第44話 咖喱
昨日、決めた通りにフォルティスを見て回ろうと思ってはたと気がついた。
ここフォルティスは二千万人を超える人口で「青」が大勢いるということに。
危なかった。気づかずに自動二輪で走り回っていたらデリング達の時のように追いかけられるところだった。うーん、しかし気付いたもののどうしたものだろう。「青」は何らかの方法で僕を認識すると「捧げる者」としての本能が多かれ少なかれ発動する。典型が僕を視界に入れることだ。マイのように探知で捉えた段階でいてもたってもいられなくなったり、エクセラやライラのように第六感でそわそわしていた前例もある。
検索してみるとざっとダンジョンを含めて200人ぐらいいるようだ。放っておけば近日中には勇者機構の手筈で
そうなると自分の目で直に見ることはできないがアレ使うとするか。
あー、ここは昨日みんなで行ったお店だね。飲食できるお店がいっぱいある通りだったんだね。おー、そんなに遠くない所にサンクレイドと行った店もあるね。
そう、
フォルティスの街並みは僕がこれまで訪れたことのある都市とはかなり風景が違って見える。なんて言えばいいんだろう。スッポンのお店もそうだったし、昨日のお店もそうだけどサンクレイドの和装とよく調和するところが多いんだよね。建物は木が多く使われている印象がある。僕の生まれたアムラダとかは基本的に石造りだった。地域的な文化の違いと言えるかもしれないが実はそうではない。
ここフォルティスは勇者機構の中枢だ。勇者は生まれると家族ごとここに連れられてきて懇切丁寧に育てられる。衣食住すべてにおいて何不自由なく過ごしてもらって鍛錬に励んでもらうということだが、歴代の勇者の中には自ら新しいものを開発して広めた者が少なくはない。その一つが和装であり、木造建築だったりということが伝えられている。今にして思えば、「大いなる存在」が異世界から魂を召喚して転生させたとか言ってた勇者の知識によるものなんだろう。そういう経緯がありフォルティスは和装を好む人が集まって生活している場所がそれなりにあるようだ。もしかしなくても絵物語にある侍とか武士もそういう勇者伝来のものだったりするんだろうな。
そろそろお昼時だね。昨日お店に向かう時にも感じたんだけどすごい気になる匂いを漂わせてるお店があったんだよね。何の店だったんだろう。さすがに
思い切って行ってみるか。細い通りの人が少ない時を見計らって転移すると、嗅ぎ覚えのある匂いが早速感じられた。周りに「青」がいないことを確認し、匂いが強くなる方向を探す。目を閉じて嗅覚に全集中だ。勇者の呼吸、壱の型、嗅ぎ取り!
うん、こっちから漂ってくるようだ。匂いのしてくる方へ向かっていくとだんだんと匂いが強く感じられるようになる。周りを確認すると何人か並んでる店がいくつかあり、その内の一つから漂ってきていることが確認できたので列の最後に並ぶ。
10分ほど待つと空いた席に通される。待っている間にどんな食べ物が出されているのかは分かったが味が想像もつかない。
見た目が茶色のどろっとしたものがご飯にかけられている。お客さんは美味しそうに食べてるので大丈夫だとは思うが、これを見てなくていきなりこれを出されたら躊躇うかもしれない。ただ匂いはアレを想像させるような臭さは全くなく、寧ろ食欲をそそられる香辛料をふんだんに使っていそうないい香りだ。
注文できるものは一種類だけで、大中小で量が選べるようだ。見ていると体格のいい人はもれなく大を頼んでいたようだけど、僕は中にしておいた。注文するとさほど待たされることもなく皿が目の前に差し出される。間近で見ると茶色い中に一口に収まりそうな大きさの具材がいくつか見て取れる。赤っぽいのは人参だろうか。玉葱も入っているようだ。角ばっているのは芋かな。肉も入っている。何の肉だろう。茶色いどろっとしたものは茶色一色ではなく、複雑にいろんな色が混ざっている。改めて香りを嗅いでみる。うん、強い香りが鼻を突き上げる感じが心地良くさえ思える。口の中に自然と唾液が溢れてくる。堪えきれず金属製の匙でご飯と一緒に茶色いものを掬って口に放り込む。うおっ、舌に刺さるような刺激がくるぐらいの辛さがまず伝わってくる。こんなに辛いものは食べたことがないと思う。だけど感じられるのは辛さだけではない。一緒に使われている野菜や肉などの旨みが溶け込んでいるのかいろいろな美味しさが口いっぱいに広がる。これ、ダメだ。止まらないよ。次から次へと掬っては口へ放り込む。あっという間に平らげてしまったが食べ終わる頃には薄っすらと汗が吹き出していてそれすら心地よかった。大変美味しくいただきました。
これが僕の咖喱初体験でした。大を頼めばよかったと思わなくもなかったが、僕の食べっぷりに気を良くしたのか店員さんが違う種類の咖喱を出している姉妹店もあるから寄ってみてくれと割引券をくれたので渡りに船とばかりに行ってみた。
姉妹店で出されたのはさっきの咖喱よりしゃばしゃばした感じのものだった。色も茶色い感じはほとんどなくて薄い緑を基調にした感じだった。そこではお米にかけられていなくて、ナンっていう薄く焼かれたものにつけて食べる形だったがそれはそれで美味しかったです。うん、咖喱はまりそう。咖喱もギアードでは見かけなかったから勇者が作らせたものなのかなあ。よほど勇者の食い意地がすごかったんだろうか。でも咖喱をこの世界に残してくれてありがとう。エクセラに教えたら独自の咖喱を作ってくれないかな。海老のぷりぷりした感じで食べてみたいかも。お願いしてみよう。探せばフォルティスにもいろんな咖喱がありそうだし、しばらく咖喱三昧にしてみようかな。
それから呼び出しがかかるまでは自分の部屋に戻って
ざっと分けてみると使っている肉の種類の違いや調理の仕方が異なるもの、肉をそもそも使ってないものや魚介を使っているものもあった。海老を使ってるのもあったので真っ先に行ってみようと思っている。後は汁気の多い少ない、一緒に食べるものの違いもあった。今日、僕が食べたのは白いお米とナンだったけど、お米に咖喱を染み込ませたのか茶色くなってて汁気がほぼない感じのものもあったし、麺類にゆるい咖喱をたっぷりかけているところもあった。
結構な数の店を見つけられたのでしばらく咖喱に困ることはなさそうだ。どういう順番で食べに行こうか考えているとディスマルクから呼び出しがあった。もうそんな時間か。
さてさて、何を食べさせてもらえるのか楽しみだ。気に入るものがいっぱいあるといいな。
心躍らせて食堂へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます