第47話 手抜き疑惑
この世界では子供が生まれた時にステータスを見てジョブを確認するのが普通だ。特に勇者の行方がわからなくなった後は勇者機構から確実に確認するようにお触れが出る。万が一にも勇者の発見が遅れないようにするための処置だ。
勇者以外は闘士か学士のいずれかとして生まれるのがこの世界の常識だ。
それが、生まれながらの
「最初から
どういうことだろう。
あれ?そう言えば気にしていなかったけど、十英傑はどうやってお互いが「始めの十人」であると認識したんだろう。「捧げる者」は「統べる者」、つまり僕を本能的に認識するみたいだけど、「捧げる者」同士は感応するものなんてないはずだよね。
「あーしら十人は学園に入る時に特別な子供として集められたからねー。」
ふーん、他の十英傑も最初から剣士とか槍士だったってわけだ。
うーん、これは「大いなる存在」が何かしたってことだよね。転生させた者に特別な力を持たせたみたいなことも言ってたし、これぐらいならできるってことでいいのかな。
でも何のためにこんなことをする必要が…。あ、スキル収集でできるだけ重複しないようにジョブを分けたのか。そう考えれば納得できそうだ。
特に扱う武器種でクラスアップ先が大体決まる闘士は剣士が一番人気だしね。放っておけばみんな剣士には…なってないか。キャトレーブあたりが剣を使っているのなんて想像もできない。ネコパンチしてるのがお似合いだ。性格に合ったジョブにしてもらったのか、ジョブが性格を形成したのかは意見の分かれるところかもしれない。とにかく、それぞれ違うジョブにクラスアップする条件を満たすようにして生まれて来たんだろう。
「なんで自分と似たようなのが何人もいるんだろうって思ったわけー。みんなも同じようなこと思ってたみたいでー。そんで誰からともなく「大いなる存在」とかの話が出て来て、なにそれやばみーってなったってわけ。」
最後がよくわかんないけど、とにかく学園に入学する時に十英傑は特別な子供として集められて顔を合わせてお互いが同じ「捧げる者」としての存在であると認識したんだね。
普通は学園で自分の適性とか見極めたうえでクラスアップ先を考えるはずだけど、もうクラスアップしてた十英傑には不要な課程がほとんどだったことだろう。
ん?またもや気付いてしまった。僕って至って普通じゃなかっただろうか。「統べる者」としての未だによく判っていない力はあるんだろうけど、十英傑みたいに「大いなる存在」との記憶があるわけでもなく、特別にスキルをもらったわけでもなく、容姿もそれほど整えてもらえていない。化粧映えはするみたいだけどそれは今はどうでもいい。
つまり何が言いたいかというと「大いなる存在」は僕に対して手を抜いたんじゃないかという疑惑が高まったということだ。もっと「統べる者」として特別な仕上がりになるようにしてくれてしかるべきだったんじゃあないかなあと思うわけですよ。何か重要なことがあれば厳重に丁寧に絶対に忘れないように伝えるようにするべきだし、十英傑みたいに特別なスキルを予め持たせてくれればもっと早く成長できただろうし、もう少しカッコよくしてくれれば初恋のオーロラにも振り向いてもらえたかもしれないのに。コホン。とにかく、僕に対してできることはいっぱいあったと思うんだよねー。記憶がないのは絶対に僕のせいじゃない。「大いなる存在」が手を抜いたか伝え忘れたに違いない。間違いない。もうこれは僕の中では確定事項となった。
◇◆◇
翌日――
ふと、気付いてしまった。
気付いてしまったからには確かめよう、見つけよう、素敵なさむしんぐ。はて?
午前中にナターシャに手伝ってもらい確認したところ思った通りだったことが判った。
この事実に気付いている者がいたら、残りの三日間はその人の独壇場になるかもしれない。っていうか何故気付いていないかの方が不思議かもしれない。僕の「岩山落とし」の印象が強すぎたのだろうか。何をやっている、ヌフクール、そしてディスマルク。
お昼を一緒に食べているときに二人に今日の戦略を確認してみたが、これまでと特に変わらないということだった。隠しているわけでもなさそうなので、どうやら気付いていないっぽい。
こうしてこれまで通りにMPを処理してから第一回カナタに力上げます王決定戦の五日目が開始された。
今日の結果は一位ドライガン8970、以下順にプリメーラ8133、ユイトセイン8065、セットフィーネ8016、サンクレイド7982、キャトレーブ7958、ディスマルク7906、ツヴァイク7895、ヌフクール7838、ゼクスベルク7792だった。
この結果に、プリメーラは天を仰ぎ、ユイトセインは今日も僕の股間に手をついて項垂れる。
ぶっちぎりの一位となったドライガンに勝因を聞いてみると隠すことなく語ってくれた。
「たまたま魔物が溜まっている場所に遭遇して一網打尽にできたのである。幸運が味方してくれたのである。」
なるほど、そういうことね。
ドライガンは一位の褒美としてスキルの取得を求めてきたので、僕の力で生やそうとしたのだが今のMPでは少し足りなかったので夕食前にもうひと頑張りしてくることにしたようだ。そういうことならと転移でダンジョンに送ってやる。ついでに検索で魔物へと誘導してやるとニ十分ほどで必要な量のMPが溜まったので、早速その場でスキルを生やしてやる。
「ありがたい。「質実剛健」であるか。音の響きも大いに気に入った。」
「質実剛健」は発動させるとSTRの値を1上げることができるスキルだ。以前、番人のお宝で入手した智恵の実や敏捷の種みたいな効果をスキルとして構成してみたのだ。ただし、MPの消費量をできるだけ抑えたために発動できるのが十五日毎となってしまった。しかも活力と気力もそれなりに必要とする。錬金術と一緒でスキルの構築にも等価交換的な法則が働いているようだ。何かを得るためには同等の代価が必要ってわけだ。
「月に二回使う日を決めれば忘れにくくてちょうどいいのである。一年後にはどれほど効果が出ているか楽しみである。」
そうだね、毎月一日と十六日みたいに使うようにすればうっかり忘れることもなく効率よく使えるだろう。
喜んでもらえたようで良かった。
満面の笑みのドライガンを連れて戻ると今日は解散せずにみんなで僕たちの帰りを待っていたようだ。
ドライガンは早速ゼクスベルクにどんなスキルを獲得したかを説明して羨ましがられていた。
決定戦の勝利でしかスキル作ってあげないわけでもないし、そんなに羨ましがらなくてもいいと思う。
MPさえ用意してくれれば僕は別にいつだって作ってもいいんだけどね。
しかし、それとは別に第一回大会の残り二回の勝利と総合優勝に向けて燃えている人たちがいる。
「ん。」
なんですか。その「ふんす!」みたいなよく判らないのは。
とにかく気合入ってるんですね。総合は四位ですか。頑張ってくださいね。
「残り二回か。なんとしても勝利してあのスキルを手に入れるんだ。そうすれば俺様は…エヘヘ。」
ツヴァイク、残念な顔になってるぞ。
「初日の失態が痛すぎるのー。かくなる上はどんな手を使っても勝利をもぎ取るのー。」
変な薬とか使うなよ。絶対だからな。
「暫定総合一位とは言え、全く油断はできないのだ。今日のドライガンみたいなことがあれば簡単に逆転されてしまうのだ。」
その通りだ。総合一位から六位までの差は600ほど。最下位のディスマルクとは7000強の差があるがディスマルクがあれに気付けばこんなのは誤差の範囲だろう。九位のヌフクールに至っては3000弱だ。余裕のよっちゃんだろう。よっちゃんって誰?
この後、みんなで夕飯を食べて無難にお開きとなった。本当に十英傑は仲良しだな。
明日も今日と同じ時間での開催となり、それぞれ部屋に戻っていく。
一日目から三日目の連日開催で懲りたのか、明日、明後日と続くのに備えて今日は夜活しないみたいだね。懸命だと思う。
僕も部屋に籠って新しいスキルでもじっくりと考えようかな。
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