第46話 聖者ヌフクール

「カナタっち、あーしの部屋でゆるゆる飲む系」


さっきまでもずーっと飲んでたはずだけど本当に好きなんだね、でも全然酔ってるようには見えないし、お酒臭くもない。どんだけ強いんだろう。これがザル、いやこれはワクっていうやつだね。まともに酌み交わせる気が全くしない。

言っておきますけど僕そんなに飲めませんからね。


「カナタっちはなんでもいーから付き合ってくれればうれしみ。」


そう言って僕の口に放り込んでくる葡萄は本当に美味しい。


「この葡萄美味いっしょ。なんてったって世界最高級の葡萄酒の元になっている葡萄だからねー。ちょー贅沢に育てられてる特別なものらしいよー。」


なんと。そんな究極の葡萄だったんだ。

美味しい葡萄酒を造るために特別に育てられてる葡萄だからこその味わいだったというわけだ。当然のことながら葡萄酒を造るための葡萄なわけだから普通は市場に出回ることなどあり得ないことで、お酒をこよなく愛する聖者セイントとして有名なヌフクールになら是非にと献上されているとか。


「ちなみにこれは今年収穫されたので、こっちは去年。これは一昨年。」


二年前に聖者セイントになった年から最高級葡萄酒と共に毎年献上されているんだとか。葡萄酒は年月と共にゆっくりと熟成させると味わいが変わるので時間経過の無い倉庫ストレージには入れないで専用の保管庫に預けているらしいが、葡萄については倉庫ストレージに入れているので今回の対決に使ってみようと思ってうまい王を提案したということだ。まあ、この葡萄なら十分に勝算は見込めただろう。そして実際にこんな貴重な葡萄を食べさせてもらえて幸せです。

あ、そうだ。お礼になるかなと思って良い葡萄酒はあるか聞いてみたところ倉庫ストレージにはないけど保管庫にはあるらしい。勇者機構としても葡萄酒を含めある程度のお酒は用意しているが、最高級の葡萄酒に限らずいろんなお酒がヌフクールのところに献上されてくるらしい。うわばみ聖者セイントが飲んでいるというだけで良い宣伝になるようだ。逆にヌフクールに飲んでもらえないようなものは酒じゃないと見向きもされなくなるくらいなので、今では新製品の発売前には試飲をお願いされるまでになっている酒造元もあるんだとか。そういうわけで、酒造元のある各地の勇者機構にはヌフクールに献上されたお酒を収める専用の保管庫がもれなくあってヌフクールに飲まれるのを待っているお酒が山ほどあるということだ。


ということで、保管庫から適当な葡萄酒を何本か持ってきてヌフクールの部屋で酒盛りの準備を始めた。


「じゃ、この葡萄酒ちゃおちゃおって開けちゃお~。」


待て待て。それじゃ葡萄のお礼じゃなくなってしまうじゃないか。

容器をいくつか用意してもらい、葡萄酒を倉庫ストレージに一旦収容してから直接注ぐ。

それを見ているヌフクールの顔にはいくつもの疑問符が見えるようだ。


「これになんか意味ある系?」


論より証拠。どうぞ飲み比べてみてくれたまえ。


「ふーん。まぁいいけどさ。」


そう言って容器に入った葡萄酒を飲み比べ始めると二つ目を持った時点で違いに気付いたようだ。


「カナタっち、どういうことさ。これ違う葡萄酒入れたでしょ。」


そんなことはしてませんよ。全部紛れもなくさっき倉庫ストレージに入れた葡萄酒ですよ。


「嘘だあ。香りが全然違うよー。あーしをただの大酒飲みだと思ってるなら大間違いだよー。ちゃんと違いの分かる女なんだからねー。」


そう言うと他の容器に入ったものも香りと味を確認し始める。そこで何かに気付いたようだ。


「カナタっち。まさかこれって倉庫ストレージの中で熟成させたの?」


さすが、大正解です。

時間経過させられるようになった倉庫ストレージの方に入れて、経過時間を加速させて五年、十年、十五年、二十年経ったところで一杯ずつ注いだんだよね。


「すげえよ。やばいじゃん。へー、これってここまで熟成させるとこんな風になるんだー。うまー。」


今、試した葡萄酒は近年新たに出てきた酒造元が造ったものでまあまあ評判は良いが、まだ十分に熟成させたものがないので本当の評価は未知数といったものらしい。

取り敢えずは喜んでもらえたようで良かった。


「くふ。葡萄酒って年ごとの当たりはずれとか飲み頃考えるのが面倒で避けてたところあるんだけど、カナタっちと一緒ならいつでも最高な状態で飲めそうじゃない。やばくなーい。っていうかこれなら葡萄畑買って一緒に葡萄酒造ろうよー。熟成させた感じを確認できるんだもん。無敵ー。」


あー、葡萄酒造るのは別にいいけど魔王を何とかしてからね。

この後もしばらく持ってきた葡萄酒を同じように提供して飲ませてあげていたのだが…。


「そろそろしよっか。」


そう言うとむしゃぶりつくように唇を重ねてきた。


「カナタっち、なかなか雰囲気出してくれないからさー。もー我慢できない系。」


上目遣いの舌なめずり。こんな表情もされるんですね。ちょっとどぎまぎしちゃいます。


「この前はされっ放しだったから今日はあーしのしたいようにする系。」


押し倒されるや両手を上げさせられて頭の上で固定されてしまった。

突然のことに少し体を強張らせてしまう。


「そんなに恐がらなくて大丈夫だし。」


何をするのかと思えば、僕のあちこちを嗅いでは舐め、吸っては嗅いでを繰り返す。

葡萄酒も香りを気にしていたから匂いに拘りがあるのだろうか。でも首とか脇とかならまだしも、あんなところやそんなところまでまじまじと嗅がれて舐められると恥ずかしくてもうお嫁にいけないわ。


「これでカナタっちの匂いと味は全部覚えたしー。いいおいにー、すごくおいにー。」


やだ、覚えないで。勇者に次ぐ名犬二号現る。


「恥ずかしがらなくていいっしょ。後は大きさと硬さを覚える系。」


ヌフクールの手と口で刺激を与えられた僕のものはだんだんと大きさと硬さを増していく。


「むふ、上の口はばっちり覚えたしー。あとは下の口だね。いただきまうす。」


奥深く吞み込まれた。


◇◆◇


そう言えば気付いてしまったんだけど、さっき二年前に聖者セイントになったって言ってたよね。

それ早過ぎないか。前から何回か言ってると思うけど、闘士や学士からクラスアップを果たすには十歳から始めて大体五、六年かかるのが普通だ。僕は四年かからなかったけどね。ヌフクールの場合は学士から修道士クレリックになったはずだ。十五でなったとしてやはりそこから五、六年かけて司祭プリーストへ、そこから先は年数掛ければいいってわけでもないがさらに五、六年で司教ビショップ、さらに困難な五、六年で聖者セイントになれるかどうかってところだ。だから、最短でクラスアップしてきても聖者セイントになれるのは今年ぐらいのはずなんだ。これは「捧げる者」としての力が何か働いてるのか。


「違うよー。あーしは司教ビショップから聖者セイントになるの七年かかったしー。」


他のクラスアップが早かったのか。


「違うってば。司祭プリーストになるのは五年、司教ビショップになるのにも六年ぐらいかかったよ。」


それじゃ、計算合わないでしょ。もしかして鯖読んで…はいないよね。ステータス見せてもらってるもんね。どういうことだろう。


「あー、それね。だってあーし、生まれながらの修道士クレリックだったみたいだし。」


何その驚愕の事実。

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