第45話 うまい王

食堂に行くと十英傑と勇者機構の生真面目そうな職員ナターシャがいた。ナターシャは料理の提供役を務めるらしく全員の料理は既に彼女の倉庫ストレージに預けられている。僕が食べる順番も決まっていて、少量ずつナターシャが公正に食べさせてくれるらしい。


「それじゃーうまい王対決始めるのー。ナターシャ、よろしくなのー。」


十英傑全員が見守る中、席に着くと早速一品目が用意される。ちなみに順番は籤引きで決められたらしい。食べる順番によっては評価も変わりそうではあるが、お腹がすいてるうちに食べてもらった方が有利だとか言い出すときりがないので、籤引きによる順番決めが採用されたようだ。


一品目はこれまで僕が見たことない料理だ。白っぽい汁の中にパスタが縮れたようなのが浸かっていて、いくつかの具材が浮かべられている。匂いも嗅いだことはないがはっきりと主張してくる嫌ではない香りだ。ナターシャは縮れているものと汁を大きめの匙に盛ると僕に向けて差し出す。


「はい、あーんしてください。」


ちょっと恥ずかしいがやむを得ない。口を大きく開けて一気に入れてもらうとちょっと熱かった。パスタとはまた違った歯触りの麺がするっと喉を通っていく。汁もいろいろと溶け込んでいるようだが僕には何が使われてるかなんて分からない。うん、悪くないけど何か物足りない感じだ。食べてない具材もあるけれど規定に則って一口ずつと決められているようなのでこの料理についてはここまでだ。

十英傑は僕の表情を伺っているがあまり大きく反応することはない。誰が何を持ってきたのか判らないようにしているのだろう。一喜一憂させるのも面倒なので、僕もできるだけ表情には出さないように努力してみよう。


続いて出てきたのは何やら皮に包まれて焼かれたものだろうか。一面だけ焼かれた同じ形のものがいくつか綺麗に並んでいる。ナターシャは箸で一つ摘まむと何かタレにつけて差し出してくる。


「はい、あーんですよ。」


これずっとやんなきゃいけないのか。ちょっと食べずらいのもあるしどうにかならないだろうか。

おお、焼いてある面はサクッと歯応えが良く、皮の焼かれていない所はしっとりしている。皮の中には肉や野菜を細かくしたものが包まれていたようだ。野菜の甘味と肉の旨みが調和して美味しいです。評価としては一品目より上だな。


三品目、これは何だろう。皿の半分以上を占める柔らかそうなものに茶色いとろみのある餡がたっぷりとかかっている。

ナターシャが箸をいれると簡単にほぐれていく。ほぐれたそれを餡と一緒に匙で掬う。


「はい、どうぞ。あっ、ちょっと垂れてしまいましたね。」


顎の辺りにこぼれ落ちた餡をナターシャが舐めとると一瞬険悪な雰囲気になるかと思ったが全然そんなことはなくて寧ろ温かく見守られてる感じだった。なんだろう、ナターシャは既に嫁認定されているということなのだろうか。「捧げる者」としての団結力が計り知れない。あまり深く考えないでおこう。

お味の方は、餡のしっとり滑らかな味わい深いものは感じられたが、ほぐされていたものは噛むとコリコリした食感が気持ち良かったがそれ自体からはあまり味がしなくて染み込んだ餡しか感じられなかった。うーん、高級そうではあるけど僕の好みではないから暫定三位だな。


次に出てきたものは昨日食べた刺身のようだが、お米の上に乗っかっている。刺身というか乗っかっているものには何種類かあり、僕が食べるものを選んでいいらしい。今、僕の中では海老が流行っているので海老にしようっと。

えー、これも自分で食べちゃダメなの。

ナターシャはそれを指で摘まむと海老に少し醤油をつけて僕の口に入れてくる、尻尾を摘まんで取り去ると指に付いていたお米を食べている。

なんか、やらしいな。

味はまあ美味かった。お米が少し甘酸っぱかったけど僕にしてみればそれがどうしたのって感じだ。一緒に食べる分にはこういうのがいいと思われているんだろうなってぐらいだね。海老に免じて暫定二位だな。


五品目。もう半分か。出てきたのは厚切りで焼かれた肉の塊だ。鉄板の上で脂を撥ねさせながら音を立てている。単純明快に美味そうって感じてしまう。なんか歳を取ると脂っこいものはどうしてもねー、みたいに避けるようになるらしいが若さ溢れる僕には無関係の話だ。一口大に切られた肉が口に運ばれる。

おー、噛めば噛むほど肉汁が溢れてくるようだ。多分魔物の肉だな。美味いです。間違いない美味さが感じられます。暫定一位です。


六品目。あ、これ昼に食べた咖喱だ。間違いない。どろっとしてた方のお店の咖喱だね。

昼に経験していなければ一位になったかもしれないけど二度目だしそこまで感動はない。美味しいことに変わりはないんだけどね。せめて、他の種類の咖喱だったら良かったのにと思う。残念ながら暫定三位かな。


七品目。黒い。黒い棒だ。ところどころに黄色っぽい粒が見て取れる。適当な大きさに切り分けられて黄色いのが何かわかった気がする。栗だと思う。口に入ると、やっぱり栗だった。黒いところは甘い。これはお菓子なのかな。黒いところは上品な甘さがあり、それと栗のほっこりした感じと柔らかな甘さが調和して美味しいとは思う。ただ、残念ながら食べた順番が悪かった。辛い物のすぐ後に甘い者だと、ねえ。暫定四位かな。口の中が甘いのをお茶で初期化する。


八品目。四品目と同じようにいろいろな種類のものがある中から好きなものを選んで食べるようだ。これは揚げているのかな。外見は同じようなものを纏っていて何が揚げられているのかはよく判らない。だが、それでも確実に判るものがあった。そう、この尻尾は紛れもない海老のものだ。なら海老だよね、軽く塩を付けた海老が口に運ばれる。一口では収まらなかったが、まず海老の周りに纏っていたものの歯触り良さを通り過ぎると続いて海老のプリッとした感じが伝わる。残りを咥えながら海老の旨みをかみしめる。この尻尾はそのまま食べられるとのことなので残りの身と一緒にかみしめると簡単に小さく砕けていった。海老っぽいのかなあって味を感じなくもなかったが僕としてはぷりぷりしてるところだけで十分かな。暫定二位で。


残り二品。これって蟹の脚かな。ぐつぐつと沸いている鍋の中に一本の脚を入れて待つことしばし。細かく身が開き始めたところで鍋から取り出されたそれにかぶりつく。あまーい。蟹ってこんなに甘いものだったっけ。もちろん砂糖のような甘さではないけれども甘いと表現したくなるこの味わい。この蟹美味し。鍋の汁もただのお湯じゃなかったようで滴る汁も美味しかったです。暫定一位だな。


最後の一品は…葡萄だった。どこからどう見ても葡萄。誰か一人やる気のない人がいたんだ。それかただの水菓子として用意してくれたんだね。と、口にするまで完全に侮っておりました。一粒口に頬張ると何これ、超美味いんですけど。甘味と酸味が絶妙に調和していて、かつ葡萄としての濃さをとてつもなく強く感じるとても深い味わい。これひと房どころじゃなくてもっと食べたいです。一位決定です。


最後の葡萄が一位であることを伝えると十英傑の明暗が分かれた。


「あーしが一位!?やった。アゲ~。」


「くー、俺様いちおしの最高級の魔物肉はダメだったかー。」


あー、それも美味かったけど相手が悪かったね。

ちなみに出された順番でドライガンの拉麺、ゼクスベルクの餃子、サンクレイドの鱶鰭姿煮、キャトレーブの寿司、ツヴァイクの最高級魔物肉、ディスマルクの咖喱、ユイトセインの栗羊羹、セットフィーネの天麩羅、プリメーラの蟹しゃぶ、ヌフクールの葡萄だったらしい。

順位を振り返ると葡萄、蟹しゃぶ、最高級魔物肉、天麩羅、餃子、咖喱、栗羊羹、寿司、拉麺、鱶鰭姿煮の順だ。

ディスマルクに昼に同じ咖喱を食べたことを伝えると心底悔しがっていた。


「ぐぬぬなのー。なんて間が悪いのー。カナタお馬鹿なのー。」


何故、僕が馬鹿呼ばわりされなければいけないんだ。

その後は、そのまま皆で夕食となった。


「拉麺はあんな匙で食べるより豪快に啜って食べる方が遥かに美味いと思うんだ。一口の制限がなければもう少しいい線いけたと思うんだがなあ。」


ドライガンに言われて試すと確かに麺に汁が絡んで一緒に口に入ってくるのがいい感じだ。そんでもってゼクスベルクの餃子と合わせると相性抜群だと思う。


「今回もあと一歩及ばずだったのだ。残念なのだ。」


蟹しゃぶも本当に美味しかったですよ。ほらほらちょうどいい感じになってるみたいだから一緒に食べましょうよ。

そう言って蟹を取り出してプリメーラの器に入れようとしたが、こっちに入れろとばかりに僕の方に向いて可愛い口を開けてくる。仕方ないので口に入れてあげると嬉しそうな顔で蟹をぱくついている。

これが触ることさえ許してくれなかった人と同一人物とは決して思えないぞ。だが、可愛いので一枚保存しておいた。


うまい王用に皆が用意してくれたものに加えて結構な量を皆で平らげるとお開きの流れになった。

明日の14時開始が決定されるとヌフクール以外は早速明日の準備をするために散って行った。

真面目か。

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