第42話 お魚咥えたどら猫
『ん。』
ユイトセインが何してるか最初は分からなかった。魔法を使っているようだが無詠唱なのでどんな魔法を使っているのかも分からず、射程も長いようでどこに向かって放っているのかも分からなかったからだ。検索で周囲の状況を把握してようやく分かった。ユイトセインがやっていたのは魔法版「岩山落とし」ってところだろうか。魔物を見つけると魔物の上に魔法で大きな岩石を生成して落とす。
次に気になっているのはヌフクールだ。
十英傑の中で戦闘における攻撃力が不足していると思われる二人のうちの一人。もちろん、もう一人はディスマルクだ。一体どんな戦い方をしているのだろう。
『とりま、どーん。』
残念ながら「岩山落とし」をしていた。まぁ、
その後も順番に見せてもらったが七武聖はそれぞれ自分の武器を使っていて「岩山落とし」はしていなかった。魔物への対処は体に染みついているようで難なく屠っていく。何百、何千と繰り返し対峙しているので作業みたいになっていることだろう。それを見てちょっとだけ気になったのは技量が同じかそれ以上だと一刀のもとに叩き伏せるなんてできないだろうなということだった。特に魔物は何種類かの型にはまった攻撃しかしてこないが、人間相手だと予想もつかないことをしてくるかもしれない。魔王対策にはレベルを上げるだけではなく、何かそういう訓練もしておいた方がいいだろうか。でもなあ、七武聖が真剣に対戦したら怪我どころじゃすまないだろうし、「あ、ごめーん。首刎ねちゃった。」って十分あり得そうだ。なにかいい方法はないだろうか。
そんなこんなで終了時間になり全員が戻ってきたのでMPを見せてもらう。
本日の結果はどぅるるるるるるるるるー、どん。プリメーラ7995、ツヴァイク7636、ドライガン7597、キャトレーブ8054、サンクレイド7876、ゼクスベルク7498、セットフィーネ7683、ユイトセイン8032、ヌフクール7414、ディスマルク7765でキャトレーブが勝者でーす。
皆の差はほとんどなくて魔物に効率良く遭遇できたかどうかの運の要素が強くなってきているかもしれない。
「やったにゃ。頑張った甲斐があったにゃ。うれしいにゃ。」
「今日もダメだったのだ。無念だ。」
「悔しいのー。私としたくないからって誤魔化してるのー。」
そんなことは誓ってしていません。
「ん。」
かなりの僅差で二位となったユイトセインも残念そうに項垂れている。でも、手をつく場所は僕の股間じゃなくていいよね。
既にしっぽり権を行使しているセットフィーネとサンクレイドは気分的に余裕があるのかそれほど悔しそうにはしていない。
「今のところ総合一位じゃからな。余裕なのじゃ。」
「拙者は総合三位でござるか。まあまあでござるな。」
「あーしがまた最下位かー。明日もやる系?」
「さすがに明日は休みにしてくれないか。こう連日だとやっぱりつらいぜ。」
筋肉勢も激しく同意している。
「それじゃあ明日は休養日なのー。でも、しっぽり権を行使できる機会は減らしたくないのー。うーん、何するかすぐには思いつかないのー。」
「じゃ、あーしの権利行使してうまい王対決するしー。」
「「「「「「「「「うまい王対決?」」」」」」」」」
「あーしらがカナタっちに美味いもの食べさせてもてなす系~。」
「いいかもなのー。それじゃあ明日の夕食に一人一品持ち寄るのー。誰が何を持ってきたか分からないようにしてカナタに食べさせて気に入った順位をつけてもらうのー。明日の夕食開始は19時にするのー。カナタは準備が出来たら呼ぶからそれまで待ってるのー。」
「それなら体は休められるしいいな。男同士で好みが通じることもあるだろう。勝機があると見たぜ!」
男三人が腕を組んで勝利宣言をしている。暑苦しいな。
「カナタの胃袋を必ず鷲掴みにしてみせるのだ。」
あのー、プリメーラさんや。物理的に掴みそうなのでそれだけはやめてね。
でも、美味しいもの食べさせてくれるなら悪い気はしないな。ついでに明日は完全休養日にしてフォルティスを見て回ろうかな。
サンクレイドが何やらにやついているが、まさかスッポンを出すつもりじゃないだろうな。それは勘弁してほしいぞ。
「調合の腕を存分に振るってみせるのー。盛りまくるのー。」
おい、こら。それやったら絶対許さんぞ。薬物はダメ、ゼッタイ。
「ご飯の前にうちがいいにゃ?それとも後にするにゃ?」
この猫は明日のことはまだどうでもいいらしい。まだいつも食べてる時間には早いけどご飯の話をしてたら食べたくなってしまったから先にご飯にしましょうか。
「うちの贔屓にしている店に行くにゃ。魚の刺身が美味しい店にゃ。カナタもきっと気に入るにゃ。」
やっぱり猫なのか。お魚くわえたどら猫なのか。
「キャット、食事だけ一緒に行ってもいいだろうか。」
「プリムに頼まれていやなんて言わないにゃ。一緒に楽しく食べるにゃ。」
その後、妾も、拙者も、続々と申し出があり、結局十英傑勢揃いで食事することになった。
今日のことしか見えていない猫以外は明日のための様子見なのだろう。既に戦いは始まっているようだ。やる気出し過ぎじゃないのか。でも、そのおかげでこの三日間だけで40万以上のMPを貰っているのでありがたいことには違いない。
「ここにゃ。オヤジ、空いてるかにゃ。」
店主はキャトレーブは顔馴染みで普通に出迎えていたが、その後からぞろぞろと入ってくるのが十英傑だったので驚きを隠せていなかった。ここまで歩いてくる時もだが、十英傑はフォルティスでは普通に顔が知られているようで二度見されまくっていた。全員揃っているのは希少なのだろうか。ツヴァイクは積極的にきれいなおねえさんに愛想を振り撒いていたけどね。適当に空いてるところに座ろうとしたら、気を使われて奥の部屋に案内された。
「刺身が苦手な人はいるかにゃ。」
昨日もスッポンの刺し盛食べたし大丈夫でしょう。
他のみんなも大丈夫みたいだ。
「オヤジ、刺身盛り合わせ十一人前にゃ。旨いところたっぷり頼むにゃ。他にも適当に少しずつ出してくれにゃ。食べたいものがある人は自分で頼むにゃ。」
「あーしは今日は純米大吟醸飲みたい系。あるだけの種類持ってきてほしい系。」
真っ先にヌフクールが頼んでいるが聞きなれない言葉でよく判らない。何かの専門用語だろうか。お酒の種類だろうとは思うんだけどね。
それぞれ好きなものを追加で頼むとしばらくして次々にいろんなものが運ばれてくる。何か運ばれてくる度に最初に僕に食べさせて反応を見ようとしてみんなの視線が集まるので食べにくいったらありゃしない。
「カナタ、これはどうなのだ。いいのか?先っぽと付け根だとどっちの方がいいのだ。」
誤解されないように説明しておくといくつかの種類の肉が刺さっている串焼きを食べさせられています。
鶏肉なのかな。柔らかくて口の中でほろっと崩れるものもあれば、コリコリと歯ごたえのあるところもあって全部美味しくいただいていますよ。
「妾のはどうじゃ。こう、良く揉むのじゃ。あぁ、そうじゃ。もっと強く揉むのじゃ。とてもいいのじゃ。たまにギュッとするのもいいのじゃ。」
念のため説明しますが、揉んで少し柔らかくすると甘さが増す果物を食べさせられています。
確かに揉んでないものと揉んだものを比較して食べましたが、揉んだ方が甘くて美味しかったです。世の中には不思議な食べ物があるんだね。
「ん。」
なんですか、その口に咥えたものは。それをどうしろと。
結構な太さありますよ。ちょっと絵的にまずいですよ。
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