに出かけることにした。


それぞれの「試練の魔物」の攻略方法については特に調べていないが、午前中に対峙してみた中では危険だと感じることは全くなかった。僕を視界で捉えてくる相手に対しては転移で視界の外に移動するなりすれば楽勝だった。転移は連続で移動するわけではないので目で追うことなどできない。

目ではなく探知系のスキルを使う相手にも転移はほぼ有効だった。僕に対して攻撃を仕掛けてくる時を見計らって転移を使用すれば難なく「岩山落とし」の射程圏内に入れたし、魔法や遠距離攻撃を仕掛けてくる相手には「岩山落とし・改」を試してみたが割とうまくいったと思う。

「岩山落とし・改」は時間経過する倉庫ストレージを利用することで加速して大質量の岩山を打ち出すものだ。ただ、勢いをつけてぶつけるために岩山が砕けてしまうことが多々あるのが難点と言えば難点なのだが、新しい岩山は転移ですぐに調達できるので難点ではないと言えば難点ではなくなる。

高速移動する相手に対しては活動制限リストリクションズが有効だった。一旦絡めとってしまえば一瞬以上の隙ができるので、後は「岩山落とし」の餌食になるだけだ。


こうして午前中と同じで次々と「試練の魔物」を倒していたのだが、ちょっと面倒臭い相手に遭遇したようだ。

見た目は金属の塊みたいなというか金属の塊そのものだ。何が厄介かというと金属の塊なので岩山に潰されてくれない。さらに素早く動き回るというか転げ回って体当たりしてくるので活動制限リストリクションズで絡めとってはみたもののいつかの勇者のように転がって移動するので何の制約にもなっていない。剣で斬りつけても半端な攻撃では弾かれてしまうし、魔法で攻撃しても耐性が強いのかほぼ活力が減らない。

なら逃げてしまえばいいじゃないか、と思わなくもないが逃げちゃダメだ逃げちゃダメだと内なる声が叫んでいる。なぜなら、この魔物はメタルマスというのだがMPを15000も持っているのだ。一匹でそんなに稼げるなんて知ってしまっては何としても倒したくなる。繰り返し倒せるようになればとても効率がいいしね。

で、さっきからどうやって倒そうかと思案していたのだが、聞いた方が早いんじゃないだろうか。ということで通知メッセージをナターシャに送ってメタルマスの攻略方法を教えてもらおうと思ったのだが、返ってきたのはとても残念な内容だった。これまでに効率良い倒し方は発見されておらず、地道に時間をかけて文字通り削っていき中心に存在する核を破壊するというものだった。しょうがない、もう一度自分で考えようか。


普通に考えれば、メタルマスより硬いものをぶつければいつかは砕けそうな気がする。もうひとつはぶつけないで岩山落としのように潰してしまう。もうひとつは金属も断ち切れるような刃で切断する。うーん、どれも難しそうだ。

まず硬いものが手持ちに無い。剣、槍、斧、弓はあるけどゼクスベルクが使っていたような金砕棒は持ち合わせがない。よしんば持っていたとしてもメタルマスより硬いものは入手自体が難しそうだ。

同じ理由で潰すのも無理だろう。

斬るのも試してみたがあっという間に刃こぼれしてしまい、一本ダメにした時点で早々に諦めてしまった。

こうやって試行錯誤している間にも活動制限リストリクションズによって活力は奪いつづけているがまだまだ二割ぐらいしか減っていない。

物理的な攻撃がダメなら魔法って考えるのは当たり前だろうけど、魔法の耐性が高いのも既に説明している通りだ。でも、物理的にも硬いものさえあれば何とかはなりそうなのだから、耐性を超える魔法攻撃なら何とかなるかな。うーん、なんかもう少し発想の転換が必要な気がする。あ、メタルマスより硬いものを錬成するのはどうだろう。悪くはないがそもそもメタルマスがどれほど硬いかも判らないし、そうなるとどれほどの素材が必要になることだろう。割に合わなくなってしまっては倒す意味がなくなってしまう。

そうなるとやはり魔法か。耐性を超える高熱で溶かすことができないだろうか。でも、周りが灼熱地獄になりそうで怖いな。それを防ぐためのいろいろを考えるとそれも効率が悪そうだ。


避けるのも面倒臭くなってきて潰れないまでも岩山の下敷きになってもらっていたが、メタルマスが回転して少しずつ中から削っていくのでそろそろこの岩山もぼろぼろに崩れそうだ。

ん?ぼろぼろ?

あー、突破口が見えた気がする。

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