第39話 専用
次の朝、準備を整えた十英傑が続々と集まってくる。
昨日の取り決めのこともあり、順番に僕の所に来るんだけど何故か結構なMPを持っている。多分、昨日あれから目的があって魔物を狩っていたのだろう。半分ぐらいが探知系のスキルを取ったり上げていたりしていた。もう一つ多かったのは移動系や機動系だった。希望を聞いて貯まっているMPでスキルレベルが上げられるなら上げて残りは規定に従ってありがたく受け取った。
ここで気がついたのだが、力を受け取った時にみんな一旦はMPが0になるのだが、次の瞬間には1になっているのだ。そのまま増え続けるのかと思って注視してても見ている間には上がらなかった。どういうことだろう。
そんなことを考えている内に9時になり、それぞれ目的のダンジョンを目指して出て行った。
MP0問題はしばらく考えてはみたが一向にこれだという考えが浮かばなかったので諦めて当初の予定通りにスキルを研究することにした。
スキルの一覧を改めて見ると数えるのも馬鹿らしくなるほどある。順番に見ていこうとするが、すぐに嫌になった。だって、斬撃系の次は魔法、その次は防御系といった具合にあまりに雑多に並んでいて思考が整理しにくいからだ。ちゃんと細かく分類して見易くしてくれないと困るんだけどな。心の中で不満を吐露すると一瞬表示が消えて再度表示されるとスキルの一覧表示の中に「絞り込み条件」と「並び順」が追加されていた。やれるなら最初からやってればいいのに。もう自分の思い通りになることは慣れっこになってきた。これからは躊躇わずにガンガンいこうぜ。
絞り込み条件を見てみると下位、中位、上位の進化区分の選択、斬撃、打撃などの系統による選択があり、並び順にも同じように進化区分の下位から上位、またはその逆か、系統順も選べるようになっていた。
系統の分類がよく分からなかったので、先ずは上位スキルの斬撃系統に絞って見ていくことにした。
先頭にあったのは「断空」。これは勇者が持ってた気がする。説明を見ると「斬撃の上位スキル。斬撃による攻撃に8%+1%×スキルレベルの威力補正を行う。」となっている。僕の「断撃」は「斬撃の中位スキル。斬撃による攻撃に3%+0.5%×スキルレベルの威力補正を行う。」なので威力補正だけでも勇者とは6%の開きがあることになる。ステータスの数値自体の差も考えると本気でかかってこられたら勝負になるわけがないな、と改めて痛感させられた。でも断空がLV10になっても18%の威力補正なんだよね。3倍なんたら拳に比べたら大したことはないなと思わなくもなかった。はて?
その後も順に見ていくと勇者が持ってたなっていうのばかりだった。勇者は剣を主武器にしてるからそうなるのは仕方ないかもしれない。
次に見たのは「勇猛果敢」。これも勇者が持ってたはずだ。説明には「投入した活力の数値に等しい秒数の間だけ攻撃に威力補正を行う。【勇者専用】」とある。
ふーん。へー、そうなんだ。これは手落ちだよね。何が言いたいかというと【勇者専用】ってのがあるならジョブ毎の専用とか限定で絞り込めないと使い勝手がいまいちじゃないかなーということだ。なんとかならないかなーと再び不満を吐露してみると先と同じように再表示された時には絞り込み条件にジョブの選択が追加されていた。
大変よくできました。でかした。褒めて遣わそう。
僕はここで魔王がジョブである確信を得た。だって絞り込み条件のジョブの中に魔王が含まれているんだもの。少しずつではあるが確実に魔王の謎に迫りつつある実感がある。逸る気持ちをおさえつつ魔王による絞り込みを実行する。
表示されたのは唯一つだった。その名も「超回復」。説明は「戦闘中、一回に限り活力を最大値まで回復させられる。【魔王専用】」となっている。
え?これだけですか。あまりにしょぼくないか。「はっはっはー、魔王を倒したとでも思ったか。この程度でやられはせぬぞ。」とか言って復活しておきながら、結局は倒される未来しか見えないんだが。
今度は勇者による絞り込みをかけてみると出るは出るは二百は超えている。おかしい。用意されているスキルだけ見れば明らかに魔王より勇者の方が数も質も有利なように思える。魔王はスキルに頼らない素の力量がすごいのだろうか。超絶強力な武器防具を持っているとか。うーん、それもなんか違う気がする。まさか魔王は勇者に倒されて当たり前、なんじゃないか。今の魔王は何らかの力でそれを覆したのではないだろうか。魔王の謎に迫れたかと思ったが、逆に「今の」魔王の謎が深まった感じだ。
だが、魔王に会うことさえできればいろいろと明らかになるだろう。なんてったって僕はステータスを覗き見ることができるんだから。そのためにも
お、もうこんな時間か。
お昼ご飯を食べて、午後もスキルを眺めて新スキルの検討を進めた。当然全部を見るには時間が足りないので上位スキルに絞ったのだが、今日一日では上位スキルでさえ全部見ることはできなかった。
見た中で心惹かれたのは「必中」だ。弓や投擲に対しての命中補助である「集中」の上位スキルなのだが、「必中」は発動することで必ず当たるようになるのだという。どんな攻撃にでも適用できれば視界を奪われようが必ず当たるので安心して攻撃できるようになるだろう。連撃や魔法と組み合わせて使用できるとなれば外れることを心配しなくて済む。是非とも作りたいスキルだ。
そんなこんなであっという間にもうすぐ16時半を廻る。ぼちぼち帰ってくる十英傑もいるだろうし待っていようということで集合場所に転移した。
しばらくすると最初にユイトセインが戻ってきた。
「ん。」
なんだ、その両手を突き上げて左足を上げた格好は。どこかの川のほとりで見たような見たことないような。
その格好のまま、じっと僕を見ている。なんだろう。MPを教えろということだろうか。教えてやると普通に立ったのでそういうことであってたのだろう。ちなみに21843だった。昨日の成績を鑑みても妥当な数字だろう。
昨日のことに懲りたのかディスマルク、キャトレーブが早目の戻りだ。MPは順に20453、21365だった。
「もう一工夫足りないのー。悔しいのー。」
昨日が失格ではあったが二時間弱ギリギリまで粘っての4052だったのに対して4倍となった8時間の今日は5倍ぐらいのMP量になっているので伸び率としては今のところ一番ではある。言い出しっぺでもあるし、当然ながらやる気はあるようだ。
「長丁場はきついのにゃ。」
昨日だってずっと連続で戦闘を続けられたわけではないだろうけど8時間もあると戦闘と休息の時間配分が更に重要になってくるだろう。そう言えば自慢の技は見せてもらったけど真剣に闘う姿は見せてもらっていないな。明日はそれぞれの戦い方をみせてもらおうかな。
この後は続々と戻り、五分前には全員が戻ってきた。
MPは戻ってきた順にツヴァイク21443、セットフィーネ22059、ドライガン20865、ゼクスベルク20708、ヌフクール19677、サンクレイド22135、プリメーラ22071だ。
「拙者が今日の勝者でござるか。ありがたくしっぽりさせてもらうでござる。」
「僅かに及ばなかったのだ。」
「もう少しで連勝だったのに残念なのじゃ。」
「あーしが最下位かー。明日はどうするか悩む系~。」
悩んだ結果、ヌフクールは時間の短縮を願い出た。連日の長時間の狩りはさすがに十英傑といえども辛いのだろう。
明日は14時から17時での開催となった。
昨日同様に十英傑は僕に力を渡すと明日の準備をするからということで散っていった。
サンクレイド以外からMPを受け取ると僕のMPは70万を超えた。ここらで一度ぱーっと使ってみようかな。
ということで、さっき見ていていいなと思った「必中」を僕なりに改良してみようと理想の形を思い描いてみた。
必ず当たるのは当然として、当たるだけだと大した損傷を与えられないかもしれないから防御の硬いところを避けて急所とかに当たるようにするといいな。僕は「魔眼」を持ってるわけだから相手の急所は把握できるわけだし、そこら辺を加味して消費する気力も抑えたものになるといいな。もちろん、どんな攻撃にも重ねて使えないともったいないよね。
そんな感じで強く強く念じてみると…できた。僕が初めて意識して作り出したスキルの名は「正確無比」。説明には「事前に使用することで消費した気力に百を乗した秒数の間、攻撃対象に確実に損傷を与えるように攻撃を当てることが可能になる。」とあり、ちゃんと思った通りのものになっているようで安心した。MPは…30万ぐらい消費したようだ。初歩的なスキルはMP1000から取得できたのでその消費量にどれほどの効果があるか期待も膨らむ。一度発動してみる。
そんな時サンクレイドから
指定の場所まですぐ来てくれという内容だったので向かうことにした。
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